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episode50 重なる掌


 スキルの継承が終わった。

 奪ったものではなく、受け継いだスキル。


 僕はこれまで野盗たちからいくつもスキルを奪った。

 スキルを悪用する者から奪うことは正義なのだと言い聞かせて。


 僕はモカからスキルを奪った。

 同意の上だった。結果的には奪いきれずモカにスキルが残った。


 いつしか『他人からスキルを奪った』という小さな罪悪感が、心の奥底でおりとなり、重なっていった。


 でも今日は違った。

 大長老の心と一緒に、スキルを初めて受け継いだのだ。



「感動しているところすまないが、さっそくだけどあなたにお客さんのようだ」

「僕に?」



 どう記憶をひっくり返しても、この場所に僕を訪ねてくるような知り合いに心当たりはない。

 いったいお客さんとは誰のことだろうか。


 僕の表情は、例にもれず疑問符を表現していただろうと思う。

 だけど、大長老はそれ以上なにも教えてはくれなかった。


 2分後、ハピラの女性が幼い子供を抱えて入ってきた。

 もちろん僕ではなく、大長老を訪ねて。



「大長老様。一生のお願いでございます。この子を、この子を助けてください! 私の生命ならどれだけ渡しても構いません。死んだって文句は言いません。だから、どうぞこの子だけは。この子だけはお助けください!!」



 女性は子供を床に寝かせると、額をこれでもかと床に擦りつけて、大長老にスキルを使って欲しいと懇願していた。


 子供は服装から察するに、おそらく男の子だろうか。

 まだ5、6歳くらいのように見えた。

 大量の汗をかき、グッタリとしていて意識は無いようだ。


 この女性は、子供の母親なのだろう。


 僕は幼い頃に母を亡くしているから、母の愛というものがよく分からない。

 ただ、母親とはこれほどまでに我が子を慈しむものなのか、と感心した。



「よく来られた。若き希望の子らよ」



 圧倒的なデジャブ。

 大長老の瞳には、10代の僕たちも、おそらく20代であろうこの母親も、同じように子供と映っているらしい。



「願いは分かった。しかし生命を繋ぐスキルは、つい先ほど我が元を離れたところだ」

「そんな!? じゃあ、この子は。この子は助からないのですか!?」

「心配するな。スキルはこの者に受け継がれている」



 大長老が掌を僕の方へ向けた。


 ハピラの女性が僕を見て、ビクッと震えたのが分かった。

 きっとヒュムであることに気づき警戒したのだろう。


 しかし1秒と置かず、再びを額を床につけ、今度は僕に懇願を始めた。



「お名前は存じ上げませんが、大長老様のスキルを受け継がれたあなた様にお願い申し上げます。我が子ジェンドラをお救いください。なにとぞ、なにとぞ」



 僕は慌てて女性の元に駆け寄ると、頭を上げて貰えるよう頼み込んだ。


 2人して頭を下げあってカオス極まる光景だったと思う。



「やります。いえ、やらせてください。でもあなたの生命エネルギーだけではダメです。僕と分けましょう」

「……私も、入れて」

「ちょっとちょっと。私だって協力するわよ。仲間外れにしないでよね」



 僕はシャルティと手を繋ぎ、シャルティがルチアと手を繋ぎ、ルチアが子供の母親と手を繋ぐ。


 3人のエネルギーが左の掌を伝わって、右の掌へと集まっていくのを感じた。



「そのまま、その子に左の掌をかざしなさい」



 大長老の指示通りにすると、少しだけ子供の顔に紅が差してきた。

 しかし、まだまだ快復とはいかないようだ。



「ゴッホ、コホコホ」



 母親が咳き込んだ音が聞こえた。

 もしかすると、母親はすでに看病で疲れ切っているのかもしれない。


 このまま続けるのは危険なのではないだろうか。


 ――ドタドタドタドタ、バタンッ!!



「あ! やっぱりここにいた!! 大長老はもうスキルは使えないって何度言ったら――あれ? これスキル発動してる? でも大長老じゃない……どういう状況!?」

「おっちゃん! ひとりで混乱してるヒマあったら、さっさと手を繋いでくれないかな? もしくは、ほかの人を呼んできて!」

「お、おおう」



 駆け込んできた男性が、状況に混乱したまま、母親と手を繋ぐ。


 そのあとも、次から次に人が入ってきては、まず驚いて、それから手を繋ぐ。


 繋がった手と手が、どんどんと伸びていく。

 行列は家を飛び出しているところまで確認できたが、そこから先は見えない。


 それでも、どんどん顔色が良くなっていく子供の顔を見れば、どれほどの人の手が繋がっているのか分かる。



「……あさん。お母さん」

「ジェンドラ、ジェンドラァァァ!! ああ! ああ! ジェンドラが目を覚ました。ジェンドラがっ」



 意識を取り戻した我が子を、号泣しながら抱きしめる母親。

 僕たちは、ふぅと息を吐いて力を抜いた。



「良かった。助かったみたいだ」

「……うん、良かった」

「本当に大長老のスキルを受け継いだんだね。あんたって本当は凄かったのね。『無能な第二王子』って言われてたのは、もしかして敵を油断させるための偽りの姿ってやつ?」

「いや、そういうわけでは――あー、いや。まあ、そんなところだよ」



 わざと言われていたわけではないのだけど、否定したらしたで、詳しく説明するのが面倒だな、と思ってしまった。


 普段なら時間をかけてでも説明しているところなんだけど、いまはとにかく疲労感がすごい。


 肩は凝っているし、頭は鉛を乗せたように重く感じる。



「あ、そうであった。このスキルは使用者の生命エネルギーが一番吸い取ら……から使……きは気……けて――」



 大長老がなにか言っている。だけど、だんだん声が遠くなっていく。



 僕の意識はそのまま遠くへ出掛けてしまった。


もし「面白そう!」「期待できる!」って思ったら、広告下からブックマークと★を入れてくださいませ。★の数はいくつでも結構です。それだけで作者の気分とランキングが上がります٩(๑`^´๑)۶

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、意識を失っているエヴァルトです。

 強力なスキルは反動も大きい、勉強になりました。

 でもこのスキルならきっとクロ姉も救える!!

 次回、あにコロ『episode51 別れの日』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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