episode05 兄と将軍
(第三者視点)
エヴァルトとシャルティが抜け穴から王都を脱出した頃、ついに、ヴァルデマルとグロン将軍の戦いも決着が着こうとしていた。
「片腕でここまで粘るとは、大した男だ。しかし、あとどれくらい持つかな」
ヴァルデマル配下の兵が槍を構えて、グロン将軍を遠巻きにしている。
更に離れた廊下側には弓兵まで詰めている。
全て、ヴァルデマルのスキル『伝心』で呼び出した応援部隊だ。
「こんなに人を集める予定じゃ無かったんだが。見世物としては悪くないな」
ヴァルデマルは既に剣を納め、成り行きを見守っていた。
「なんの、まだまだ」
「お前の強がりも聞き飽きた。そろそろ、あの混ざりものの後を追わせてやろう」
「なにっ……!?」
混ざりものとは、異なる人種の間から生まれた者を侮辱するときに使われるスラングだ。
ヒュムの中でも、主に純血派と呼ばれる民族主義者たちの間で頻繁に使われている。
そして、グロン将軍の亡き妻は、ヒュムとハピラを親に持つ混血種だった。
大戦が起こる前まではこうした混血種は珍しくなく、ヒュムの血が半分以上入っている混血種は大戦後もヒュムの一員として扱われてきた。
「お前のような頑強なヒュムを殺すのはもったいなくもあるが、混ざりものと婚姻するような不埒者は排除しておいた方が世のためだ」
「きさまっ! 国王陛下を弑逆し、エヴァルト殿下に罪をなすりつけ、我が妻まで愚弄するか!? ……グッ」
怒髪天を衝く様相のグロン将軍に脅威を感じたのか、はたまたヴァルデマルが伝心のスキルで指示を出したのか、後方にいた弓兵が矢を放った。
グロン将軍の身体がぐらりと揺れ、膝をついた。
背中には、20を超える数の矢が刺さっている。
もはや抵抗することも出来ない状態であることは明らかだった。
「本当のことを言われたからといって騒ぐな。将軍ともあろう者がみっともない。……お、良い余興を思いついたぞ」
ヴァルデマルがニヤリと口元を歪める。
「これから、お前が騒ぐたびに槍で刺す。夜明けまで生きて耐えきれば、命だけは助けてやろうじゃないか」
「なっ…………」
グロン将軍は、ヴァルデマルの悪趣味な提案に顔をしかめた。
「夜明けまでは……あと2時間といったところか。さて、まずは所信表明といこう。俺が王になったら、軍備を増強し、ヒュムによる国土の完全統一を成してみせよう」
「国土の完全統一、だと?」
「そうだ。ヒュム以外の種は劣等種である。この国には純血のヒュム以外存在してはならない」
「きさまぁ! 本気で言っているのか!?……ぐふぁっ」
グロン将軍の腹部に深々と槍が刺さる。
「一本目。もちろん、本気に決まっている。まずは大戦で我々ヒュムに逆らったリザド・オルガ・コボル・ハピラ。次は卑怯にも裏で武器を支援していたドワフ。そして、自分達は関係ないとすまし顔をしているエルフだ。あとは目障りなホビトを掃除して回れば、この国もやっと綺麗になる」
「バカな! そんなことをすれば、先の大戦の再来だぞ!……ごふっ」
兵士の槍が、グロン将軍の肺のあたりを貫通する。
「二本目。大戦だと? バカらしい。ヴィスタネル大戦に敗北し、もはや統率の取れていない劣等種共を狩るだけだの簡単な仕事だ。ただのハンティングじゃないか」
「人を……、人の命をなんだと思っている!!……があぁっ」
今度は太ももに槍が生えた。
「三本目。そろそろ刺すところが無くなってきたな。さて、質問の答えだが……人は慈しむべきだ。当然だろう。だが、劣等種共は果たして人なのか? 炎や雷を操るエルフ、異形に変身するコボル、あんな奴らはただの怪物だ。もちろん、怪物の血が混じっている人も、な。安心しろ、お前の娘も怪物として、ちゃんと殺処分しておいてやる」
「なっ! きさま、娘に手を出すことだけは、絶対にっ――ぬあぁぁぁ!」
グロン将軍の背後から肩口に槍が刺さる。
「四本目。まだ倒れぬか。夫婦そろってしぶとい奴らだ」
「なにっ!?」
「おっと、口が滑ってしまった。わざわざ強盗の仕業ということで処理させたのに」
最愛の妻を殺した犯人が目の前にいた。降って湧いた真実に、グロン将軍の目の前は真っ白になった。
「きさまーーーーーーーーーーっ」
グロン将軍は、もはや動かなくなっていた身体を無理やりに動かし、立ち上がる勢いでヴァルデマルに斬りかかる。
しかし、その剣はヴァルデマルに届くことはなかった。
四方から槍で串刺しにされたグロン将軍は、憤怒の表情のまま息絶えた。
ヴィスタネル王家を支え続けてきた偉大なる将軍の命は、王家の手で刈り取られた。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <各人種の特徴① ヒュムとエルフ>
☆ヒュム
特筆すべき外見的特徴の無い種。ある思想家が「ヒュムこそが無駄なものが全て削ぎ落された人の完成体である」としてヒュムが優良種、それ以外は劣等種とであると発表。この考えは多くのヒュムに受け入れられ、純血派と呼ばれる民族主義者が多く生まれた。
スキルは「超人型」と呼ばれ、人間の能力(第六感、超常的な力を含む)の延長線上にある能力であることが特徴。
☆エルフ
長身で尖った耳が外見的特徴の種。先祖代々住み続けている森を種の根城とし、外部との交流も拒絶している引きこもり集団。時折、森を捨てたエルフが外界に出てきて護衛の仕事をしていることがあるが、とても珍しい。
スキルは「属性型」と呼ばれ、炎、雷、風などを操る魔法のような能力であることが特徴。
★次回予告★
俺がこの国の第一王子、ヴァルデマルだ。
いや、もうすぐ国王のヴァルデマル陛下だ。
エヴァルトよ、この俺から逃げられると思うなよ。
次回、あにコロ『episode06 人相書き』
いいから読め、読まねば殺す!
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