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episode49 心を繋ぐ


 なにはともあれ、最長老に挨拶はしておくべきだろう。

 ということで、僕たちはルチアの案内で最長老を訪ねた。


 最長老の家はとても簡素な、言葉を選ばずに言うなら()()()()だった。

 10畳くらいの広さの部屋で、大きな座椅子に座っている最長老は、さながら田舎のおじいちゃんといった雰囲気だ。



「よく来られた。若き希望の子らよ」

「……希望の子、私たち?」

「子供は、誰もが明日への希望だ」


 10代の僕らなんて最長老から見たら赤ちゃんと大差ないのだろう。

 ざっと計算しても5~6倍は生きているのだから。


 しかし、大長老が滑舌よくしゃべる姿を見ていると、とても100歳を超えているとは思えない。

 しかも、ちょっとしゃべり方が若い。コボルのマタリ長老の方がよっぽど年寄りじみたしゃべり方をする。



「あなたがレイナスの娘さんかな?」

「……はい、シャルティです」

「少し近くに寄って貰えるかい? もう目があまり見えなくてね」



 シャルティが大長老の側に近寄ると、大長老は細い目を少しだけ開いた。



「なるほど。確かにレイナスの若い頃によく似ている。もちろん、ルノラの面影もある。確かにあの子の娘だ」



 大長老が、愛おしそうにシャルティの頭を撫でた。

 シャルティも大人しく撫でられている。


 わりと貴重な光景なのでは?


 初めて会った人なのに、初めて訪れた場所なのに、ずっと前から知っているような安心感。

 空間全体が、あたたかな空気に包まれていく感覚。


 大長老の人柄によるものなのだろうか。



「そちらがシャルティのついの翼かな?」



 大長老が僕の方を見ながら言った。

 対の翼? いったい何のことだろうか。


 僕がポカンとしていると、ルチアからツンツンと脇腹を突かれた。



「対の翼っていうのは、恋人とか夫婦の相手ってことよ」



 そういうことか!

 言われてみれば門番のおじさんも「翼はついで無ければならない」とか言ってたな。



「あっ。えっと、その、はい。そうです。エヴァルトです」

「あなたもよく来られた。私たちのシャルティをこれからもよろしく頼む」

「は、はい! もちろんです」



 自分より5倍以上も長生きしている大長老にあらたまってお願いされると、ウソを吐いていることにちょっとした負い目を感じた。


 でも、シャルティのことを守るという気持ちにウソはない。



「実を言うと、あなた達が来られることは知っていた」

「「え!?」」

「正確には、山の外から子供たちが私を訪ねてくると知っていた。ここには、そういうスキルを持つ者がおるのだ」



 予知のスキルということだろうか。

 ハピラのスキルは治療や蘇生といった生命や魂に作用する能力と聞いていたのだけど……。



「ハピラのスキルと違う、か?」



 また顔に出てしまっていたのだろうか。

 抱いていた疑問をピタリと当てられてしまった。



「その子はハピラだ。だが、ヒュムでもある」

「あ!」



 そうか。

 巷で語られている人種によるスキルタイプの違いは、あくまでこれまでの歴史で見られてきた経験則のようなものだ。

 おそらく、ハーフやクォーターといった例外を考慮に入れていない。

 

 そしてここには、クォーターのルチアがいるし、ルチアの親はヒュムとのハーフのはずだ。



「その者は、こうも言った。子供のひとりが、私のスキルを受け継いでくれる、と。これはあなたのことで合っているかな?」

「それは……はい」



 歯切れの悪い返事をしてしまった。

 たしかに僕は、クロ姉を助けられるかもしれない最長老のスキルに期待していた。


 譲ってくれるというのなら、喜んで譲り受けたい。


 だけど、なんだかズルいような気もしていた。

 予知に全ての責任を押し付けているような気がした。


 最長老のスキルを欲しているのは僕の個人的な理由なのだ。

 本来なら、僕の方から頭を下げなくてはならない。


 いや今からでも遅くはない。


 僕は、大長老に深く頭を下げた。



「大長老、お願いします。あなたのスキルを僕に譲って頂きたい」



 隣でルチアが目を丸くしている。



「えー? あんたってそんなこと出来るの!? エヴァルトって、あの有名な『無能な第二王子』よね? 見栄張ってない?」

「……ルチア、静かに」



 混乱して騒ぎ出したルチアをシャルティが止めてくれたようだ。

 頭を下げているから、声しか聞こえないのだけど。



「もちろん、かまわないよ。ただ譲るんじゃない、受け継いでもらいたい。私の想いと一緒に」

「譲るのではなく、受け継ぐ……」



 僕は頭を上げて、大長老の目を見た。

 大長老はやはり細い目を少しだけ開けて、僕の目を力強く見ている。



「そう。受け継ぐのだ。私はこのスキルを得てから多くの人に生命エネルギーを受け渡してきた。1人が弱っても99人が少しづつ生命エネルギーを渡せば、100人が元気でいられる、分かるな?」

「はい、分かります」

「しかし生命エネルギーを分けてくれる人がいなければ、このスキルはとても無力だ。1人か2人、なんとか救えたとしても自身の生命エネルギーが足りなくなる。ではどうすれば良いだろうか?」

「仲間を増やします」

「そうだ、信頼できる仲間と、家族を増やしなさい。国中の人が手と手を取り合い、生命エネルギーを分かちあえば、全ての人がずっと元気でいられる。それが私の理想、私の想いだ」



 運命を感じた。

 大長老が目指す理想は、僕が目指す国の姿と完全に一致している。


 繋いだ手を、更に多くの人々の手に繋げていくことで『信の』を作る。



「約束します」



 僕の返事に、大長老は満足そうに頷いていた。



 僕は神聖型スキル【生命力移動】を受け継いだ。大長老の想いと一緒に。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 繋いだ手を、次へ、次へと繋いでいく。

 僕と大長老の理想を実現するために、僕はこれから王家と戦う。

 全ての人が手を繋いで生きていける国をつくるために。

 次回、あにコロ『episode50 重なる掌』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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