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episode45 頼みの綱


 僕たちは帰り道でコボルの村に寄って、モカをマタリ長老に引き渡した。

 マタリ長老は、飛び掛かるような勢いでモカを迎えに出てきた。



「モーカレラ! ケガはないか? 怖い目には合わなかったか?」

「だいじょうぶだよぉ♪ おじいちゃんは心配しすぎぃ」

「かあーーっ! 水蛇ヒュドラのマタリが孫バカになっとる!! こんな面白いもんが見れるとは、長生きしてみるもんじゃ」

「おまえ、もしかしてモンセノーか!? なんじゃその髭は! モッジャモジャじゃのぉ」

「髭はどっちもどっちじゃろ」



 もっと険悪なのかと思ったが、マタリ長老とモンセノーは軽口を叩き合っていた。

 もしかすると、30年の年月が彼らの関係を丸くしてくれたのかもしれない。


 城の改修には人手が必要だ。

 いかにモンセノーが建築のたくみとはいえ、1人で全部仕上げるわけではない。


 マタリ長老は、リザドの村にも声を掛けて人を集めてくることを約束してくれた。

 僕とシャルティはモンセノーとアヴェールの古城へと帰る。


 モンセノーが外壁から城の状態を確認している中、城内で僕らを待っていたのは、意識不明になったクロ姉だった。

 クロ姉の側にはダイサツが立っている。



「クロ姉に、なにがあったの?」

「わからナイ。朝起きてこなかっタ。部屋を覗いたら倒れてイタ」

「そっか。ダイサツが助けてくれたんだね。ありがとう」

「呼吸も、心拍も、小サイ。でもまだ生きテル」



 耳を澄ますと、すごく小さな呼吸音が聞こえる。



「これ、クローネの机にアッタ」



 ダイサツから渡されたのは皮紙ひしとウッドリングだった。


 僕はウッドリングを机の上に置いて、丸まった皮紙を開く。


 皮紙はクロ姉の手記。書かれていた内容が、あまりにも衝撃的で僕は口をぽかんと開けたまま固まってしまった。


 呆然とする僕の手から、シャルティが手記を奪い取って読む。

 シャルティはそのまま座り込んでしまった。


 クロ姉が未来からやってきたシャルティだった!?


 こんな荒唐無稽こうとうむけいな話を鵜呑うのみにすることは出来ない。


 そうさ、こんなものはクロ姉が仕掛けたイタズラに決まっている。

 倒れたのだってきっと僕たちを驚かすために――。



「……殿下、これ見て」



 シャルティが、さっき机に置いておいたウッドリングを手に持っている。



「これが、どうかしたの?」



 正直、今はウッドリングなんてどうでもいい。

 クロ姉の悪ふざけをやめさせて、心配させるなって説教してやるんだ。


 シャルティは黙って、首に下げていたペンダントを見せる。


 このペンダントは……王都を脱出するときに見たものに違いない。

 トップに下がっているのはたしか、母親の形見の――ウッドリング。



「……リングの、内側」



 シャルティに促されて、恐る恐るリングの内側を覗き込む。

 2つのウッドリングは、内側に同じ文様が掘ってあった。



「……これ、ハピラ文字。……母さま、彫った」



 これ以上の証拠はない。

 クロ姉もそのためにウッドリングを一緒に置いておいたのだろう。


 世界に1つしか存在しないハズのものが、確かに2つ存在していた。



「間違い……ないんだね」



 シャルティが静かに頷く。

 ここまで揃えば、もう納得するしかない。


 クロ姉はシャルティで、彼女がいた未来では僕はヴァルデマルに殺されている。


 クロ姉はそんな未来を変えるために僕たちを助けに来てくれた。


 その代償として、いま死の渕にいる。


 僕たちはまだ、クロ姉になにも恩返し出来ていない。



「ねえ、シャルティ。クロ姉を……クロ姉を助ける方法、知らない?」

「……心当たり、ある。……ハピラなら、もしかしたら」

「そっか。ハピラのスキルは神聖型。生命や魂に作用する能力が特徴だ。彼らの中になら、クロ姉を助けられるスキルの持ち主がいるかもしれない!!」

「……でも、問題がある。……居場所が、分からない」



 そうだ。秘密主義のハピラは、外界との交流はするものの、決して自分達の住処すみかを明かさない。



「くそっ! クロ姉を助けられるかもしれないのにっ!!」

「我は知っているゾ」

「そうさ、分かってる。ハピラの住処を知っている人なんて、居いやしな――えっ?」

「……ダイサツ、知ってるの?」

「そうダ。我は知っているゾ」

「え? なんで?」

「大戦で村を失った我ら一族をかくまってくれたのはハピラなのダ。我とサラーマはハピラの里で生まれタ」

「そうなの!? ってことはオルガの生き残りもハピラと一緒にいるってこと? どうして教えてくれなかったのさ!?」

「聞かれてないカラ。聞かれていれば答えタ」



 そうだろうけども!

 いや、盲点だった。


 まさか、仲間が集まって暮らしている場所があるのに、1人で(2人で?)古城に住んでいたとは思わなかったんだ。



「ちなみに……なんでアヴェールの古城に住んでたの?」

「お城住んでみたカッタ。憧れダッタ」



 そうかぁ。住んでみたかったのかぁ。憧れだったのかぁ。

 じゃあ、仕方ないなぁ。



「そっか。住んでみてどうだった?」

「我だけでは広すぎるナ」

「だろうね」



 そもそもお城は、大勢の召使いと一緒に住む設計になってるからね。



「それで……ハピラはどこに住んでるの?」

「雲の上ダ」

「は、はははっ。ダイサツも冗談とか言うんダネ」

「本当ダ」




 マジで? ハピラって本当に天使なのかな?




―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 クロ姉、僕はこれからもクロ姉って呼ぶよ。

 シャルティが2人じゃ呼ぶときに困っちゃうし。 

 クロ姉を助けるためなら、たとえ火の中、水の中、雲の上!

 次回、あにコロ『episode46 雲上の地』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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