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episode43 抱腹絶倒


「あいつらは、ヴァルデマル王の使いで5000本もの剣を買いに来たそうです」



 宿から出てきたナホロス達を指差して、モンセノーに説明すると、彼は目を()いて驚いた。




「5000!? なんじゃ、新しい国王とやらは(いくさ)でも始める気か?」



 僕らはヴァルデマルが純血派であること、そして恐らくヒュム以外の人種を掃討する準備を始めていることを知っているが、それをいま伝えたところでモンセノーを笑わせることは出来ない。



「さあ、どうなんでしょう。これから鍛冶屋へ行くようですが、もちろん5000本の剣なんてありません」

「そりゃ、そうじゃ。この谷にある剣を全て集めても1000本あるかないか、といったところじゃろうて」

「さて、5000本の剣が無い、となったら……彼らはどうするでしょうね」

「う、むぅ。この谷で暴れられてはかなわんな」

「ええ。僕もそうです。なので、これからあいつらを追い払おうと思います」



 僕の言葉を聞いて、モンセノーはニヤリと笑った。



「読めたぞ、小僧。おまえさん、あいつらを追い払ってやるから、ワシに城の方を手伝えと言うつもりじゃろう。そうは問屋が降ろさ――」

「そんなこと言わないですよ。問屋も降ろさなくて大丈夫です。ただ、僕があいつらを追い払うところを見ていて欲しい、それだけです」

「それだけでいいのか? いけ好かない王家の奴らを追い払うところなら、頼まれなくても見てやるわい」



 そこまで聞くと、僕は【犬化】で犬に変化した。

 髪の色と同じ赤茶色の犬。

 脱げてしまった服をシャルティに預ける。



「それじゃ、シャルティ、モカ、行ってくるよ」

「……うん、気をつけて」

「モカもぉ、頑張るよ♪」

「ああ、モカの役目も重要だからね。頼んだよ」



 僕は屋根の上から飛び降りて、ナホロスの行く手を(さえぎ)った。



「セバスサン」



 ナホロスが執事のセバスサンを呼んだ。

 犬を追い払うくらい自分でしろっての。


 セバスサンが一歩進んだタイミングで、僕はナホロスに飛び掛かった。


 噛みつくためではない。

 あいつの(えり)についているバッジを奪うためだ。


 王城にいたころから、あいつはいつも「小生は王族だ」「小生の家紋を見ろ」と城の者達に自慢していた。


 バッジを奪えば、あいつらは僕を追わざるをえないはずだ。


 (しか)して、狙いはピタリとハマった。



「おのれー!! 犬畜生の分際で!! なんという無礼な!!」

「すぐに取り返しますので、ご安心を!! お前ら、いくぞ!!」



 ナホロスのバッジを取り返そうと、セバスサンと王国兵たちが追いかけてくる。


 ナホロスだけ残られると厄介だな、と思っていたがしっかり付いてきているようだ。



「むほほほほほほ。もう逃げ場は無いのである」



 僕は倒れた巨木を背にして、わざと囲まれた。

 ここが目的地だからだ。


 ドワフの谷からも離れているから、少々無茶なことをしても谷の人々の迷惑にならない。


 犬の姿のまま、雑草に触れて【植物操作】を発動する。



「う、うわぁぁぁぁぁ」

「ど、どうことである!?」



 ちょっと草を足に巻きつけてやっただけで、上を下への大騒ぎだ。


 次は【竜巻】を使う。

 実戦で使うのは初めてだから、昨日少し練習した。


 強すぎず、弱すぎず、樹木はそのままに木の実だけ飛ばすのは、力加減が難しかった。


 さらに、飛んでいく木の実の動きを【念動力】でサポートして、全てナホロス達の方へ飛ばしてやった。


 そして、今のうちに僕自身も山の上の方へと移動しておく。


 バッジは……もう要らないや。



「いたっ! 痛いのである!!」

「ナホロス様! ぬおおおぉぉぉぉ」

「セバスサン! セバスサン!! なんとかするのである!」



 ――ブチブチブチブチブチ


 セバスサンが剣で草を断ち切り、ナホロスの元へ駆け寄っていく。

 ナホロスにはもったいないくらい忠誠心に厚い男だ。



「ナホロス様! 御無事ですか!!」

「無事なわけがないのである」



 そこはちゃんと御礼言っておけよ……。


 まあ、いい。

 そろそろ次の段階へ進もう。


 ――振動


 ただ揺らすスキル。

 ゆっくり大きく地面を揺らせば、それはもう地震だ。



「竜巻の次は地震!? この場所は! この谷は! きっと呪われているのである!!!」



 呪いとか言いだした。ウケる。

 あいつ王都に戻ったら「呪いの谷」とか言いだしそうだな。



 ナホロスも、セバスサンも、王国兵たちも、みな震え上がり、肩を寄せ合っている。


 最後の仕上げだ。

 僕の周りには水の入った皮袋が山のように積んである。


 昨日、放水で予め準備しておいた水。

 それを【物質縮小】で1/10サイズにして革袋に詰めておいた。


 物質縮小のスキル効果を、いま解除すると、ここにある革袋の水の、10倍の量の水があいつらを襲うことになる。



「よーい、どん!」



 ――ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


「ナホロス様! 水です! 洪水でございます!」

「どうしたら、山で洪水が起こるのであるか!?」

「わかりませぬーーーーー!!!」



 大量の水と、ナホロス達の追いかけっこが始まった。

 僕は、後ろからさらに全力で水を追加し続ける。



 水から逃れるために、山の斜面を駆け下りていくナホロス達。

 もちろん、水の圧勝だった。


 あっという間に山の麓へと流されていくナホロス達を見届けると、レッドドラゴンに変化したモカが、ドスンと降りてきた。


 モンセノーに、ナホロス達の無様な姿を見せるため、モカが特等席になってくれたのだ。


 あとはモンセノーが爆笑していれば、僕たちの勝ちだ。


 しかし、モカの上からモンセノーが降りてくる気配がない。

 もちろん笑い声も聞こえてこない。


 まさか……、これでもダメなのか……。

 僕がモカの背の上を覗くと――。


 お腹を抱えて、涙目になっているモンセノーがいた。

 笑いすぎて、もう呼吸もうまく出来ていないようだった。



 この勝負。僕たちの勝ちだ!

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 この谷は呪われている、とか言ってるナホロスの顔が最高だった。

 ナホロス達は追い払えたし、モンセノーも笑わせたし。

 そろそろ城に帰ろうか。あ! 剣も受け取らないと。

 次回、あにコロ『episode44 風前の灯』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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