表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/80

episode42 谷の呪い

(ナホロス視点)

「セバスサン! セバスサンはどこである!?」

「ははっ! セバスサンはここにおります!! ナホロス様のご体調はいかがでしょうか?」

「うむ! 全く問題無いのである」



 昨日の体調不良は、宿に戻った頃にはすっかり治っていたのである。


 きっと、昨日の刀鍛冶があまりにも失礼だったから、身体が拒否反応を起こしたに違いないのである。


 しかし、小生は重大な任務を抱えているからして、もう一度、あの鍛冶屋に行かなくてはならないのである。


 いまの時刻は朝の9時30分。

 ちょっと早めに行って、刀鍛冶のやつをビビらせてやるのである。



「セバスサン! 兵達の準備も良いであるか?」

「はっ! 兵士8名も準備OKであります!」



 昨日は他の店を回らせていた兵士も、今日は全員連れていくのである。


 刀鍛冶のやつ、これだけの兵に囲まれたら、腰を抜かすに違いないのである。


 ――ザッザッザッザッザッ


 兵を引き連れて、道の真ん中を闊歩(かっぽ)すると気持ちがいいのである。


 小生が気持ちよく歩いているところに、赤茶色の犬が出てきた。


 小生の歩む道に立ちふさがるとはいい度胸である。



「セバスサン」



 声を掛けるとセバスサンが、犬を追い払おうと一歩前に出た。

 しかし犬は、とても犬とは思えないような跳躍力で、こちらに飛び掛かってきた。



「ひっ、ひいぃぃぃぃぃ」



 犬は小生の身体にぶつかると、そのまま走り去っていく。



「ナホロス様、お怪我はございませぬか? ――ああっ! ナホロス様! 家紋のバッジが無くなっておりますぞ!!」



 セバスサンに言われて胸元を探ると、(えり)につけていたはずのバッジが無くなっていた。



「なんと!? どこかに落ちたであるか? 探すのである!!」

「はっ!! …………ナホロス様!! さっきの犬が!!」



 セバスサンが指差した方向に、さっきの赤茶色の犬がいた。

 あろうことか、小生の家紋バッジを咥えているのである。



「おのれー!! 犬畜生の分際で!! なんという無礼な!!」

「すぐに取り返しますので、ご安心を!! お前ら、いくぞ!!」

「ははっ」



 セバスサンと兵達が犬を追いかけていく。

 小生を置いて全員で。



「まっ、待つのである! 小生も行くのである!!」



 兵達の後ろにつくかたちで、小生も犬を追いかけた。

 犬はドワフの谷を出て、さらに走っていく。



「ハァ、ハァ、い、いったい、ハァ、ハァ。どこまで、行くつもりで、あるか」

「ナホロス様! この先は行き止まりです! 追い詰めましょう!!」



 倒れた巨木で行き止まりになった道。

 小生たちは、ついに犬畜生を追い詰めたのである。



「むほほほほほほ。もう逃げ場は無いのである」



 犬は観念したのか、静かに座っていた。



「う、うわぁぁぁぁぁ」



 突然、背後で兵士の悲鳴が聞こえた。

 振り向くと、兵士の足に草が巻き付いている。



「ど、どうことである!?」



 兵士の方へ駆け寄ろうとするが、足が動かない。

 下をみると、小生の足にも草が巻き付いていた。


 ――ビュオオオォォォォォ


 激しい風の音。

 横を見ると、規模は小さいが竜巻が起こっている。


 ――ゴン! ゴス! ゴス!



 「いたっ! 痛いのである!!」



 周りの木々に()っている固い木の実が飛ばされているのだ。


 逃げようにも足を取られていて逃げられない。


 それにしても、狙ったように小生たちの方へ飛んでくるのはどういうことであるか。



「ナホロス様! ぬおおおぉぉぉぉ」

「セバスサン! セバスサン!! なんとかするのである!」



 ――ブチブチブチブチブチ


 セバスサンが剣で草を断ち切り、ナホロスの元へ駆け寄る。



「ナホロス様! 御無事ですか!!」

「無事なわけがないのである」



 10分か、30分か、もしかしたら1分も無かったかもしれない。小生は、セバスサンに庇われる体勢で竜巻が収まるのを待った。



「ふぅ。落ち着いたのである」



 そうだ! 犬! あの犬畜生はどこへ行ったのであるか!?


 さっきまで犬がいた方を見るが、もう姿は無かった。


 代わりに、小生のバッジがポツンと転がっていた。



「犬畜生には逃げられたが、バッジは置いていったようである」

「はっ! そのようで」



 足に絡む草を断ち切り、バッジを拾った。

 そのとき、目の前の大木が上下に震えた。


 いや、大木だけじゃない。

 辺り一面が上下に揺れているのである。



「これは、地面が……揺れているのであるか?」

「はっ! そのようで」



 地面の揺れはどんどん大きくなる。

 もはや、立っているのがやっとなほどだ。



「竜巻の次は地震!? この場所は! この谷は! きっと呪われているのである!!!」



 兵達も明らかに動揺していた。

 自然と、寄り添うように10人が集まる。


 地震が徐々に収まってきて、胸をなでおろす。

 しかし、ホッとしたのも束の間。



 ――ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!



 何か大きなものが迫ってくる音が聞こえた。



「今度は一体なんである!?」

「ナホロス様! 水です! 洪水でございます!」

「どうしたら、山で洪水が起こるのであるか!?」

「わかりませぬーーーーー!!!」



 洪水から逃げるために山の斜面を駆け下りた。

 しかし、水が迫るスピードに勝てるはずもなく――。


 小生たちは、あっという間に山の麓まで流されてしまった。



「ナホロス様……」

「セバスサン……」



 小生は、セバスサンと顔を見合わせた。

 一体、何が起こったのか、今でも理解できていないのである。


 兵達も身体を抱き合って震えていた。

 これ以上、この場所にいることを身体が拒絶している。



「セバスサン、王都へ帰るのである」

「はっ! お荷物はいかがいたしましょう」

「あんなものは捨てていくのである」



 兵達もブンブンと大きく首を縦に振って、ナホロスの判断を支持していた。


 優秀な指揮官というものは、兵達の気持ちを汲み取り、引くべき時は引くのである。



 王都へ戻った小生が、ヴァルデマル王から「子供のお使いの方がまだマシだな」と鼻で笑われたのは、言うまでも無いのである。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 小生が王族イチ容姿端麗で、王族イチ頭脳明晰なナホロスである。

 ドワフの谷は怖いところである。二度と行きたくないのである。

 ヴァルデマル王も自分で行ってみたらいいのである。きっと失禁するのである。

 次回、あにコロ『episode43 抱腹絶倒』

 もちろん、読むのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ