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episode41 カスハラ


「せーのぉ♪ むぅーーーーーーーー」

「ふん、ダメじゃダメじゃ。話にならん」



 建築の(たくみ)、モンセノーの表情はピクリとも動かなかった。


 モカ渾身(こんしん)の変顔でもダメだったか。

 これまで、ダジャレ、小噺(こばなし)、モノマネと試してきたが、どれもモンセノーには刺さらなかった。



「シャルティ、モカ。ちょっと休憩しよう」

「なんじゃ、もう終わりか。これだから今どきの若いモンは」

「作戦会議ですよ。このあと腹を抱えて笑うことになるんですから、首を洗って待っていてくださいね」



 なんとも腹の立つジジィだ。

 仕事を頼みに来た人には必ずこんな条件を突き付けているのだろうか。


 モンセノーの話をすると、マタリ長老とゴダーン村長が遠い目をする気持ちが分かった気がする。



「そうだ、昨日預けた剣の様子を見に行ってもいい?」

「……直ってると、いいね」

「シャルに聞いたよぉ。形見の剣なんだってねぇ。早く直るといいねぇ」



 事情が事情なだけに、2人がとてもやさしい。

 昨日の鍛冶屋の前まで来ると、


 ――ガシャン! ガララーーーン!!! と店内で金属が倒れる音がした。



「ごちゃごちゃ言わずに、言われた通りに武器を渡すのである!」

「んなこと言われてもよぉ、先客もいるわけだし。いきなり5000本もの数の剣を用意しろって言われても無理だよ、無理。ほか当たってくれ」

「こっちは金を払う客なのである。商人が客の言うことを聞くのは当然なのである。貴様はどんな手を使ってでも5000本の剣を用意する責任があるのである!!」

 



 誰がどう聞いても客の方が無茶苦茶なことを言っている。

 こういうのを客の過度なクレームカスタマーハラスメントって言うのかな。


 刀鍛冶のオヤジもいい加減イライラしているようだ。


 それと……。この客の声と喋り方に、なんだか聞き覚えがあるような……。

 なんなら、わりと最近聞いた気がする。



「あんたの『当然』なんか知ったこっちゃねぇんだよ。」

「なんと!? 王族の一員たる小生に向かって、なんと無礼千万!!」

「ショウ、セイ? なんだそりゃ。あんたの名前か?」

「小生の名はナホロスである! 小生は恐れ多くも国王陛下の使いとして、ここへ来ているのである!!」



 やっぱりお前かーーーーー!!!!

 相変わらずムカつく髭してんだろうなぁ。ここからじゃ見えないけど。


 今すぐ出て行ってナホロスをボッコボコにして、刀鍛冶のオヤジを助け出したいところだけど、僕とシャルティが見つかったら、ドワフの谷に迷惑がかかる。


 助けるなら、コッソリと。

 店の方を覗き込むと、ナホロスのほかに王国兵が3人いた。


 なるべく自然に、こいつらを追い払いたい。

 なにか使えるものがないか、あたりを見渡すと丁度良いものを見つけた。


 僕は足元に生えていた雑草についている実を摘まんで、ナホロスの方へヒョイとなげた。


 ナホロスまでの距離は10メートル以上あるし、邪魔な王国兵も立っているが、【追尾】のスキルがあれば百発百中だ。


 雑草の実は、ナホロスの後頭部にピタリと着地した。



「わぁ、ひっついたぁ♪ すごぉい」

「この雑草はオナモミ、通称『ひっつきむし』だよ。その名の通り、髪やら服やらにピタッとくっつくんだ」

「……オナモミ、懐かしい。……昔は、よく遊んだ」

「そうそう。二人でくっつけ合って遊んでたっけな」

「ええぇ、いいなぁ。こんどは、モカも一緒に遊んでねぇ♪」

「……うん、あそぼ」



 シャルティとモカは、ナホロスのことなんか忘れたかのように、オナモミを飛ばして遊び始めた。


 ナホロスもまさか、賞金首がこんなところで子供みたいなことをして遊んでいるとは思うまい。



「国王の使いだか、母ちゃんのお使いだか知らねぇけどよ。無理なもんは無理だ。さっさと出ていけ!」

「いいや、小生は貴様が剣を5000本用意するまでは出て行かないのである!」

「てめぇが居座ってっと、他の客が入ってこれねェだろうがよ」



 刀鍛冶のオヤジと、ナホロスの押し問答が続いている。

 このままだと先にオヤジの方がブチ切れそうだ。


 そして…………仕上げをすっかり忘れていた。


 後頭部にオナモミをつけて終わりじゃ、ただのガキの悪戯(いたずら)だ。

 僕はオナモミに付与しておいた【重力操作】を発動した。



「ん、んん??」



 ナホロスが急に頭を押さえだす。



「なんだか急に頭が重くなってきたのである。きっと、この低能の分からず屋と話していたせいである」

「なんだと、てめぇ!」



 ナホロスの頭部から肩に弱めの重力を掛けて、ズシリと重く感じるようにした。

 スキルによる攻撃だと気づかれないくらいの、絶妙なバランス調整が大事だ。



「今日は帰るのである。明日の朝10時に来るから、それまでに剣を5000本。谷中からかき集めてでも必ず用意しておくのである。……セバスサン、セバスサンはどこであるか?」



 ナホロスがふらふらと店の外に出ると、道の向こうから執事のセバスサンが走ってきた。


 ほんと、こいつらは……気持ち悪いくらいに、どこでも一緒だ。



「はっ! セバスサンは、セバスサンはここにおりますぞ!! ああぁ、ナホロス様! いかがされたのですか!?」

「どうも頭が重いのである。宿に戻るから薬を買ってきて欲しいのである」

「もちろんでございます! このセバスサン、命に代えてもナホロス様にお薬を届けまする!!」



 そう言い残して、ナホロスは去っていった。



「おい、そこのお前」

「はっ」



 セバスサンは、ナホロスと一緒に鍛冶屋へ来ていた王国兵を呼びつけた。



「ナホロス様の薬を買ってこい」

「ははっ」

「シロップタイプだぞ。ナホロス様は錠剤も粉薬も決してお飲みになられぬ。絶対に間違えるなよ」

「ははぁ!!」



 そうして、セバスサンを含めた王国兵たちは三々五々に散っていった。 



 明日の朝10時か。――僕は久しぶりに()()()()を思いついた。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 いいことを思いついた! 本当に本当!!

 ナホロスを追い出して、モンセノーも笑わせるんだ

 次回、あにコロ『episode42 谷の呪い』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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