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episode04 王都脱出


「……殿下、こっち」



 僕たちは王城を裏口から出た。

 なるべく人の目につかないように。


 にもかかわらず、何者かが背後から近づいてくる気配を感じた。


 シャルティの誘導で、建物の陰へと隠れて様子をうかがう。


 多少の街灯はあるとはいえ、王都の夜は真っ暗だ。


 男たちは路地の分かれ道で立ち止まると、辺りを見回してぼやきだす。



「ちっ、どこにもいねぇじゃねぇか」

「こんな暗い中で人を探せとは。殿下もムチャを言う」

「殿下のムチャ振りは今に始まったことじゃねぇだろ」

「ははっ、違いない」



 間違いなくヴァルデマルの追手だ。二人しかいないのは、王城の表側にも人を割いているからだろう。


 グロン将軍が足止めをしているにも関わらず、こちらへ追手を送りこめるのは、ヴァルデマルのスキルによるものだ。


 ヴァルデマルのスキル『伝心』は、あいつの考えていることを他人の心に直接伝えることができる。


 気持ちの伝達である以上、複雑な指示は難しいが「王城から逃げだしたエヴァルトを探せ」くらいのお気持ちは伝えられるはずだ。


 やっぱスキルっていいなぁ。便利だなぁ。



「一応、探しましたって言えるようにはしねぇと、首と胴が離されちまう」

「どうせ夜は王都の門が閉まってて出られないんだ。本気の捜索は明日になるだろうさ」

「へへっ、明日が非番で助かったぜぇ」

「さっさと回ろう。俺はこっちの道行くから、お前はあっちな」

「へいへーい」



 あまりやる気の無さそうな追手が2人、別々の道に進んでいった。



「行ったみたいだ。あいつらが言うとおり、王都の門は朝まで開かない。だけど、門が開くまで待っていたらヴァルデマルの手下が門の前で待ち構えてるだろうし……」

「……抜け道、ある」

「抜け道? 門を通らずに王都を出られるってこと?」



コクリ、と頷くシャルティ。



「……父が、準備してた」

「将軍が? なんで?」

「……王族、常に危険。……極秘の抜け穴、常識」



 そうか、常識なのか。つまり僕は常識知らずということか。


 将軍も抜け穴を準備してくれているのなら、事前に教えてくれればいいのに。


 いや、どこから漏れるかわからないから極秘だし、教えないのか。


 街の外れ、放棄されたらしき古井戸の前に立つ。



「……ついた、ここ」

「え? ここって……古びた井戸だよね」

「……見た目だけ、井戸。……中は、抜け穴」

「あ、偽装してるんだ。でも、なんで井戸にしたの?」

「……古い井戸、たくさんある。……誰のか、分からないとか。……埋めるの、大変だから。……みんな、気にしない」



 無表情で淡々としているけど、聞いたことには全部応えてくれるシャルティの優しさ。

 同時に、自分の浅学がどんどん露わになっていく。


 そっかぁ、なるほどなぁ。


 誰が掘ったか分からない井戸を、わざわざ埋めてくれるようなヤツはいないよな。


 頑張って埋めてみたら、持ち主を名乗るヤツが現れて揉める、とかもありそうだ。


 僕が感心している間に、シャルティは井戸のような抜け道の中に消えた。



「あ、待って待って」



 慌てて、レンガでまるく囲まれた入口を覗き込む。


 中は真っ暗だし、ハシゴのようなものは見当たらない。

 つまり、この中に飛び込め、ということか。



「え、これに入るの。普通に怖いんだけど。やだなぁ」



 下から、何か聞こえる。



「……で……か、……やく」



 たぶん、シャルティの声……の気がする。

 それくらい小さい声。きっと、早く降りてこいって言ってるんだと思う。



「仕方ない」



 僕はレンガを掴みながら、恐る恐る縦型の抜け穴に飛び込んだ。


 中はまるで滑り台のようだった。


 地面を掘ったところに、摩擦力の小さな大型のパイプを仕込んだような造りになっている。


 スルスルと滑り落ちた先は、上下左右を土壁に囲まれた、少し広い空間になっていた。


 4、5人の集団でも不便なく移動できるだけの幅がある。


 滑り台が摩擦力の小さい素材で造られているのは、もしこの抜け穴が誰かに見つかったとしても、容易に登られないようにするためだろう。


 あくまで脱出用のルート、ということだ。


 もう僕は王都へと戻ることは無い、という事実を、まざまざと突き付けられたような気がした。

 

 シャルティがランプで僕の顔を照らす。



「……殿下、遅い」

「悪かったな。滑り台になってるんなら、先に教えてくれれば良かったのに」

「……ビビってて、笑えた」

「わざとかよ!」



 さっきまでずっと逃げていたから、やっと正面からシャルティの顔を見た気がする。


 無表情だけど、見た目は可愛いんだよなぁ、こいつ。


 ふと、シャルティの首元に見慣れないものあることに気付いた。



「それ、前からつけてたっけ?」



 シャルティの細い首には似合わない、ちょっと太めの紐が掛かっている。


 ウッドリングをトップにあしらったペンダントのようなもの。



「……母の、形見。……父が、くれた」



 シャルティの顔が曇る。

 どうして僕は、こうもデリカシーが無いのか。


 こんな状況だ。見慣れない装飾具を、オシャレで身に付けているわけがない。

 ワケアリに決まっているじゃないか。



「そっか。ごめん」



 かける言葉が見つからなかった。

 僕の無難な謝罪に、シャルティは静かに首を振る。



「……父の、ためにも。……殿下、守る。……絶対、逃げ切るの」



 僕は頷いて、シャルティと抜け道を進む。

 生きるために。

 その身を挺して僕を助けてくれた人のために。



 どこまででも逃げてやる。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <国土>


国土:約4万㎢(北海道の半分くらい)


 小国ながら、東は海、国土の西を囲む険しい山々が、隣の大国グランドダラム教国からの侵略を阻んできた歴史がある。尚、この山から取れる鉱石や貴金属が、国家の主たる財源となっている。

 南北には山が少なく、北は戦乱が続く大地ホワイトリベット、南はグレンジ公国に接している。

 王都は北側に位置し、ホワイトリベットへの防衛拠点でありつつ、交易の窓口にもなっている。

 グレンジ公国との国境にはエルフが住む大森林が広がっており、エルフ以外の人種の立ち入りを許さないため、実態としては隔絶されている。

★次回予告★

 はい、エヴァルトです。もう僕は王都へと戻ることはありません。

 ピーと言う発信音の後に、お名前と、ご用件等をお話しされても困ります。

 ピー―――――――!!!

 次回、あにコロ『episode05 兄と将軍』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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