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episode37 戦と命と


「あ! シャルティだぁ。やほやほぉ♪」

「……こんにちわ、モカ。……会えて、嬉しい」



 シャルティとモカが、手を取り合って再会を喜んでいる。

 シャルティに会いたいからと、無理を言ってマタリ長老にくっついてきたそうだ。



「よぉ! オレがやった石っころが大活躍だって? やっぱり投石機(カタパルト)だったな」

「くそっ。自分でもちょっとそう思ってたから、悔しい……」



 ベントットは村長(むらおさ)の護衛も兼ねて、古城を見学に来たのだと本人が言っていた。


 今更だけど、村長の名前はゴダーンというらしい。


 マタリ長老と、ゴダーン村長をアヴェールの古城に呼んだのは、これからの話をするためだ。


 僕は2人に、村人みんなで古城に移らないか、と提案した。

 王国軍が村を襲う前に。



「ワシらは願ったり叶ったりじゃ。この前はつい、王国軍をコテンパンにしてしまったからのお。どちらにしても村を移動しようと思っとったところじゃ。カッカッカッカッカ」



 全く悪びれていない様子のマタリ長老が、笑いながら同意する。

 しかし、ゴダーン村長は慎重だった。



「救世主殿は、この城にリザドとコボルを集めて、なにをするつもりですか?」

「なにをって……。僕はただ、みんなを守れたらって」

「守る……。何から我々を守ると言うのですか?」

「そりゃあ、王国軍じゃろう。あやつらときたら、一度ワシらに勝ったと思って調子に乗っちょる」

「長老はちょっと静かにしてください。私は救世主殿に聞いているのです。――守るとは戦うこと。行きつく先は間違いなく(いくさ)です。あなたはリザドとコボルを王国との戦いに巻き込もうとしているのではないですか?」



 ゴダーン村長の声が冷たい。

 そんなつもりは無かった、とは言い切れない。


 みんなが集まれば、力を合わせて、一緒に守っていけると思っていた。


 それだけじゃない。

 もっと人が集まれば、王国を、ヴァルデマルを倒すことも出来ると期待していた。


 心のうちを見透かされた気がした。



「私は大戦のとき、成人したばかりでした。戦は残酷です。人の命がゴミのように扱われる。私は、格好悪くても、プライドが無いと言われても、逃げ回っている方が良いと思っているのです」

「んむぅ…………」



 マタリ長老は何も言わなかった。


 王国を怨敵(おんてき)だと思っているのは長老個人の気持ちであって、戦いたくない、という者に戦いを強いるような人ではない。



「村を救ってくださった救世主殿には感謝しています。ですが、私にも村人の命を守る責任があります。戦に加わるとなれば、せっかく救われた村人の命が失われてしまうかもしれない。申し訳ありませんが、この城に移るつもりはありません」



 ゴダーン村長が席を立つ。

 だが、ベントットはその場を動かなかった。



「すまねぇな、村長。気持ちが分かる、とは言わねえ。オレは大戦後の生まれだからな。でもよ、『ゴミのように扱われる』ってのは分かるぜ。――いま、オレ達は王国からゴミのように扱われてる」

「一緒にするな。私が言っているのは命の話だ!」

「一緒さ。命ってのは生きるってことだろう。オレが言ってんのは生き方の話だ。そのために命を散らした同胞がいた。この国は変えなきゃならねえ。じゃねぇと、どんだけ長生きしたって、あっちでゴンゾーラに合わせる顔がねぇよ」

「あの子達のことは……わ、私だって悪かったと思っている。だが、本当に命を賭けなきゃならんのか? 大戦で多くの戦果を挙げていたオルガは、ヒュムから集中攻撃を受けた。彼らは今どうなった!?」



 僕の横に立っているダイサツの腕がピクリと反応した。


 ゴダーン村長もダイサツの視線に気づいたのか、コホンと咳払いをした。



「王国の目が届かないところで、静かに暮らしていくわけには……」

「まあ、持って5年ね」



 熱く意見を交わすベントットとゴダーン村長の間に、クロ姉が割り込んだ。

 視線がクロ姉に集まる。



「ランヴァルス王の時代なら、そういう選択肢もあったかもしれない。でも、もう王座はヴァルデマルに移ったわ。残念だけど、彼は――純血派よ」

「な!!!???」



 純血派、そのワードにその場にいる全員の顔が引きつった。


 昔、ある思想家がこう言った。「ヒュムこそが、無駄なものが全て削ぎ落された『人の完成体』である」と。


 ヒュムこそが優良種、それ以外の人種は劣等種とする、この思想は当時、多くのヒュムに受け入れられた。


 その中でも、ヒュム以外の人種への迫害、虐殺を()とする民族主義者のことを『純血派』と呼ぶ。


 長い年月の中で、この思想は一部の宗教を除いて『古い価値観』と呼ばれるようになったが、決して無くなったわけではなかった。


 国を治める国王が『純血派』ともなれば、その国は、ヒュム以外の人種にとって、この世の地獄となる。



「ねえ、王子様。ヴァルデマルがリザドやコボルのことを、トカゲとかケモノとか呼んでいるのを聞いたことない?」

「あ……トカゲ狩り」



 思い当たる節がある。

 成人した頃から、ヴァルデマルは時折「トカゲ狩りに行く」とか「ケモノ用の罠を仕掛けた」とか言っていた。


 あの頃は、言葉通りに狩りの話だと思って聞いていたけど……リザドやコボルを迫害していた?



「トカゲ狩り……。国王が純血派……。そんなことが……」

「しっかりしなされ! ゴダーン殿。状況は確かに最悪じゃ。それでもワシらは村の者達を引っ張っていく責任があるじゃろう!?」



 思いがけない事実に放心状態になっているゴダーン村長に、マタリ長老が激を飛ばす。



「ヴァルデマルを討ち果たさねば、我らに未来はないということじゃ」



 事態は僕が考えていたよりも、ずっと切羽詰まっていたようだ。




―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 おう! ベントットだ。

 誇りを失って生きていくのは死んでいるのと同じだ。

 オレはゴンゾーラの命を救ったつもりで、誇りを奪っていた。

 ヴァルデマルを倒し、この国を生まれ変わらせる。

 ――それがオレの贖罪だ。

 次回、あにコロ『episode38 星空の下』

 オレの活躍を見逃すなよな!

―――――――――――――――――――――――――

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