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episode32 幽霊の城

「「アヴェールの古城」」


 クロ姉とシャルティが声を揃えた古城は、コボルの村よりも、更に南。

 グランジ公国との国境(くにざかい)に近いところにある。


 その外観は、もはや城ではなく廃墟だ。



「アヴェールの古城って、200年くらい前に捨てられたお城だよね? そんな古い建物使えるの?」



 アヴェールの古城は元々、他国からの侵略を防ぐために造られた城だ。

 にも関わらず、200年くらい使われていない。


 その理由は、グランジ公国との国境、トリスワーズの南端にあるエルフの大森林にある。


 今からおよそ200年前、エルフ達は大森林に他の人種が立ち入ることを禁じた。


 エルフは侵略しない

 エルフは侵略を許さない


 これは、国境に大きな壁が出来たようなものだった。


 トリスワーズもグランジ公国も、どちらも小国で国力に大きな差はない。


 それは双方が保有している兵の数も大きくは変わらない、ということだ。


 例え、エルフの大森林を攻め滅ぼしたとしても、ゲリラ戦を受けて兵を消耗しては本命の戦いで負けてしまう。


 そう考えた両国はどちらからも戦を仕掛けることが出来なくなり、いつしか隣国との接点は完全に途絶えた。


 その結果、南に兵を配置する必要がなくなったトリスワーズは、防衛拠点であったアヴェールの城も放棄することとなった。



「もちろん、そのままじゃ使えないわよ。でも、あの城は立地が良いの。アヴェールの城は王都と違って防衛拠点として造られた城だから要害ようがいの地にあるのよ。つまり、周りの険しい地形が、王都の城壁みたいになってるの」

「……大軍じゃ、攻められない。……守りに、向いてる」

「そっか。じゃあ、まずはそのお城を見てみないとね」



 僕たちの次の目的地が決まった。

 さっそく、ベントットを探してこのことを伝える。



「アヴェールの古城、古城ねえ。最近、どっかでそんな名前を聞いたような気がするんだよなあ」



 村の人たちと一緒に、破壊された小屋の補修をしていたベントットが、作業の手を止めて、首を傾げる。


 その言葉に近くにいた村人が反応した。



「アヴェールの古城っていや、あれだろ。幽霊が出るって噂の城だろ。あの城を根城にしようとした山賊が何人か、幽霊に襲われたーとか言いながら、この村に逃げてきたろ」

「あー! それだ、それだ。幽霊の城だ。たしか……1年くらい前だったよな」



 いや、幽霊って。

 いくら世間知らずの僕でも、幽霊が実在しないことくらいは知っているぞ。



「えー? なにかを見間違えたんじゃないの?」

「いや、オレもそう思って山賊に聞いたんだけどよ。見間違えたんじゃなくて、見えない何かに襲われたって言うんだよ」

「……見えない、なにか。……本物の、幽霊?」

「どうかしらね。山賊の言うことだし、どこまで本当か分かんないわよ。それに、こういう眉唾な話は自分の目で確かめないと。さあ、そうと決まれば、すぐに出発しましょ!」



 何故だろう。心なしかクロ姉がワクワクしているように見える。



「おいおい、まさか、あんなところまで歩いていく気かい? うちの村を救ってくれた救世主様にそんな真似させらんねぇよ。ちょっと待ってな」



 どこまでも自分の足に頼っている僕たちを見かねて、村人が馬を3頭連れてきてくれた。



「ほれ。馬に乗っていけば多少マシだろ。本当はどっかで乗り換えられるといいんだけどな」

「それは嬉しいんだけど……3頭?」



 僕たちがベントットの方を見ると、彼はバツが悪そうな顔をしていた。



「いや、実はそのことなんだけどさ……オレは村に残ろうと思ってよ。」



 ほんの数日前に「オレは村を出ようと思う」「オレだけ村でのうのうと生きていくわけにはいかねぇ。オレも贖罪(しょくざい)が必要だと思うんだ」とか言ってた人が、たった1日で凄まじい心変わりをしていた。


 短い贖罪だったな。


 僕が、心の中で軽口を叩きつつも口に出さないのは、正直なところ納得していたからだ。


 ベントットがほんの数日離れていたうちに、村が王国軍に襲われていた。


 あまり表情には出さないが、彼なりにショックを受けていることは疑いようがない。


 それに……今回は僕を探すことが目的だったから誰も死なずにすんだが、次に王国軍がくるときは目的が違うかもしれない。


 そのとき、今回のように隠れてやり過ごすことが出来るとは限らないのだ。


 僕がベントットの立場でも、きっと村に残る選択をしただろう。



「もちろん、オレが1人で村に残ったところで、王国軍をどうにか出来るとは思っちゃいねぇけど。またこの村が襲われたってときに、何も出来ないのはイヤなんだよ」

「分かったよ。でも、絶対にムチャなことはしないでね。危ないときはすぐに逃げて。きっとコボルのマタリ長老も助けてくれる。僕たちも、急いでみんなを守れる場所を見つけるから」

「おお! よろしく頼むぜ! ジョーカー!!」

「ちょっと、もうジョーカーはやめてよ」



 僕が苦情を言うと、ベントットがニヤニヤしながら反論してくる。



「そう言われても、オレに取っちゃジョーカーのイメージが強くってよぉ。名前なんだっけ? ゲパルトだっけか? それともカタパルト?」

「ゲパルトはまだしも、カタパルトはもう人じゃないじゃん。誰が投石機だよっ。 僕の名前はエヴァルト! エ! ヴァ! ル! ト!」

「エヴァルトねぇ。どうも頭に入ってこねぇんだよな。発音も難しいしよぉ。ヒュムの名前はみんなこんなんなのか、シャルティ?」

「そっちは覚えてんのかよっ」

「まあまあ、落ち着けよ。餞別せんべつにこれをやるからよ」



 ベントットが革袋を渡してきた。

 受け取ると見た目よりもズシリと重い。


 もしかしてお金でも入れてくれたのだろうか。

 案外、粋なことをする。


 革袋を開くと、みかんサイズの石が数個入っていた。



「だから、誰がカタパルトだよっ!!!!!」

「だっはっはっはっはっは。湖の近くで投げやすい石を選び抜いてやったんだ。感謝しろよな。だっはっはっはっはっは」



 僕をからかって大笑いするベントット。


 ってことは、この名前いじりを前もっと考えていたのか、コイツ。

 

 そう考えると、なんだか笑えてきた。



 ベントットと出会って4日。

 僕たちもずいぶん仲良くなった。


 離れて行動するのがちょっと寂しくなるくらいには。


 こうして、僕たちは3人でリザドの村を旅だった。


 目指すはトリスワーズの南部にあるアヴェールの古城だ。



 鬼が出るか、蛇が出るか、それとも幽霊が出るのか。




―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 ベントットが一緒に来れないのは、ちょっと寂しいな。

 はやく拠点を作ってベントットを安心させよう。

 次はアヴェールの古城で幽霊(?)を探すよ。

 次回、あにコロ『episode33 古城の主』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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