episode28 無人の村
(ナホロス目線)
「あーーーー!! ムカつく! ムカつく! ムカつくのであーーーーっる!!」
今日の小生は、すこぶる機嫌が悪いのである。
ヴァルデマル殿下に呼び出されたのは今日の昼のことである。
小生は私兵を動員して、もう三日も一生懸命エヴァルトの行方を捜しているというのに、王城でふんぞりかえったあいつは、小生に説教をしやがったのである。
それも、「トカゲの村は調べたのか? ケモノの村はどうだ?」などと突拍子もないことを言いだしたのである。
ヒュム嫌いのリザドやコボルが、ヒュムであるエヴァルトを匿うはずがないのである。
これだから世間知らずの王子様は困ったものである。
聡明な小生が、ヴァルデマル殿下のために、優しく、丁寧に進言してやったというのに、あいつときたら。
「キサマの意見など聞いておらんわ! さっさと調べてこい!!」
などと、理不尽にも怒鳴り散らす始末である。
小生は、全くもって不愉快なのである。
いつもなら、こういうときはセバスサンが慰めてくれるのに、今は王都周辺の捜索部隊を指揮していて不在である。
おかげで捜索隊の手配も、小生が自らやる羽目になったのである。
兵数はどれくらいが妥当なのかサッパリ分からない。
たぶん100人くらい連れていけば、リザドもコボルもビビるに違いないのである。
ビビったリザド共が小生にヘコヘコと頭を下げる姿を想像する。
ああ、屈辱に傷ついた小生の心も、幾ばくかは癒されそうである。
そう思っていたのに――。
「どうして、村に誰もいないのである!?」
返事はない。
小生の声だけが空しく響く。
村には人っ子ひとり、どころか家畜の一匹もいないのである。
村人全員が夜逃げしました、といった風情である。
これでは小生は、誰に頭を下げさせれば良いのであるか?
このままじゃ、イライラが収まらない。
馬から下りて、家の扉に手をかける。
――ガチャ、ガチャ
生意気にもカギを掛けているのである。
――ドン! ドン! ドン!
叩けども、叩けども、一向に反応はないのである。
「クソーーーーーっ!!!」
力任せに扉を蹴り飛ばす。
――ガンッ、ミシィ
木造りの扉が軋んだ。
小生は剣を鞘ごと振り回し、扉を乱暴に殴りつけてやった。
――ゴン! ガッ! バキッ!!
扉に穴が空く。
同時に、少しだけ気持ちがスッとした。
後ろを見ると、連れてきた兵が黙って小生のことを見ていた。
「なにを見ておる。貴様らもやるのである。この村は無人である。しかるに大罪人エヴァルトが隠れているやもしれぬ」
「ははっ」
小生の命令を受けて、兵隊たちも村の中を捜索し始めた。
槍の柄で、器用に家の扉を壊し、テキパキと家捜しする兵士達。
流石は小生の優秀な兵達である。
だが――ちがう! そうじゃない!。
小生は、もっと乱暴に、本能の赴くままに、この村の天地をひっくり返すように捜索して欲しいのだ。
自分で暴れるのもストレス解消に良いが、実は小生、他の者が暴れているのを眺めるのも好きな性質なのである。
「兵達よ! 遠慮はいらないのである。村はどうなろうと構わぬ。家の隅々はもちろん、畑の土の下、生け簀の中に至るまで、片っ端から捜索するのである!!」
――鼓舞
小生はスキルを発動した。【鼓舞】を使って命令を出すと、兵隊たちの士気がとてつもなく上がるのである。
どれくらい上がるのか、一言で言うと「ガンギマリ」なのである。
辺り一面、目が座った兵隊が大暴れしていた。
ボロい小屋を燃やして、火の周りで踊っている者。
鎧を脱いで、生け簀の中で泳いでいる者。
ただ黙々と、家の土壁に体当たりしている者。
畑でスポーツをしている者達もいる。
この状態で、ルールは分かっているのだろうか。
各々がやりたいことを自由にやっている。
……もはやエヴァルトの捜索という、当初の目的は忘れ去られているような気もするのである。
「まあ、良いのである。どうせ、こんなところにエヴァルトはいないのだから、必死で捜索した格好がついていれば良いのである」
そういえば、小生、思い出したのである。
この先の山には温泉があるのである。
何年か前に、セバスサンが連れていってくれたのである。
明日はコボルの村にも行かなくてはならない。
いくつか山を越えていくことを考えると、今晩はこの村で陣を張るべきである。
ならば、今のうちに1人で温泉を満喫してくるのである。
小生は、部下が村で暴れている様子を見て溜飲を下げ、馬に乗って村を後にした。
温泉、楽しみである。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <スキル>
『水蛇化』
変身型アクティブスキル
コボルの村の、マタリ長老のスキルで、九つの頭を持つ水蛇ヒュドラへと変身することが出来る。特筆すべきはその再生力で、頭を斬り落としてもすぐに新しい頭が生えてくる。
その牙には毒があり、噛みつくと致死性の猛毒が相手の身体を侵す。
大戦ではこのスキルで多くのヒュムを殺し、大戦において連合軍側の英雄の1人と言われた。
『鼓舞』
超人型アクティブスキル
ナホロスのスキルで、仲間の士気を異常なほどにブチ上げることが出来る。
テンションが上がりすぎて、命令すら忘れてしまうトランス状態に陥ることから、鼓舞ではなく狂人化ではないか、陰でウワサされている。
狂人化すると痛みもほとんど感じず、自身の限界を超えた動きが出来るようになる。
★次回予告★
小生が王族イチ容姿端麗で、王族イチ頭脳明晰なナホロスである。
はぁぁぁぁぁぁ、温泉は気持ちいいのである。
毎日、温泉に入れたらきっと幸せなのである。
あ! そうである! ここから王都まで温泉を引けばよいのである。
やはり小生は、王族イチ頭脳明晰なのである。
次回、あにコロ『episode29 新王即位』
もちろん、読むのである。
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