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episode27 暴虐の痕


「なぜだ……どうしてここまでする必要がある!? オレ達がいったい何をしたってんだ!!」



 荒れ果てた故郷に、ベントットの慟哭どうこくがこだまする。


 僕たちはコボルの村を出たあと、一度リザドの村に戻ることにした。


 中隊を率いてコボルの村に現れた王国軍。

 通り道にあたるリザドの村を、奴らが素通りしたとは考えられない。


 そこで、一度様子を見に行くことにしたのだ。


 そのときは「心配だからちょっと様子を見に行こう」くらいの気持ちだった。


 しかし、明け方に到着したリザドの村は、2日前とあまりにも様変わりしていた。



 焼け落ちた穀倉(こくそう)

 踏み荒らされた畑。

 に浮かぶ魚の腹。

 

 家の土壁は剥がれ落ち、木の扉は割り壊されている。



 本当に同じ場所なのかと目を疑った。それに――。



「なんだか、八つ当たりされたかのような荒らされようね」

「……だれも、いない?」



 シャルティが言うとおり、人の気配が一切しないのだ。



「すみません、誰かいませんか?」

「おい、誰か! 誰かいねぇのか!?」



 僕たちは、家を一軒一軒覗いて、人がいないか見て回った。



「おや、ベントットかい?」



 ひとしきり見て回ったところで、不意に老婆から声を掛けられ、ベントットは振り返る。



「ばあさん! 無事だったのか! 村のみんなは!?」

「落ち着きな! 大丈夫。みんな無事だよ。いや、しかし派手にやられたもんだ」



 老婆は他人事のように村を眺めていた。



「王国兵が村に向かってるって聞いて、村長むらおさがスキルで作った地下シェルターにみんなで隠れてたのさ」

「じゃあ、誰も怪我したり死んだりしてねぇんだな!?」

「アンタね、死んだり、なんて滅多なこと言うもんじゃないよ。5年前の事件以来、何かあったらいつでも逃げられるように、村の全員の命を守るために、村長がずっと準備してたんだから」



 村の人達がみんな無事と聞いて、ベントットは一言「よかった」と言って座り込んだ。


 ベントットの様子を見て、老婆がポツリといった。



「5年前のことは、大人たちも後悔してんだよ」

「後悔? どういうことだよ」

「あの子達が王族を襲撃しようなんて考えたのは、小さい頃から寝物語に、ヒュムへの恨み節を聞かされてきたせいじゃないか。大人たちが溜飲(りゅういん)を下げるための愚痴が、子供たちを殺したようなもんだ。その上、王家にもにらまれて」

「だから、もう誰も死なせたくないってか。でもよ、地下シェルターなんか、その場しのぎにしかなんねぇだろ」

「そうだね。もしまた王国軍が来るとなったら、他の土地に行くことになるだろうね」

「なんで、オレ達が逃げなきゃなんないんだろうな」

「わざわざ聞くかね。戦争に負けたからじゃろう」



 それっきり、ベントットも、老婆もすっかり黙ってしまった。


 間もなくして、村長を先頭に、村人たちがバラバラと戻ってきた。


 ある者は、荒らされた畑の前に立ち尽くし、

 ある者は、見るも無残な焼け跡となった穀倉の前にうな垂れ、

 ある者は、破壊された我が家の前で涙していた。


 生け簀の前でワンワン泣いている子供たちがいる。

 きっと、あの子たちが魚の世話をしていたのだろう。


 このまま素知らぬ振りをしていることは出来なかった。


 僕とシャルティは、村長の前に出てマスクを取る。



「あ、あの! 僕、いや私はエヴァルトと言います。王国軍は私のことを探していて。……だからこの村に王国軍が来たのも、たぶん僕のせいで。……ごめんなさい!」

「……私たち探して、ここに来た。……心から、謝罪します」



 僕たちはマスクを取って謝った。

 村長は静かに顔を上げると、諭すように静かに喋り出した。



「救世主殿が気にする必要はありません。遅かれ早かれ、こうなっていたのです。それくらい王国との関係は緊張していました。それに――マスクと偽名で素性を隠している皆さんを、我々は身内のトラブル解決に利用したんです。これくらいのリスクは想定してましたよ」



 そう言うと、村長は笑って手を差し伸べてくれた。



「あなたの名前が何であろうと、どういう理由で王国軍に追われていようと、あなたは村を救ってくれた救世主です」



 僕は村長の手を握った。あたたかな体温を感じる。


 リザドの村の人たちは、村を捨てることになったら、どこに向かうのだろう。


 そこは若者が少ないリザドの村の人たちでも、安心して暮らせる場所なのだろうか。



 王国軍と戦ったコボルの村の人たちは、これからどうなるのだろう。


 ヴァルデマルの性格を考えると、報復の軍を差し向けるのではないだろうか。



 僕は、彼らのことを守りたい。

 彼らが安心して生きていける場所をつくりたい。


 そのために僕が出来ること――。



「ねえ、クロ姉、シャルティ。僕はもう、逃げるのをやめようと思うんだ」



 クロ姉は何も言わない。



「マスクを被って、ジョーカーを名乗るのも終わりにする」



 シャルティは真っ直ぐ僕の目を見ている。



「これからは、ただのエヴァルトとして、王国と――ヴァルデマルと戦う。これからも、ついてきてくれる?」

「あったりまえでしょー!!」

「……ヴァルデマル、父さまの仇。……私も、戦う」



 殺されかけて逃げ回ってきた僕の戦いが、これから始まる。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <グランドダラム教国>


 トリスワーズの西にある大国。険しい山脈が二国を隔てているため、トリスワーズとグランドダラム教国の間で戦争が起こったことは無い。

 教国の名が示す通り、シュルヴァン教の教義を統治の根本原則とした宗教国家である。

 シュルヴァン教はヒュムを支配人種と定めた人種主義を根幹としており、純血派と呼ばれる民族主義者が主に信奉している。


★次回予告★

 どうも、逃げるのはもうやめたエヴァルトです。

 でも、戦うってどうしたらいいだろう?

 リザドの村を襲ったのはもちろんナホロス。

 本当にどうしようもないヤツだ、こんどシメよう。

 次回、あにコロ『episode28 無人の村』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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