episode23 暴れる竜
――ドオオオオォォォン
眠気を吹き飛ばす、大きな音が響いた。
同時にグラグラと揺れる床――いや、建物全体が揺れている。
「なんだこりゃ、地震か?」
さっきまで大イビキをかいていたベントットも目を覚ました。
――グォォォォォォォォォォォ
恐ろしく低い、そして大きな唸り声がした。
「地震は、ふつう鳴かないよね?」
「まあ、オレの知ってる地震はそうだな」
割り当てられた部屋には窓が無く、外の様子を窺うことも出来ない。
――グギャォォォォォォォォォォォス
今度は唸り声ではなく、明らかに鳴き声だった。
犬や猫ではない、巨大な何かが外にいる。
「長老は部屋から出るなって言ってたけど――」
「この状況で外に出ないヤツはいねぇよな」
僕とベントットは無音のスキルを使って、慎重に部屋の扉を開ける。
あの長老のことだから、見張りの1人や2人置いていてもおかしくない。
案の定、廊下には人がいた。
しかし、どうも様子がおかしい。
僕らを見張っている様子はなく、ただ腰を抜かして座り込んでいた。
「もうダメだ。今日こそはもう終わりだ。村は滅ぼされるんだ」
何を言っているのか、さっぱり要領を得ない。
本人も混乱しているのだろう。
「何があったんですか?」
申し訳なさを感じつつ、【自白】のスキルを使って訊いてみた。
「ドラゴンだ。今日は機嫌が悪い。もう村は終わりだ」
ドラゴン!?
外で暴れているのはドラゴンだということか。
ドラゴンなんておとぎ話でしか聞いたことが無い。
今日は、ということは今回が初めてではないということだろうか。
「ベントット、村が危ない。外に出よう」
僕たちは頷き合い、急いで家の外に飛び出した。
「貴様ら! 部屋から出るな、と言ったじゃろうが!」
外に出るなり、長老に見つかった。
だが、僕たちはもう見てしまった。
僕の3倍くらいはある巨大なレッドドラゴンの姿を。
レッドドラゴンは縄を掛けられ、動きづらそうにしていた。
――グアォォォォォォォォ!!!
それでも、レッドドラゴンの巨体が暴れれば地面は大きく揺れる。
すでに倒壊している家屋もあるようだ。
家にいても危険と判断したのだろう、女性も子供も、おそらく全ての村人が外に出ている。
よく見ると、縄を引っ張っている人も変身しているようだ。
あっちはゴリラだし、
あっちは獅子が縄を咥えているし、
あっちにいるのは牛……だけど立ってる。
あれだ。ミノタウロスだ。
ミノタウロスもおとぎ話の存在だと思っていた。
もしかしておとぎ話に出てくる不思議な怪物って、みんなコボルがモデルなんじゃ?
暴れるレッドドラゴンと、縄で押さえる村人たちを見て、当然の疑問が浮かぶ。
「……傷つけないように、してる?」
いつの間にか隣にシャルティがいた。
クロ姉と一緒に外に出てきたらしい。
シャルティの言うとおりだ。
村人たちは誰一人、武器を持っていない。
獅子は牙を向けず、熊は爪を隠している。
巨大なレッドドラゴンが暴れていて、村にも被害が出ているのに、だ。
考えられる答えは1つしかない。
「長老、あのドラゴンは――誰ですか?」
長老の顔が険しくなる。
「貴様らには関係ないわ」
「これだけの騒ぎで、村人はほとんど外にいるのに、姿が見えない人がいますよね?」
「…………」
僕たちは知っている。
もし、この場に彼女がいれば、絶対に友達のシャルティの近くで騒いでいるはずだ。
ベントットですら目を覚ます騒音。
まさかグッスリ寝ているということは無いだろう。
「あれは、モカですか?」
「…………」
長老の沈黙が、事実を雄弁に語っていた。
シャルティが不安そうな顔でこちらを見る。
「……ジョーカー、お願い。……モカ、助けて」
「もちろんだ」
僕はレッドドラゴンの、モカの顔を見る。
「貴様! モーカレラに何をするつもりだ!? 孫に指一本でも触れたら、ワシが貴様を殺してやるぞ!」
「うるさいんで、ちょっと静かにしてもらえます?」
「なにぉ……ぐぅぅぅぅぅぅ」
「「「ちょ、ちょうろう!!」」」
今はモカを助けることが最優先だ。
ちょっと強引だけど、長老には【導眠】のスキルでぐっすり寝てもらった。
周りの村人が慌てているが、今は気にしているヒマは無い。
――グオォォォォォォォォォォォォォォォ
モカと目が合った。
僕はゆっくりとモカへ近づく。
「おい! あんた、なにやってんだ! 死ぬ気か!?」
もちろん死ぬ気なんかない。
3日前の僕ならいざ知らず、今の僕ならモカを簡単に無力化できる。
――グギャォォォォォォォォォォォス
威嚇の声を上げるモカに、僕は掌をかざした。
――行動停止
モカの動きがピタリと止まる。
距離があるから効果時間は1秒くらいだ。
その間に、足元に転がっていた石を拾う。
――重力操作
スキルを籠めた石をモカの足元へ投げ、重力場を発生させた。
――ズズウウウゥゥゥゥゥン
重力に押され、モカは頭が地面に落ちる。
いまのうちだ。
駆け寄った僕は、モカの頭に直接触れて、次のスキルを使った。
――導眠
モカの脳に直接、睡魔を送り込む。
――ンゴゴゴゴゴォォォォォォ
間を置かず、モカは静かに眠りに落ちた。
そのまま、モカの身体が急速に縮んでいく。
さっきまでレッドドラゴンが暴れていた場所に、あどけない赤髪の少女が横たわっていた。
「……ああ、モカ!」
シャルティは、すぐさま人の姿に戻ったモカに駆け寄る。
そして、裸になってしまったモカの身体に、自分の上着を掛けた。
「モーカレラ様! 御無事で!」
急展開に呆然としていた村人たちも、我に返って集まってきた。
モカはグッスリ眠っているようだ。
僕はモカを止めた。
でも、シャルティとの約束は『モカを助ける』だ。
まだ、僕はモカを助けていない。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <スキル>
『物質縮小』
操作型アクションスキル
凍結させた野盗のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
物質の質量を操作して、1/10サイズまで小さくすることができる。
一定時間で元に戻る。大きくすることは出来ない。
『行動停止』
精神型アクションスキル
凍結させた野盗のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
相手の脳に干渉し、脳から身体への命令を阻害することで、
行動の自由を奪う。
効果範囲は5mほどだが、距離が離れていると1秒程度しか止められない。
近くで、かつ長時間干渉するほど効果時間が長くなる。
スキルは連続使用できず、インターバルは約10秒。
★次回予告★
どうも、エヴァルトです。
なんか勢いで長老眠らせちゃったけど、
明日、めっちゃキレられたらどうしよう……gkbr。
でも、モカを止めるためだから仕方ないよね
次回、あにコロ『episode24 力の制御』
ちょっとだけでも読んでみて!
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