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episode22 長老と孫

 

「出ていけ! 貴様らに話すことなぞ無いわ!!」



 コボルの村に着いた僕たちは、ベントットの紹介で村の長老と会った。


 リザドの村の村長と違って、イメージ通りに白い髭を蓄えたおじいちゃんだ。


 頭にはコボルの印ともいえる、動物の耳が生えている。

 あまり詳しくないが、多分、長老の耳はタヌキの耳だ。


 そんな長老は、僕たちを見るなり突如、激昂した。



「ちょ、ちょっと待ってくれよ。長老。一体どうしたってんだ? こいつらはオレ達の村を野盗から救ってくれて。この村でも何か困っていることがあったら助けになれればって、とにかくイイ奴らなんだよ。」



 ベントットが必死でなだめようとするが、長老が落ち着く気配はない。



「見損なうでない! こんな奴らに助けて貰うくらいなら死んだ方がマシじゃわい。リザドの若いの。お前は騙されとるんじゃ。大方、野盗もこいつらの自作自演なんじゃろうて。騙し討ちはヒュムの得意技じゃからのぉ」

「いや、野盗の件はそもそもリザドの内輪の問題で……って、ヒュムーーーーッ!?」



 ベントットがとても驚いた顔でこっちを見ている。


 目玉が飛び出るって慣用句だと思ってたんだけど、本当にちょっと飛び出るんだね。



「なんじゃ、気づいとらんかったのか。マスクで顔を隠したところで、ワシの鼻は誤魔化せん。この3人からはヒュムの臭いがプンプンするわ」



 そういえば、コボルの五感は他の人種の何倍も優れていると教わったことがある。


 しかし、匂いでバレるとは思わなかった。



「長老のおっしゃる通り、あたし達はヒュムです。理由わけあってマスクをつけておりますが、敵意はありません。もちろん善意の押し売りをするつもりも」

「そうか。ならばさっさと出ていけ!」



 こうして僕たちは、5分前に入ったばかりの家から追い出された。


      ★



「取り付く島もなかったね」

「……ヒュム、とても嫌われてる。……ベントット、嫌いになった?」



 シャルティがベントットを見上げる。



「まあ、たしかに驚いた。前にも話したけどよ、小さい頃からじいさん達にヒュムに騙されて大戦に負けたって話を散々聞かされてきたし、実際に会ったことがあるヒュムも偉そうで嫌な奴ばっかだったからな。でも……」



 ベントットは僕たちの方に身体を向き直し、腕を組んでこう言った。



「ヒュムを嫌いだからって、お前らを嫌いになる必要はねぇと思った。村を救ってくれたのは間違いなくお前らだし、一緒に宴をした仲だ。お前らがイイ奴らだって判断したオレの目を信じるさ」



 ベントットってすげぇいいヤツだな。

 はじめて格好イイ男って思ったかもしれない。


 僕が女の子だったら惚れてたな。



「ちょっと気になったんだけどさ。あたし達がマスクで顔を隠しているとはいえ、もしかしたらヒュムかもしれない、って考えたりはしなかったの?」



 クロ姉の質問に、ベントットがかぶりを振った。



「いや、ちっとも。リザドが野盗に襲われてるところを、わざわざヒュムが助けるなんて想像もしなかったぜ。前なんか、オレ達が街道で野盗に襲われてる隣を、王国兵が素通りしていったこともあるんだぜ?」



 そんなことがあった、というより日常的に横行していると考えた方がいいのだろう。


 元第二王子エヴァルトとしては、恥ずかしくてベントットの顔を見られない。


 クロ姉が「この国をもっと見て欲しい」と言っていた理由が分かった気がした。



「ねぇねぇ。きみ達ってぇ、本物のヒュムなのぉ?」



 振り向くと、僕とシャルティと同じ年くらいの女の子がいた。


 ウェーブのかかったセミロングの赤髪に、犬の耳をしたコボルだ。


 身長はシャルティより全然小さくて、久しぶりに『カワイイ女の子』を見た気がする。



「あ、モカはねぇ、モーカレラっていうのぉ。モカはぁ、ヒュムって初めて見るんだよねぇ。ちょっとだけマスク外してみてよぉ」

「……私、ラビット。……マスク、外せない」



 歳が近い女の子同士、シャルティが相手をしてくれている。


 でも、本当の名前は言えないし、マスクは外せないし、ちょっと気まずそうだ。



「えー、けちぃ。じゃあ、耳だけ。耳だけでいいからさぁ」

「……まあ、それくらいなら」

「お、やったねぇ♪」


 シャルティは髪をかき上げて、耳を見せる。



「おおぉ♪ モカ達と全然違うんだぁ。なんかキモいねぇ」

「……突然、無礼」

「ごめーん。でもヒュムだってさぁ、モカ達のことケモノとか言ってるんでしょぉ? ちゃんと知ってるんだよぉ」

「……そんなの、ほんの一部。……私、言わない」

「そうなんだ♪ ヒュムはみんな言ってるんだと思ってた」



 ちょっと失礼な子だけど、悪意があるわけじゃなさそうだ。


 シャルティも、「無礼」と言いつつ、あまり気にしていないようだった。



「ねぇねぇ、あなたってぇ、歳はいくつなのぉ?」

「……私、14」

「わぁ♪ じゃあ、モカの方がお姉さんだぁ。モカはぁ、先月お誕生日でぇ、15になったんだぁ♪」

「……私も、来月15」

「えー♪ そうなのぉ? 同い年だねぇ♪ なんか、うれしぃー♪ モカねぇ、ラビットと友達になりたいなぁ」

「……うん、私も。……今から、ともだち」



 あっという間に仲良くなっていくシャルティとモカ。


 王子だった僕もそうだが、将軍の娘という立場にあったシャルティは、上も下もない友人という関係を知らない。


 年の近い友人のほとんどは、父の部下の子であり、そこには明確な力関係が存在していた。


 モカはシャルティにとって、初めて出来た対等な友人だと言える。


 いつも無口なシャルティが、モカに引っ張られて色々喋らされていた。


 正反対の性格に見えるが、案外、相性が良いのかもしれない。


 2人が広場の長椅子に座り込んで話しはじめた。

 これは長引くぞ。


 僕は、クロ姉とベントットに目配せしてその場を離れた。


 ――3時間後、村を散策して僕たちは広場に戻ってきた。


 陽も傾きだしている。

 だが、2人はさっきと変わらぬ様子で話し込んでいた。


 人と人は、会ったばかりでも、こんなに意気投合できるものなのか。



「実はねぇ、モカは15歳になったのに変身ができないのぉ」

「……スキル、使えないの?」



 モカがこくりと頷く。

 シャルティが僕の方を見た。



「……私の知り合い、そういう人いた。……でも、使えるようになった」

「えぇー、本当ぉ!? モカも変身出来るようになるかなぁ?」

「……あなたも、きっと大丈夫」

「えへへぇ。そうだと嬉しいなぁ。ラビット、モカのお話聞いてくれてありがとぉ♪ ねぇねぇ、今日はどこに泊まるのぉ? 良かったらうちにおいでよぉ」

「……ありがと、モカ。……でも私たち、行かなきゃ」



 モカの誘いをシャルティが名残惜しそうに断る。

 しかし、モカは全く諦める様子がない。



「なんで、なんでぇ? いーじゃーん。泊まっていきなよぉ」

「……村の、長老。……私たちのこと、嫌いだから」

「おじいちゃんがそんなこと言ったのぉ? だったら、大丈夫だよぉ」



 え!? おじいちゃん? モカって長老の孫娘ってこと!?

 あと、大丈夫ってなに!?



「モカが頼んだらぁ、おじいちゃんは何でもぉ、いいよっていうのぉ」



 いやいやいや、あんなに敵意まる出しの人の家に泊まるの!?

 それはそれでキツいって!


 しかし、モカに強引に引っ張られるシャルティを、僕たちは止めることができなかった。


 孫娘のモカに頼まれた長老は、めちゃくちゃ渋い顔で僕たちを泊めることを許可した。




「今夜だけじゃぞ。明日には必ず村を出て行くのじゃ。それから……夜は何があっても部屋を出てはならぬ。いいな!」



 明日の朝、生きて家を出られるのかな。



 僕たちは針のむしろに座る気持ちで、一晩の宿を借りた。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。

 トリスワーズ国 Tips <スキル>


『竜巻』

 操作型アクションスキル

 凍結させた野盗のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 周囲の風を操作し、旋風や竜巻を起こすことが出来る。


『追尾』

 操作型アクションスキル

 凍結させた野盗のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 スキル使用者が投げたものが自動的に対象を追尾する。

★次回予告★

 どうも、ヒュムの嫌われっぷりを痛感しているエヴァルトです。

 騙し討ちはヒュムの得意技、ってなかなかの悪口。

 それでも孫娘の頼みは断れない長老ってちょっとかわいいよね。

 夜は何があっても部屋を出るな、ってどういうことだろう?

 次回、あにコロ『episode23 暴れる竜』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――


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