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episode21 禁忌の業

(第三者視点)


「さて、一体、いつになったら俺の前にエヴァルトを連れてきてくれるんだ? 我が従兄弟いとこ、ナホロスよ」

「はっ、ははーーっ! 間もなく! もう間もなく見つけられるはずである!」

「はて、昨日もそのような報告を聞いた気がするが……俺の気のせいか?」



 ヴァルデマルはいつになく苛立っていた。

 エヴァルトが王城を逃げ出してから、すでに三度の朝日を見た。


 一度目の朝日を見た後、ナホロスを呼び出してエヴァルトを追跡させた。

 ナホロスは近くの農村を調べただけで帰ってきた。


 二度目の朝日を見た後、王都の外れで古井戸に偽装された抜け道が発見された。

 エヴァルトが王都に残っている線はほぼ消えた。


 三度目の朝日を見て、もう昼が過ぎた。



「ナホロス、キサマはなぜ王都にいるのだ?」

「は? なぜとはどういう意味であるか?」



 ヴァルデマルは、頭が痛くなってきた。



「昨日、抜け道が発見されたのは知っているな?」

「もちろんである!」

「ならば、エヴァルト達がとっくに王都を出ていることも分かっているな?」

「当然である! 小生の私兵を総動員して、王都の周辺を捜索させているのである。(しか)るに大罪人エヴァルトめも、もう間もなく見つけられるはずである!」



 ナホロスは、王都の周辺だけを探していた。


 ヴァルデマルには、この不佞ふねいな従兄弟の考えが手に取るように分かった。

 故に、頭痛はヒドくなる一方だ。



「トカゲの村は調べたのか? ケモノの村はどうだ?」



 トカゲはリザド、ケモノはコボルを指す。

 ヴァルデマルが好んで使う、差別用語のスラングだ。



「あやつらはヒュムを嫌っているのである。あのような場所、調べるだけムダなのであ――」

「キサマの意見など聞いておらんわ! さっさと調べてこい!!」



 ヴァルデマル国王代行の怒声が、謁見の間に鳴り響く。



「はっ、ははーーっ! すぐにセバスサンを呼び戻し――」

「うるさい! キサマが行けば良いだろうが!!!」

「はっ、ははーーーーーっ!」



 ナホロスが、ショウリョウバッタのように頭をペコペコさせながら、逃げるように謁見の間から出て行った。


 ヴァルデマルは深いため息をついて、次の謁見希望者を呼ぶ。



「お初にお目にかかります。ヴァルデマル殿下。私はスキルの研究をしておりますノーズライグと申します」



 黒いローブに身を包んだ、ヒュムのジジィだ。



「お前か、母の紹介の研究者というのは。それにしても研究者というのは、なぜこうも怪しさ漂う外見をしているのか。理解に苦しむ」

「申し訳ございません。お金があれば漏れなく研究につぎ込んでしまう性分のため、新しい衣服を買うお金も無いのです。黒いローブは良いですよ、汚れが目立ちませんから」

「ふん、合理的な回答ではあるな。それで、見せたいものがあると聞いているが」



 ノーズライグはうやうやしく頭を下げると、手元からケージを取り出した。

 中にはネズミが一匹入っている。



「なんだ、そのネズミは。汚らしい」

「これは世にも珍しい火を吐くネズミにございます」

「なに? 火を吐く、だと?」



 ノーズライグがネズミを取り出し、エサを見せる。

 すると、ネズミが口から火を吐きだした。


 ノーズライグが、ご褒美のエサを与えると、ネズミは満足そうにケージへと戻っていった。



「お前……ノーズライグといったか。たしかスキルの研究者と申しておったな。ならば、まさか今のは属性型スキルか?」

「左様でございます。殿下」



 ヴァルデマルは驚愕した。人以外の生物がスキルを使うなど、聞いたことが無かった。



「一体、このネズミはなんなのだ!?」

「殿下、人はどうしてスキルを使えるか、ご存じですか?」

「どうして、だと? そういう生物(もの)だから、であろう。カメレオンにどうして体の色が変化するのか、と聞くものなどおるまい」

「それを調べるのが『研究者』という生き物でございましてな。人がスキルを使うとき、脳の一部から強い力が出ていることが分かっております。つまり、人は特別な脳を持っているということです」



 ノーズライグの話に、ヴァルデマルは聞き入っていた。



「ほお、しかし、それではネズミがスキルを使える理由にはなっておらんな」

「では人の脳の一部をネズミに移植したら?」

「そういうことか! いや待て、人とネズミでは脳の大きさが違うだろう?」

「そこはそれ、人にはスキルというものがありますゆえ」



 ノーズライグのスキルなのか、別の者のスキルなのか、とにかく何らかのスキルで人の脳をネズミに移植することに成功したらしい。


 いつの間にか、ヴァルデマルの機嫌はすっかり良くなっていた。


 こんなに面白い話を聞いたのは、いつぶりだろうか。



「面白い、面白いぞ、ノーズライグ! して、望みはなんだ?」

「恐れ入ります。まずは研究資金のご援助を」

「良かろう。月に金貨100枚を与える。ただし研究の成果は逐一、俺に報告せよ。直接だぞ!」



 ヴァルデマルは、この研究者を囲い込むことを決めた。



「もちろんでございます。それともう1つ」

「なんだ? 屋敷か? 女か?」

「いえいえ。ただ研究の段階を進めさせて頂きたく。実験に使える素材のご提供をお願いしたいのでございます」

「そんなことか。構わんぞ。犬か? 象か? それとも獅子か?」



 ヴァルデマルの問いに、ノーズライグは事も無げに答えた。



「いえ、『人』にございます」



 ヴァルデマルはそれを聞くと、高らかに笑った。



「はっはっはっはっはっはっは。良かろう。まずは罪人から適当な者を見繕え。それから、ちょうど王都の周りをうろうろしているトカゲやコビトが目障りだと思っていたのだ。俺の兵を貸してやるから好きに使うがいい」

「ありがたき幸せでございます」



 ノーズライグが再び頭を下げた。



(あの無能にも使い道が出たな)




 次の日、ヴァルデマルは『生死を問わず』としていたエヴァルトの懸賞金を『生け捕りのみ』へと変更するよう指示を出した。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <スキル>


『穿孔』

 操作型アクションスキル

 野盗(見張り)のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 掌で触れた物質(非生命体)を操作し、穴を開けることができる。

 生物は対象外のため、直接的な攻撃には使用できない。


『外傷治癒』

 神聖型アクションスキル

 野盗(見張り)のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 掌で触れた生命体の外傷を治癒できる。

 打撲や切り傷であれば数秒だが、骨折や切断部の接合は時間がかかる。

 言うまでもなく、既に失われた命を救うことは出来ない。



★次回予告★

 俺がこの国の国王代行、ヴァルデマルだ。

 エヴァルトめ、どこに隠れているのだ。

 奴を捕まえたら、ノーズライグの実験に使ってやろう。

 ゼロスキルの無能が、スキルを使えるようになるのか、ならないのか。興味深い。

 次回、あにコロ『episode22 長老と孫』

 いいから読め、読まねば殺す!

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