episode20 コイバナ
(シャルティ視点)
私たちは、コボルの村へ向かう途中で、温泉に寄り道することにした。
ベントットに連れられて、道なき道を進むこと20分。
ついに、目的の温泉が目の前に現れたのだ!
「わぁ、スゴい! まさに山奥の秘湯ね」
「……でも、ここ。……お風呂、1つだけ」
そう、大きな温泉が1つ。
流石に男性と一緒に入るのは憚られる。
「そうねえ、広いとはいえ、男女で一緒にお風呂に入るわけにはいかないものねえ。ここは男性陣には遠慮して頂いて――」
「ちょっと待った! それは横暴なんじゃないか? そもそもこの温泉に来たいと言ったのはオレだぜ」
せっかく温泉まで来たのに、利用権をめぐる醜い争いが始まろうとしていた。
「まあまあまあ、僕に任せてよ。ちょっと考えがあるんだ」
エヴァルトが争いを止めるべく、仲裁に入る。
だが、エヴァルトに任せるとロクなことにならないと、私は知っている。
「……ジョーカーの、任せて。……ちょっと、怖い」
「そうね、2回も前科があるものね」
「なんだ、氷漬けだけじゃねぇのか。やるな」
エヴァルトがちょっと困っている。
マスクに隠れて見えないけれど、きっと眉を八の字にしている。
「あー、分かった。説明するからっ。ここって山の奥で、木がいっぱい生えてるでしょ」
「まあ、そうね」
「僕のスキル、【植物操作】で枝とか葉っぱとかを伸ばしていけば」
「……壁、作れる」
「そういうこと!」
「ジョーカー、お前冴えてんじゃねぇか。やるなあ」
エヴァルトが、大きな温泉を真ん中から草木で分断して、視界を遮る壁を作ってくれた。
分かりやすくドヤ顔している気がした。
私は、1年前、スキルが発現しなくて落ち込んでいたエヴァルトを知っている。
だから、今、生き生きとしている彼を見ると、とても嬉しい。
エヴァルト、ベントットと別れ、クロ姉と一緒に温泉へと向かった。
視界を覆う白い湯気。
ちょっと熱めのお湯が、旅に疲れた身体を包み込む。
「……ふぅー、気持ちいい」
「最高ねぇ。ベントットを連れてきて本当に良かったわ」
隣にいるクロ姉と顔を見合わせて笑った。
それはさておき、さっきからクロ姉の胸がお湯に浮いている。
気になって仕方がない。
どうしても、自分と比べてしまう。
「……クロ姉、大きい」
つい口に出してしまった。
私とクロ姉の身長はほとんど変わらない。
ほんの少しクロ姉の方が高いかな、くらいのもの。
なのに、この胸部の存在感の差は一体どういうこと!?
私は丘、クロ姉は山脈。
「あら、うらやましい?」
クロ姉が、わざとらしく胸を強調したポーズをとる。
私はコクコクと大きく頷いた。
「大丈夫よ。ラビットはまだ若いでしょ、これから大きくなるわ。あたしも14,15の頃はラビットと変わらなかったし」
「……本当? 大きくなる?」
「本当よ。実はあたし、未来が分かるの。ラビットはあたしと同じくらい大きくなる。あたしが保証するわ」
何の根拠もない保証。
そのはずなのに、なぜかクロ姉の言葉には全幅の信頼を置くことが出来た。
「……なんだか、不思議。……会ったばかりなんて、全然思えない」
クロ姉と会ってから今まで、ほんの2,3日しか経っていない。
そのはずなのに、もう10年以上一緒に生きてきたような気がする。
「あたしもよ、ラビット。今は2人きりだからシャルティでいっか。あなたのこと、本物の妹だと思っているわ」
「……ちょっと、歳が離れてる」
「あ! 言ったわね! でも、まあ言い分は分からなくもないわ。ここは10歩ほど譲って姪ってことにしない?」
クロ姉の提案に、私は首を振る。
「……妹で、いい」
なんだか姪だと、関係が薄い気がした。
少し歳が離れた姉と妹。なんて素敵な関係だろう。
母に続いて父も殺され、家族を全て失った私に、こんな素敵な姉が出来るなんて。
「ところでシャルティ、あなた王子様のことはどう思ってるの?」
「……え? ど、どうって?」
クロ姉がニヤニヤしている。
「姉妹ってこういう話するんでしょ? 違った? 2人って幼馴染なのよね? お姉さん、2人の関係が気になって気になって」
「……ただの、幼馴染。……というか、弟みたい」
「あら、そうなの? 残念。でも、ちょっと分かるかなぁ、同世代の男の子ってちょっと幼いわよね。子供っぽいし、手がかかる感じ」
激しく同意する。
エヴァルトはずっと王城で暮らしていたから、特にそのきらいがある。
箱入り息子というか、世間知らずなのだ。
「でも、あの年頃の男の子は成長も早いわよ」
「……そう、かな?」
ちょっと心当たりが無いこともない。
スキルを使えるようになって、自信がついてきたエヴァルトの横顔が、たまに頼もしく見えることがある。
「ふふふっ、これは時間の問題かな」
「……え? どういうこと?」
「ううん、こっちのはなし」
「……むぅ、やな感じ。……クロ姉の恋の話、聞きたい」
矛先をクロ姉に突き返す。
「あたしは、もう十分に恋したわ。報われることは無かったけど、あれが最後の恋」
「……その人、どこにいるの?」
「空の上、かな」
「……あ、ごめんなさい」
「いいの、いいの。さ、そろそろあがりましょ」
いつも明るいクロ姉にも、色々あるんだな。
また、クロ姉とこんな話をしたい。心からそう思った。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <スキル>
『凍結』
操作型アクションスキル
野盗(見張り)のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
掌で触れているものの水分、及びその周囲の水分温度を操作し、凍結させる。
通常時は物質を表面的に凍らせる冷凍に近いが、水そのものに使えば巨大な氷塊を作ることも出来る。
『植物操作』
操作型アクションスキル
野盗(見張り)のスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
身体が接触している植物を操作することが出来る。
接触している部位によって操作の精度は異なる。具体的には、足よりも手の方が、より精密な操作が可能になる。
植物をただ動かすだけでなく、急速に成長させたり枯らしたりなども可能。
★次回予告★
……私、シャルティ。
……お姉ちゃん、出来ちゃった。……とっても、楽しかった。
……次は、王都の話。……私たち、出番無し。
……次回、あにコロ『episode21 禁忌の業』
……読んで、くれる?
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