episode18 宴の夜に
その日の晩、リザドの村はお祭り騒ぎだった。
これまで5年もの間、頭を悩ませていた野盗問題が一気に解決したからだ。
「ジョーカー様、クローネ様、ラビット様。本当にありがとうございました」
「これで村は生き返ります! ああ、救世主様!!」
「ベントット。お前も手伝ってくれたんだってな。本当に辛い役目を……すまんな」
村中の人が集まって、僕たちに感謝の気持ちを伝えてくれる。「ありがとう」という言葉がこれほど気持ちがいいとは。
クロ姉から勧められて、打算的な気持ちで始めた正義の味方だけど、なんだかクセになってしまいそうだ。
さらには、子供たちが綺麗な花を持って、お礼にきてくれた。
「おばちゃん! おにいちゃん! おねえちゃん! わるいやつをやっつけてくれて、ありがとう!」
「おばっ……! まさか、あたしのこと!?」
どうやら1名、「ありがとう」で心に大きな傷を負った者もいるようだ。
「我が村は野盗の影響で財政難とはいえ、食べ物だけは豊富にあります。今日は思う存分、食べて、飲んでください」
獲れたての野菜と、新鮮な魚を使った料理の数々。
高級な料理ではないが、素材の味を活かしたシンプルな調理がたまらない。
「……やばい、美味しい。……語彙力、無くなる」
シャルティも満足しているようだ。
「クッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷはーーーーっ! 最っ高!」
クロ姉は、村長から勧められた秘蔵のお酒で、フルスロットルだ。
村長のお酒を全部飲んでしまいやしないか、心配になる。
僕も勧められて、ひと口だけ飲んだのだけど、アルコールが強くてダメだった。
果汁で割ったお酒とか、甘いお酒じゃないと飲めないんだよなあ。
ちなみに、シャルティはまだ成人してないから飲んでいない。
ところで、ベントットはどこだろうか。
自ら望んだこととはいえ、幼馴染に引導を渡すことになった彼のことが気になっていた。
★
「ゴンゾーラ、すまなかった……」
村外れにある墓地。そのさらに外れに、ベントットはいた。
どうやらゴンゾーラに別れを告げているようだ。
「そこは、誰のお墓なの?」
僕が声を掛けると、ベントットが驚いた様子で振り返る。
「はっはっは、見つかっちまったか。ここは……5年前に王族襲撃で死んだ奴らの墓だよ。つっても、墓の下には誰もいねぇんだけどな。形見の品だけ埋まってんだ」
つまり、慰霊碑みたいなものか。
「5年前にオレが止めたせいで、あいつだけ死に損ねた。だから、せめてもの償いっつーのかな、あいつの形見もここに埋めてやろうと思ってさ」
ベントットの手には、先の戦いでベントットが使っていたナイフが握られていた。
「物騒な形見だけど、これしか無くてよ。村にはあいつの持ち物なんか残ってねぇし、野盗の屋敷は氷漬けだし」
それはごめんって。
「ま、屋敷が無事だったところで、どれがあいつの持ち物かなんて、分からねぇんだけど」
そこまで聞いて、ふと思い出した。
「そういえば、ゴンゾーラって何か荷物を持ってなかったっけ。決闘前に放り投げてたやつ」
「ああ、あれな……。ぜんぶ金だったよ、金貨と銀貨。結構な量だったから、きっと野盗稼業で稼いだ金を貯めてたんだろうな」
「金? それこそ屋敷の金庫とかに入れておくもんじゃ……」
「野盗達を信用して無かったんだろう。あいつの同胞は5年前に全員死んじまった奴らだけってことさ」
ベントットが、ナイフを地面に置き、地形操作で地中深くへと運ぶ。
「お金なんか貯めて、どうするつもりだったんだろう」
「さあな。ヒュムと戦争するための軍資金のつもりだったのかもしれねぇし、単純に使い道が見つからなかったのかもしれねぇ。真実はゴンゾーラと一緒に墓の中だ」
死人は喋ることが出来ない。
僕も一歩間違えば、王殺しの汚名を着せられたまま殺されていた。
僕はまだ生きている。真実を伝えることが出来る。
「オレは村を出ようと思う」
「え!?」
と驚いてはみたものの、正直、今日知り合ったばかりの人に、そんなこと打ち明けられてもな……、と思っていた。
「ゴンゾーラはオレが殺したようなもんだ。オレだけ村でのうのうと生きていくわけにはいかねぇ。オレも贖罪が必要だと思うんだ」
「そっか。うん、良いと思う」
どう反応していいか、全然分からなくて、とても淡泊な返事をしてしまった。
しかし、ベントットは続きの言葉を求めるように、僕の方をじっと見てくる。
これは、あれか……? 仲間に誘えってことなのか?
贖罪っていうのも、人助けって意味で、正義の味方やってる僕らに同行したい、って。そういうこと!?
「え、えっと……、い……いっしょに、来る?」
「おお! いいのか!?」
「あ、いや! 一応、クロ姉とラビットにも確認しなきゃ」
「いや、嬉しいことを言ってくれるぜ! オレのことは兄貴だと思ってくれて構わねぇからな!!」
「あの、だから……クロ姉とラビットに……ダメだ、聞いてない」
ベントットが なかまに くわわった。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <スキル>
『無音』
操作型アクションスキル
野盗のリザドが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
周囲の空気振動を止めることで無音の空間を作ることができる。
範囲は約5mくらいで、自分自身も一切の音が聞こえなくなる。
『振動』
操作型アクションスキル
野盗のリザドが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
掌で触れている物質を大きく揺らすことができる。
スキル使用者を震源として、10m範囲は立っていられないくらい揺れる。
★次回予告★
どうも、エヴァルトです。
いや、あれはもう声掛けるしかなくない?
僕ってヤツは、どうしてベントットを探しに行っちゃったかなあ。
次回、あにコロ『episode19 旅の行先』
ちょっとだけでも読んでみて!
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