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episode17 友の最期


「おいおい、誰かと思ったら腰抜けベントットじゃねえか。どうした? まさか、俺の首でも獲りに来たか?」

「……ゴンゾーラ」



 5年ぶりの再会となる、2人のリザドの視線が交錯する。



「ちょっと荷物を置いてくっから、待ってろ」



 ゴンゾーラは僕たちを押しのけて、屋敷の扉のドアハンドルをグイッと引っ張った。

 

 ――ミシッ


 小首を傾げながら、更に力を加える。


 ――ミシミシミシッ……バキッ


 大きな音を立てて、ドアハンドルが壊れた。


 そりゃ、そうなる。

 そのドアの反対側には、屋敷一面に広がる巨大な氷が貼りついているんだから。



「どういうことだ、これは? ……さては、てめぇらの仕業か」

「あ、はい。ごめんなさい」

「なんで野盗に謝ってんのよっ」



 さっきの流れで思わず謝ってしまって、クロ姉に後頭部をどつかれた。


 もはや元王子の威厳はどこにもない。



「……ベントット。この変なマスクの連中はお前の連れか?」

「どちらかといえば、オレの方がオマケさ」

「まあ、どっちがオマケでもいいけどよ。見張りは表で寝てやがったし、屋敷の中の連中もこの様子じゃ全滅か。で、次は俺を袋叩きにするってわけだ」



 ゴンゾーラは荷物を脇に放り投げ、腰からナイフを取り出した。



「そう簡単にはやられねぇよ」



 相手が戦闘態勢に入ったのを見て、僕も反射的に剣を抜いた。


 隣ではクロ姉とシャルティも剣を抜いている。



「待ってくれ!!!!!」



 ベントットが僕たちとゴンゾーラの間に割って入った。



「無理やり付いてきた上に、ワガママを重ねてすまねぇ。こいつとは、ゴンゾーラとは差しでやらせてもらいてぇんだ」



 僕とクロ姉、シャルティは秒で頷いた。



「そう言うと思ってたよ」

「正直、いつ言い出すのかなって、待ってたわ」

「……付いてきたときから、想定内」



 僕たちは剣を鞘に納め、二人から少し距離を取る。



「お、おう。ありがとよ」



 ベントットの顔は真っ赤になっていた。

 ほら、考えてることがバレてるって恥ずかしいだろ。

 僕の気持ちが少しは分かったか。



「なんだ、なんだ。俺は腰抜けベントットをぶちのめせば、見逃して貰えるってことか?」

「そんなわけないでしょ。とりあえず袋叩きにはしないでやるってだけよ」

「はっ、ケチなねーちゃんだな」



 ゴンゾーラは、クロ姉に軽口を叩きながらも、目線はベントットから外さない。


 ベントットはナックルを構え、ゴンゾーラはナイフを向ける。



「こうして向かい合ってると、5年前を思い出すな。あんときゃ、俺もお前も、スキルもなければ、武器も持ってなかった」

「ああ、ゴンゾーラ。5年前の決闘の仕切り直しだな。今回はどっちも有りだ。オレも命を賭ける」

「ふん、俺にはもう賭ける命もねぇよ。……お前のおかげでなあ!!!」



 ゴンゾーラがナイフを構えて突っ込んできた。


 ベントットが左足で地面をドンと踏みこむと、ゴンゾーラとの間の地面が大きくせり上がり、土の壁を作った。


 ゴンゾーラが肩から土壁にぶつかる。ドンッと地面にぶつかったような音がした。



「お前のスキルは【地形操作】か。戦闘向きのいいスキルじゃねぇか」

「……ぐっ」



 いつの間にか、ベントットが膝をついている。

 ベントットの足元に、ゴンゾーラのナイフが刺さっているが、命中した様子は無い。


 よく見ると、ベントットの足が少し地面に埋まって見える。



「……多分、【重力操作】」



 ゴンゾーラの方は、動きも軽やかで、過重力の影響は見られない。


 僕の無音のように自分を中心に発動するスキルではない。

 恐らく、ナイフが刺さったポイントから一定範囲の重力を操作するのだろう。



「あれ? これ、もう負けそうじゃない?」

「自分から決闘申し込んでおいて、負けたら超カッコ悪いわよねえ」

「……メチャクチャ、ダサい」

「そういう問題? 僕の感覚がおかしいの?」



 あとは近づいてナイフを一刺し。ベントット死す。――ってなったら、すごく寝覚め悪いんだけど!?


 ベントットは、ナイフが刺さっている地面を高く隆起させ、ナイフを重力操作の射程外まで引き離す。


 過重力から解き放たれて、自由になったベントットが拳を繰り出す。


 しかし、ゴンゾーラはその体躯に似合わない軽やかさで、ひょいひょいとベントットの拳を躱す。



「あの野盗、ゴンゾーラって言ったかしら。自分の周りは重力を軽くしてるわね」



 ベントットは【地形操作】で土壁を作って、ゴンゾーラの逃げ場を封じつつ、拳を繰り出す。


 ゴンゾーラが距離を取りながらナイフを投げると、ベントットは土壁でナイフを防ぐ。



「なあ、ゴンゾーラ。今からでも村に戻ってくるわけにはいかねぇのか? みんなにちゃんと頭下げてよぉ。オレも一緒に謝るから――」

「寝言は寝て言え。賭ける命もねぇって言ったろ? 村で生まれたゴンゾーラは、あの日、同胞たちと一緒に死んだんだ。それに、野盗を率いて村の金を奪っていた俺を許すわけがない。もう戻る場所なんかねぇんだよ!」



 ゴンゾーラの言う通りだ。村は野盗によって大きな被害を受けている。


 もう彼の居場所は無い。



「なんで……なんで野盗なんかになっちまったんだよ!」

「5年も音沙汰無しで、ずいぶんな言い草だな。俺が野盗の頭になってたことは前々から知ってたろ?」

「怖かったんだ。オレのせいで、お前が村を出て、野盗になった。そう思うと――」

「うぬぼれるな。お前も村も、ヒュムと同じくらい憎い。だが、村を出たのも、野盗になったのも、俺の意思だ!」



 ゴンゾーラが右手を掲げると、彼が投げてきたナイフが黒く光り出す。


 ナイフが刺さっている場所で一斉に強力な過重力が発生した。



「ん、ぐぅおおおお」

「終わりだ、ベントット!」



 ベントットの身体が大きく地面にめり込む。



「き……切り札が……あるの……は、こっちも……同じだ!!!」



 ベントットが両手で地面を強く押すと、これまでに隆起させた土壁が生き物のように動き出し、ゴンゾーラへ襲い掛かった。



「なっ!?」



 一瞬の決着だった。土壁が消えたかと思うと、ゴンゾーラの身体はすっぽりと地面に埋まり、首だけが出ていた。ゴンゾーラは衝撃で気絶していた。


 さっきまで地面に突っ伏していたベントットが、土を払いながらゴンゾーラに近づく。



「ジョーカー、こいつのスキルを奪ってくれ。そして出来れば……いや、なんでもねぇ」



 ベントットには悪いが、逃がしてやるわけにはいかない。

 野盗達の被害に遭った、罪なき人々のために。


 僕たちはゴンゾーラを含む野盗達のスキルを回収する。

 【竜巻】【追尾】【物質縮小】【行動停止】【ブロック生成】そして【重力操作】だ。


 早速、【行動停止】のスキルで野盗達を動けなくして、村へと連行した。



 ゴンゾーラは村の掟に従い、死罪となった。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <スキル>


『地形操作』

 操作型アクションスキル

 ベントットのスキルで、身体が接触している地面や壁を操作することが出来る。

 接触している部位によって操作の精度は異なる。具体的には、足よりも手の方が、より精密な操作が可能になる。

 操作できるものはあくまで地形であるため、建物や橋、舗装路などの人工物は対象外。


『重力操作』

 操作型アクションスキル

 ゴンゾーラのスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 物質にスキル効果を付与して発動させると、物質から一定範囲の重力を重くしたり軽くしたりできる。

 ゴンゾーラはナイフにスキル効果を付与していた。


★次回予告★

 どうも、ずっとワクワクしながら観戦してたエヴァルトです。

 はじめは絶対ベントット負けると思ってたもん。

 無事、野盗も退治したし、今夜は宴会だ!! 

 次回、あにコロ『episode18 宴の夜に』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――


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