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episode15 訣別の日


「俺は、ヒュムを許せないんだよ」



 これはオレの幼馴染、ゴンゾーラの口癖だ。


 オレ達リザドは先の大戦に敗北した……と聞かされている。


 大戦後に生まれたオレ達は、祖父の世代から当時の話を子守歌代わりに聞かされて育ってきた。



「あいつらは俺たちをハメた。ズルして大戦に勝ったんだ。許せるわけがない」



 ヒュムの歴史では、オルガ・コボル・ハピラ・リザドの連合軍が降伏して大戦が集結した、とされているらしいが、リザドに伝わる大戦の結末は全然違う。



「特にヴィスタネルは絶対に許さねぇ。こっちを油断させておいて、騙し討ちしやがったアイツだけは!」



 大戦を終結させた英雄と言われているシュヴァル=ヴィスタネルのことだ。


 シュヴァルは連合軍のリーダーに講和を持ち掛け、講和会議の場を襲撃。

 連合軍のリーダーを騙し討ちにした、と伝えられている。


 もちろん、事実は分からない。

 事実を知るものは、そのほとんどが戦死しているのだから。


 だが、リザドの中にはゴンゾーラのような過激な考えを持つ者が少なくなかった。


 特に血気盛んな若者は、この考えに同調する者が多くいた。


 そして、ついにあの事件が起こったんだ。


      ★


 ――5年前



「おい、ベントット。俺たちはやるぞ! 卑怯者のヒュム達に一泡吹かせてやるんだ」



 ゴンゾーラはオレに部屋にくるなり、顔を上気させて、そう言った。



「やるって、何を?」

「決まっている! リベンジだ!」

「リベンジ!? 何をするつもりだ」



 ゴンゾーラは言うには、ヴィスタネルの王族が国内の視察に回っているらしい。


 今夜、同胞たちと、その野営地を襲撃して、王族を暗殺するのだ、と。


 大戦でリーダーを騙し討ちされた意趣返いしゅがえしということだろう。


 嫌な予感がした。



「お前も来い! ベントット!!」

「待て、落ち着け! なぜそんな重要な情報が洩れている? おかしいと思わないのか?」

「同胞が王都に潜り込んで、命懸けで持ってきた情報だ。俺たちも命を賭ける価値がある情報だ。違うか?」



 気持ちは痛いほど分かる。

 だが、とても冷静な判断が出来ているとは思えない。



「しかし、王族を襲撃するとなれば、成功しても失敗しても、殺されるぞ」

「構うものか! 屈辱にまみれた一生を送るくらいなら、俺は命を捨てたって構わん」



 これはもう言葉では止められない。そう思った。

 だが、オレはどうしてもこの幼馴染を、ゴンゾーラを死なせたくなかったのだ。



「オレと決闘しろ、ゴンゾーラ」

「なに?」

「襲撃に参加するのならば、オレを倒してから行け、と言っているんだ」



 リザドの決闘は絶対である。

 決闘を申し込まれた者が、これを無視すれば、一生その汚名を背負っていくことになる。



「襲撃に参加しないどころか、俺の邪魔までするのか、ベントット。見損なったぞ」

「何と言われようと、オレの決意は変わらん。外へ出ろ、ゴンゾーラ!」

「ふん。ヒュムに逆らう度胸も無い腰抜けが、俺に勝てるとでも思っているのか」



 夕闇の中、オレ達は拳を構えて相対した。

 まだ成人前でスキルも発現する前の話だ。

 鍛えた肉体だけがオレ達の武器だった。



「すぐに終わらせて、俺は行く」



 先に仕掛けたのはゴンゾーラだ。

 俺は急所をガードしながら、隙をみて拳を返した。

 決して大振りせず、距離を取りながら戦った。



「卑怯だぞ、ベントット。男ならインファイトで殴り合え!」

「お前に戦い方を指図される覚えはない」


 

 なかなか決定打を決められず、ゴンゾーラが激怒する。

 そして大振りになった隙をついて、オレの拳がゴンゾーラの鳩尾みぞおちに突き刺さる。



「ぐっ……」



 ゴンゾーラの口からうめき声がこぼれた。

 しかし、ゴンゾーラも倒れない。



「俺はお前を倒す。倒して、必ず奴らに復讐を」

「復讐じゃダメだ。……ゴンゾーラ、オレはお前となら、この世界を変えられると思っているんだ」



 誰にも言ったことが無い、オレ自身の本心だった。


 今のトリスワーズではダメだという気持ちは、ゴンゾーラと同じだと伝えたかった。



「それはいつだ? 10年後か、20年後か? そのとき俺たちはいくつになっている!?」

「……」



 答えられなかった。


 20分ほど殴り合っただろうか。

 オレとゴンゾーラは、どちらも地面に大の字になって倒れていた。


 どちらが先に倒れたのかも分からない。

 だが、1つだけ確かなことがある。


 もうゴンゾーラには襲撃に参加できるだけの体力は――無い。


 次の日、ヴィスタネル王族襲撃の計画が失敗した、という話が村に伝わってきた。


 やはり、と言うべきか。反乱分子を炙り出すための罠だった。


 同胞は偽の情報を掴まされたのだ。


 襲撃に参加したリザドの若者たちは多くが死んだ。

 生き残った者もすべて捕まった。


 この村に若い男が少ないのはそういう理由だ。


 王都からの調査に対して、村はこの襲撃について一切の関与を否定した。


「襲撃した者に、村の者はいない」と言い切った。

 村を守るため、苦渋の決断だったことは想像に難くない。


 結果として、捕まった村の若者たちは首を斬られ、王都で晒し首になったという。



「なぜ、俺をあいつらと一緒に死なせてくれなかった。俺は、お前も、そしてあいつらを見捨てたこの村も、絶対に許さん」



 そう言い残して、ゴンゾーラは村から姿を消した。



 あいつが流れ者を集めて野盗の頭になった、と聞いたのは、それからすぐのことだ。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <ホワイトリベット>


 トリスワーズの北に位置する大地。いくつもの部族が絶えず争いを続けている戦乱の地。

 大きな部族がトリスワーズに攻め込んでくることもあれば、武具の原料となる鉱石の取引を求められることもある。

 ヴィスタネル王家も、王城を北に置き、ホワイトリベットには常に注意を払っている。


★次回予告★

 おう! ベントットだ。

 ゴンゾーラのことはオレが決着をつける。

 ところで、ジョーカーたちは、なんでマスクなんかつけてんだ?

 オレは絶対つけねぇぞ、あんな変なマスク。

 次回、あにコロ『episode16 野盗の砦』

 オレの活躍を見逃すなよな!

―――――――――――――――――――――――――

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