episode14 野盗の頭
「我が同胞を助けて頂き、また村の生活資金を守って頂き、本当にありがとうございます」
助けたリザドに連れられて、リザドの村に来てみれば、村長から直々に感謝の言葉を頂いた。
村の偉い人、というとお爺さんのイメージだったが、村長は40代後半くらいの中年男性に見える。
思ったより若い人もいるんだな。
「いえ、我々は人として当然のことをしたまで。さて、捕らえた賊はいかがいたしましょう。我らの秘儀でスキルは使えなくしておりますが……」
畏まった喋り方をしているクロ姉は、なんだかいつもと別人のようだ。
「スキルの封印とは、なんと珍しい。賊はこちらで引き取りましょう。我が村の掟に従い、処罰を与えます」
王都には王都の法があるように、人が集まるところにはそれぞれのルールがある。
彼らを捕らえた僕は、その結末を知っておく必要があると思った。
「ちなみに、どのような処罰になるんでしょう?」
「そうですな。我が村の民を殺していれば死罪でしたが、今回は金品の強奪となりますので、両腕を斬り落としたうえで、犯罪者の焼き印を押して追放、というところでしょうな」
極めて公平な裁決、妥当な刑罰だと思った。
多くの攻撃的アクティブスキルは手を通して発動する。
スキルを使った悪事を防ぐために両腕の機能を奪う刑罰は、王都の法でも採用されている。
当然だが、スキルを使うのに両腕を使わない者であろうと、今回のようにスキルが使えない状態の者であろうと、刑罰を変えてはならない。公平性の欠如に繋がるからだ。
犯罪者の焼き印を押すのは、前科者であることを周知することで、善なる人々への注意喚起となる。
王都から離れた村々では、野蛮な掟や、非合理的な裁定方法を取っているのではないか、などと失礼な想像をしていたが、この村はコミュニティの規模が小さいだけで、立派に法治が行き届いていた。
僕はまたしても、自らの見識の狭さを猛省することになった。
「ご教示頂き、誠にありがとうございます。大変参考になりました」
「頭を上げてくだされ。救世主殿」
「きゅ、救世主はやめてください」
突然の救世主扱いに戸惑いを隠せない。
「しかし、なんとお呼びすれば良いのか」
「名乗るのが遅れて申し訳ありません。僕はジョーカーと呼ばれています。隣にいるのが――」
「……ラビット、です」
「クローネと申します」
さすがに自分でクロ姉とは名乗らないか。
「ジョーカー様、ラビット様、クローネ様。おそらく、本名では無いのでしょうな。まあ、それは構いません。我々にとって、あなた方が恩人であることに変わりないのですから」
村長はそこまで語ると、水をひと口飲んで、ため息をついた。
「実は、ここの野盗の頭は、元々うちの村の者なのです。言わば、身内の恥というやつですな」
身内の恥、というワードに心がギュッと締め付けられる。
僕は『王家最大の恥』だったから。
突然、村長が頭を下げる。
「ジョーカー様、ラビット様、クローネ様。恥を忍んでお頼みします。皆様のお力でヤツに引導を渡して頂けませんでしょうか。本来は我々が自分で始末しなくてはならないこと。しかし、生活資金すら奪われている我々では……」
村長の家に辿り着くまでに、村の様子は見てきた。
食料を自給自足できるから、飢え死にするようなことはないものの、衣服や生活用品の不足は明らかだった。
若い男性の姿が少ないことも気になった。生活資金を守るための護衛にすら満足に人を割けないのも、そのせいだろう。
「もちろんです。是非、僕たちにこの村を救わせてください」
★
村長の頼みを承知してから、家を出るまでずっと「救世主様」「救世主様」と呼ばれ続けた。何度も「やめて」と言ったけどダメだった。
そりゃ、野盗から村を救う約束はしたけどさ。
「クロ姉、ラビット。勝手に依頼を受けちゃってゴメンね」
「……全然、問題無い。……ジョーカーに、ついていく」
「あたしは……むしろ嬉しかった。正義の味方をやるからにはさ、打算だけじゃなくて、やっぱり人を助けたいって気持ちを持って欲しいじゃない。さっきのジョーカーはとっても正義の味方だったわよ」
「ラビット……クロ姉……ありがとう」
さっき捕まえた5人の野盗から、スキルを奪うついでに、僕のスキル『自白』で野盗たちの情報を聞き出した。
アジトの場所は、村から少し離れたところにある山の中。
ドワフもいるらしく、創造系のスキルで簡素な砦まで建てているらしい。
捕まえた野盗たちがアジトに戻らなければ、きっと警戒が強くなる。
そうなる前に、さっさと奇襲をかけてしまう方が良い。
すぐに出発しよう、と村を出るところで、細マッチョで長身のリザドが、僕らの前に立ちふさがった。
歳はヴァルデマルと同じくらい。ベリーショートに刈りあげた金髪が威圧してくる。
「野盗退治にオレも連れて行ってくれないか? あいつは、オレの幼馴染だ。あいつが村を出て行ったのもオレのせいだ。あいつを止めるのを他人任せにしたくねぇんだよ」
なんか、めっちゃ語ってくる。
「オレの名前はベントット。少しでいい。オレの話を聞いちゃくれないだろうか」
僕たちはベントットと名乗る青年に、半ば無理やり、彼の思い出話を聞かされることになる。
お願いだから手短に……。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <野盗>
トリスワーズは王都から離れるほど、治安が悪くなる。
王国兵は、王都とその周辺の警備しかしないためだ。
大戦後、敗北したオルガ・コボル・ハピラ・リザドの中でも、特に家族を失った者達が、生きていくために他者の食料を奪い始めたのが、今の野盗の始まりだと言われている。
その後も、コミュニティに馴染めない者、弾かれた者が野盗へと加わっていった。野盗に親を殺された子供が、野盗へと身を落とすケースも散見され、負のスパイラルが続いている。
★次回予告★
どうも、エヴァルトです。
ベントットがすごく強引なんだけど。
強引に長話を聞かせて、強引に付いてくるんだけど。
そういうわけで、次の回の主役も強引に奪われてしまった。
次回、あにコロ『episode15 訣別の日』
ちょっとだけでも読んでみて!
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