表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/80

episode14 野盗の頭


「我が同胞を助けて頂き、また村の生活資金を守って頂き、本当にありがとうございます」



 助けたリザドに連れられて、リザドの村に来てみれば、村長むらおさから直々に感謝の言葉を頂いた。


 村の偉い人、というとお爺さんのイメージだったが、村長は40代後半くらいの中年男性に見える。


 思ったより若い人もいるんだな。



「いえ、我々は人として当然のことをしたまで。さて、捕らえた賊はいかがいたしましょう。我らの秘儀でスキルは使えなくしておりますが……」



 (かしこ)まった喋り方をしているクロ姉は、なんだかいつもと別人のようだ。



「スキルの封印とは、なんと珍しい。賊はこちらで引き取りましょう。我が村の掟に従い、処罰を与えます」



 王都には王都の法があるように、人が集まるところにはそれぞれのルールがある。


 彼らを捕らえた僕は、その結末を知っておく必要があると思った。



「ちなみに、どのような処罰になるんでしょう?」

「そうですな。我が村の民を殺していれば死罪でしたが、今回は金品の強奪となりますので、両腕を斬り落としたうえで、犯罪者の焼き印を押して追放、というところでしょうな」



 極めて公平な裁決、妥当な刑罰だと思った。


 多くの攻撃的アクティブスキルは手を通して発動する。


 スキルを使った悪事を防ぐために両腕の機能を奪う刑罰は、王都の法でも採用されている。


 当然だが、スキルを使うのに両腕を使わない者であろうと、今回のようにスキルが使えない状態の者であろうと、刑罰を変えてはならない。公平性の欠如に繋がるからだ。


 犯罪者の焼き印を押すのは、前科者であることを周知することで、善なる人々への注意喚起となる。


 王都から離れた村々では、野蛮な掟や、非合理的な裁定方法を取っているのではないか、などと失礼な想像をしていたが、この村はコミュニティの規模が小さいだけで、立派に法治が行き届いていた。


 僕はまたしても、自らの見識の狭さを猛省することになった。



「ご教示頂き、誠にありがとうございます。大変参考になりました」

「頭を上げてくだされ。救世主殿」

「きゅ、救世主はやめてください」



 突然の救世主扱いに戸惑いを隠せない。



「しかし、なんとお呼びすれば良いのか」

「名乗るのが遅れて申し訳ありません。僕はジョーカーと呼ばれています。隣にいるのが――」

「……ラビット、です」

「クローネと申します」



 さすがに自分でクロ姉とは名乗らないか。



「ジョーカー様、ラビット様、クローネ様。おそらく、本名では無いのでしょうな。まあ、それは構いません。我々にとって、あなた方が恩人であることに変わりないのですから」



 村長はそこまで語ると、水をひと口飲んで、ため息をついた。



「実は、ここの野盗のかしらは、元々うちの村の者なのです。言わば、身内の恥というやつですな」



 身内の恥、というワードに心がギュッと締め付けられる。

 僕は『王家最大の恥』だったから。


 突然、村長が頭を下げる。



「ジョーカー様、ラビット様、クローネ様。恥を忍んでお頼みします。皆様のお力でヤツに引導を渡して頂けませんでしょうか。本来は我々が自分で始末しなくてはならないこと。しかし、生活資金すら奪われている我々では……」



 村長の家に辿り着くまでに、村の様子は見てきた。


 食料を自給自足できるから、飢え死にするようなことはないものの、衣服や生活用品の不足は明らかだった。


  若い男性の姿が少ないことも気になった。生活資金を守るための護衛にすら満足に人を割けないのも、そのせいだろう。



「もちろんです。是非、僕たちにこの村を救わせてください」



      ★


 村長の頼みを承知してから、家を出るまでずっと「救世主様」「救世主様」と呼ばれ続けた。何度も「やめて」と言ったけどダメだった。


 そりゃ、野盗から村を救う約束はしたけどさ。



「クロ姉、ラビット。勝手に依頼を受けちゃってゴメンね」

「……全然、問題無い。……ジョーカーに、ついていく」

「あたしは……むしろ嬉しかった。正義の味方をやるからにはさ、打算だけじゃなくて、やっぱり人を助けたいって気持ちを持って欲しいじゃない。さっきのジョーカーはとっても正義の味方だったわよ」

「ラビット……クロ姉……ありがとう」



 さっき捕まえた5人の野盗から、スキルを奪うついでに、僕のスキル『自白』で野盗たちの情報を聞き出した。


 アジトの場所は、村から少し離れたところにある山の中。

 ドワフもいるらしく、創造系のスキルで簡素な砦まで建てているらしい。


 捕まえた野盗たちがアジトに戻らなければ、きっと警戒が強くなる。


 そうなる前に、さっさと奇襲をかけてしまう方が良い。


 すぐに出発しよう、と村を出るところで、細マッチョで長身のリザドが、僕らの前に立ちふさがった。


 歳はヴァルデマルと同じくらい。ベリーショートに刈りあげた金髪が威圧してくる。



「野盗退治にオレも連れて行ってくれないか? あいつは、オレの幼馴染だ。あいつが村を出て行ったのもオレのせいだ。あいつを止めるのを他人(ひと)任せにしたくねぇんだよ」



 なんか、めっちゃ語ってくる。



「オレの名前はベントット。少しでいい。オレの話を聞いちゃくれないだろうか」



 僕たちはベントットと名乗る青年に、半ば無理やり、彼の思い出話を聞かされることになる。



 お願いだから手短に……。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <野盗>


 トリスワーズは王都から離れるほど、治安が悪くなる。

 王国兵は、王都とその周辺の警備しかしないためだ。

 

 大戦後、敗北したオルガ・コボル・ハピラ・リザドの中でも、特に家族を失った者達が、生きていくために他者の食料を奪い始めたのが、今の野盗の始まりだと言われている。


 その後も、コミュニティに馴染めない者、弾かれた者が野盗へと加わっていった。野盗に親を殺された子供が、野盗へと身を落とすケースも散見され、負のスパイラルが続いている。

★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 ベントットがすごく強引なんだけど。

 強引に長話を聞かせて、強引に付いてくるんだけど。

 そういうわけで、次の回の主役も強引に奪われてしまった。

 次回、あにコロ『episode15 訣別の日』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ