episode13 火球連弾
「ねえ、正義の味方やらなくていいの?」
昨晩、あんなに正義の味方だとか、国の未来だとか言っていたのに。
鳥と兎と道化師の3人は、街道から少し離れた木陰で、昼下がりの日向ぼっこに勤しんでいた。
「あのね、ジョーカー。正義の味方が活躍するためには、まず悪事が起こらないとダメでしょ。今は時がくるのを待っているのよ」
「分かるけど……見回りするとか、やれることあると思うんだけどなあ」
「こんな変な格好した3人組が、街道や村の周囲を見回りなんてしてたら、不審者だと思われて、逆に警戒されるわよ」
そりゃそうだ。正体不明の正義の味方って、色々と制約が多いんだな。
「そんなに焦らなくても大丈夫。もうすぐ出番がくるわ」
また、クロ姉は適当なことを言って。
悪いヤツが、いつどこに現れるか、なんて分かるわけが――。
「さあ、行くわよ。準備して」
「え? 本当に来たの?」
「これから来るのよ」
本当になにを言っているんだこの人は。
クロ姉に連れられた先は、街道を挟み込む形で切り立った崖の上。
下の街道には、空っぽの荷車を牽いて、南へ歩いている人達がいた。
「あれが、悪いヤツ?」
「そう見える?」
「全然、見えない」
「そりゃそうよ、彼らは近くの村に住んでいる普通のリザドだもの」
「じゃあ、これから彼らが襲われるってこと?」
「ご名答。ってほどでもないわね。それしかないし」
なんでそんなことが分かるんだ。全然納得がいかない。
「全然納得がいかないって顔してるわね。じゃあヒントよ。あの荷車の中はどうして空っぽなんでしょう?」
「そうか! 王都で何かを売った帰りだ」
「ピンポーン。彼らは王都で食料を売った帰りなのです」
「なんで食料だって分かるのさ」
「彼らがリザドだからよ。山で囲まれたトリスワーズの中でも、リザドが住む湿地帯は農業が盛んなの。近くの湖では魚も獲れる。あなたが一昨日までお城で食べていた料理も、材料の半分くらいは、リザドが作ったものよ」
そういえば、座学の時間にグロン将軍がそんなことを言っていたような、気がしなくもないような。
「ところで、どうしてこの距離から彼らがリザドだって分かったの?」
「そんなの簡単よ。この街道を、荷車を牽きながら南に進むのは、近くに村があるリザドとコボルくらい。コボルは北に来ることがほとんどないから、彼らはリザドってわけ」
そんな、「ね、簡単でしょ」みたいな顔されても困る。
「帰り道ってことは、彼らの懐には?」
「売上金」
「そんなカモが、この物騒な道を歩いていたら」
「野盗が大喜び、ってことか」
「もちろん、リザド達だって野盗対策くらいはしてると思うけどね」
それから、5分後。
クロ姉の言った通り、リザド達は野盗に囲まれた。
リザド達が雇っていたらしき用心棒は、野盗が出てくるや否や、一目散に逃げだした。
報酬を先払いしちゃいけません、というダメな実例を目の当たりにするとは。
野盗の数は5人。人数はこちらが少ないが……。
「ジョーカー、ラビット。あいつら全員、捕まえるわよ」
「……スキル、増やす」
女性陣の士気は十分だ。
「ジョーカーとラビットは北側の2人をやって頂戴。あたしは南側の3人もらうから」
なんでこっちが少ないの? と思って横を向いたときには、もうクロ姉の姿は無かった。
相変わらずのスピードだ。
「……ジョーカー、どっちやる?」
「そのことなんだけど、僕がどっちもやっちゃっていいかな?」
「……スキル、あるからって。……調子乗っちゃ、ダメ」
「そういうんじゃなくて、なんていうか、出来る気がするんだ。ダメだったときは、ちゃんと助けてって言うからさ」
兎のマスクが、渋々ながら頷く。
僕は昨日、エルフが火球を投げては作り、投げては作り、としている様子を見ていて、こう思ったんだ。
――なんて非効率なんだろう。
右手に意識を集中させて、火球を作る。
念動力で火球を浮かばせる。
さらに右手に火球を作る。
それも念動力で浮かばせる。
繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。
念動力には動かす物資の総重量に制限がある。
しかし、炎には重さがない。やろうと思えば無限に持ち上げられる。
「まあ、このくらいか」
僕は空中に20個ほどの火球を浮かばせた。
隣でシャルティが、後ずさりするような体勢で、こちらを見ている。
火球を、丁寧に、念動力でしっかりとコントロールしながら、5つまとめて野盗に向かって飛ばしてみる。
「なんだ、あれ?」
「わっ、あづっ! ぎゃーーーーーーー」
「顔がっ、腕がっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
火球は野盗たちの顔を焼き、腕を焼き、脚を焼いた。
さらに3つ追加で飛ばす。
用意した火球の半分も飛ばさないうちに、野盗はすっかり戦意を喪失していた。
「あーー、残りの火球、どうしよっか」
「……ジョーカー、やりすぎ」
南側を見ると、クロ姉が残りの野盗3人を縛り上げつつ、片手は頭を抱えていた。
助けられたはずのリザドも、バケモノでも見るかのような視線で僕の方を見ている。
これでは正義の味方には程遠い。
――ゴメンナサイ。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <ヴィスタネル家>
シュヴァル=ヴィスタネル(故)
大戦を終結させたヴィスタネル王家の祖。40で王となり55で死去した。
ランヴァルス=ヴィスタネル(故)
シュヴァルの跡を継ぎ25で王となるが、43で実子ヴァルデマルに殺される
ヴァルデマル=ヴィスタネル(20)
第一王子で王位継承権第一位。王位継承を待っていられないという理由で実の父を殺す。
イザリア=ヴィスタネル(18)
第一王女で王位継承権第三位。優先順位は低いが女性でも王位継承権は与えられる。
エヴァルト=ヴィスタネル(16)
本作の主人公。第二王子で王位継承権第二位だったが、国王殺しの罪で、すでに剥奪されている。
ルナリオ=ヴィスタネル(故)
イザリアとエヴァルトの母。前正室。エヴァルトを生んで後、病を患い死亡。
マーレ=ヴィスタネル(40)
ヴァルデマルの母。元は側室だったが、ルナリオの死後、正室になる。
★次回予告★
どうも、あのあとメチャクチャ怒られたエヴァルトです。
僕って、ちょっと前まで王子様だったハズなんだけどな。
次は、助けたリザドに連れられて、村長とご挨拶。
リザドの村と野盗の頭には、浅からぬ因縁があって……。
次回、あにコロ『episode14 野盗の頭』
ちょっとだけでも読んでみて!
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