表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/80

episode12 正義仮面


「すごい。これがスキルか」



 僕は、野盗3人からスキルを奪った。


 ゼロスキルとなった野盗3人組は、「私たちは野盗です」と書いた木板(きいた)を首から下げ、手足を縛って街道に置いてきた。


 彼らが仲間に救われるのか、旅人から石を投げつけられるのか、王国兵に捕まるのか、未来は運命だけが知っている。


 精神型スキル【自白】に加え、操作型スキル【念動力】と属性型スキル【火球】を手に入れたことで、僕は、今まで感じたことのない万能感にソワソワしていた。


 早くこのスキルを試してみたくて仕方ない。

 玩具を買って貰ったばかりの子供のような気分だ。



「初めてのスキルだからって、はしゃいでんじゃないの。もう子供じゃないんだから」



 クローネに見透かされて、しっかりクギを刺された。

 こういうところは本当に年上の余裕を感じる。



「それに、どうせすぐに飽きるほど使うことになるわ」

「え?どういうこと?」



 僕の疑問に、クローネがニヤリと笑う。



「王子様は王都を出て、どこに向かうつもりだったの?」

「それは、とりあえず南に」

「逃亡者の定番ね。それで、南にはなにがあるのかしら?」

「えっと、エルフの大森林?」

「そうね、最南端はエルフの大森林。エルフ以外は進入禁止の聖域ね。ほかには?」

「…………」



 僕が回答に詰まっていると、シャルティが助け船を出してくれた。



「……リザドの村、コボルの村。……ドワフの谷、アヴェ――」

「オッケー、オッケー。その辺で大丈夫よ。さて、それらに共通していることは何?」

「人種ごとに集まっている?」

「そうね。そんなところに、大戦の勝者であるヒュムの、しかも王家の人間が来たらどうなるか想像してみて?」



 大戦から30年余、いまだ戦争の遺した傷痕は深く、人種間の、特にヒュムと他の人種との溝は深いと聞く。


 どんなに甘く見積もっても、追い出される結末しか見えない。



「あまり楽しい未来じゃなさそうね」

「でも、王都を追い出されて、ヒュムの社会から弾かれた僕らには、ほとんど選択肢がない。彼らに受け入れてもらうか、どこか辺境の地で隠遁するか、だ」

「じゃあ、彼らに受け入れてもらう方法がある、と言ったら?」

「え! そんな方法があるの!?」



 それが出来るのなら万々歳だ。


 齢16歳にして、辺境の地で隠遁生活を決め込むのは、やはり気が滅入る。


 それに、来月ようやく成人するシャルティを、隠遁生活に巻き込むわけにはいかない。



「問題! どんな人でも応援したくなる、助けたくなる存在と言えば?」

「え!? え!? なんだろう。頑張ってる人?」

「ブッブー! 頑張っていれば助けてもらえるほど、世の中は甘くないわ。正解は『正義の味方』よ」

「正義の味方?」

「対価を求めず、困っている人を助ける正義の味方。どう? 応援したくならない?」



 確かに、応援したくなる。


 今のトリスワーズは、王都から離れた場所に住む者に厳しい。

 離れた場所に住む者、そのほとんどはヒュム以外の人種だ。


 王国兵は、王都とその周辺の警備しかせず、野盗をはじめとした犯罪集団への防衛は、自己負担となっている。

 

 そんな中、正義の味方の存在は、守られる側にとって現実的なメリットになるからだ。



「応援したくなる。……と思う。でも、それがヒュムの、しかも王家の人間である僕でも大丈夫なのかな」

「正体なんて隠しちゃえばいいじゃない。人種は違っても、同じ人間。顔と体を隠せば、ヒュムもリザドもコボルもハピラも、ほとんど見分けはつかないわ」



 そう言うと、クローネは麻袋あさぶくろを取り出す。

 中には多種多様なマスカレードマスクが入っていた。



「……これ、もしかして。……私たちも、つけるの?」



 しばらく黙って話を聞いていたシャルティが口を開いた。

 ものすごくイヤそうだ。



「ご名答!」



 シャルティの反応とは対照的に、クローネは満面の笑みだ。


 やっぱりクローネって、このマスク気に入ってるよね。



「今日からあたしたちは仮面をつけた正義の味方。人助けしながら、同時に逃亡中のエヴァルトとシャルティの存在は消える。人相書きだって何の役にも立ちはしない。どう? 名案でしょ?」



 名案かもしれない。人相書きは、そもそも役に立ってなさそうだけど。



「……タイミング、良すぎる。……ヴァルデマルは、気付く」

「王国側に気づかれたっていいのよ。大事なのは周りを味方につけることなんだから。最初に言ったじゃない、これは『彼らに受け入れてもらう方法』なの」



 確かにそのとおりだ。

 僕たちは常に王国兵から捜索されているし、賞金首だとバレたら、見知らぬ他人からも命を狙われることになる。


 正体不明の正義の味方になることで、見知らぬ他人を味方につけられたなら、これほど心強いことはない。



「それにね、王子様。あなたには、この国をもっと見て欲しいの。王城からでは決して見えない、この国の現実を。そして、悪を断罪し、スキルを得ることで、もっと力をつけて欲しい。この国の未来のために」

「この国の未来?」



 急に話が大きくなった。

 王家に命を狙われている逃亡者でしかない僕に、彼女は何を求めているのだろう。



「今はまだ分からなくてもいい。でも、あなたならきっと、この国を変えられると信じてるわ。――それはさておき、どのマスクにする?」



 さっきまでの神妙な雰囲気とは打って変わって、ウキウキした声でマスクを薦められた。


 獅子、虎、兎、猫、狐、など動物をモデルにしたマスクや、太陽、月、星、をモデルにしたマスクなどデザインは様々だ。


 僕はその中で、1つだけ目元が笑っているマスクを手に取った。



「王子様はジョーカーを選ぶのね。人を笑顔にする道化師であり、カードにおける切り札。あなたにピッタリだと思うわ」



 僕がマスクを選んだのを見て、シャルティも観念したのか、兎のモデルのマスクを選んだ。



「……ちょっと、かわいい」



 嫌がっていた割には、まんざらでも無さそうだ。


 マスクをつけて外套(がいとう)羽織(はお)ると、更に怪しさが増す。

 本当にこれでいいのだろうか。



「あら、二人ともよく似合ってるじゃない」



 クローネだけは満足そうだ。



「それじゃ、これから王子様の名前はジョーカー、シャルティはラビットよ。殿下とか、シャルティとか呼んじゃったら、せっかくのマスクが台無しだもの。」



 ジョーカーってなんかちょっと格好イイな。

 だんだんその気になってきている自分がいる。



「わかった。これからもよろしく、ラビット」

「……はい、ジョーカー」



 なんだかちょっと照れくさい。



「ちょっと、ちょっと。あたしを仲間外れにしないでよね!」

「そっか、そうだよね。クローネにもコードネームつけないとね」

「え? あたしは別にいいわよ。賞金首ってわけじゃないし」

「いいから、いいから。うーん、どんなのがいいかなあ」



 僕がジョーカー。シャルティはラビット。クローネのマスクは鳥だから……。



「……クロ姉、がいい」

「「え?」」



 シャルティから、こんなにお茶目なコードネームが出てくるとは思わず、僕とクローネの反応がハモった。



「クロ姉か、ふふっ、いいね、それ」

「……ふふっ、あはははは。……クロ姉、よろしくね」

「え? クロ姉で決まり? 本当に?」

「あはははっ、く、クロ姉。よろしくね。あはははははははは」



 クロ姉が慌てているのが面白くて、僕たちはたくさん笑った。



 兄に殺されそうになって丸一日。やっとお腹の底から笑えた気がする。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <スキル>


『自白』

 精神型アクションスキル

 野盗のホビトが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 質問された相手は、強制的に真実を語ってしまう。

 効果範囲はエヴァルトの声を聞き取った者全て。

 声が聞こえなければ効果は無く、対象が喋れない状況では答えられない。

 また、回答はあくまで本人にとっての真実であり、事実である確証はない。


『火球』

 属性型アクションスキル

 野盗のエルフが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。

 掌の少し上に、メロンくらいの大きさの火球を生み出す。

 ボールのように投げることが出来るが、自由にコントロールすることは出来ない。

 温度は約1000℃。タバコの火よりも熱い。何よりデカい。


★次回予告★

 はーい! クローネよ!

 王子様のジョーカー素敵だったわぁ。

 次からは正義の味方として大活躍間違いなしね。

 悪いヤツらを懲らしめてやるんだから!

 次回、あにコロ『episode13 火球連弾』

 この国の行く末を見届けて……。

―――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ