episode12 正義仮面
「すごい。これがスキルか」
僕は、野盗3人からスキルを奪った。
ゼロスキルとなった野盗3人組は、「私たちは野盗です」と書いた木板を首から下げ、手足を縛って街道に置いてきた。
彼らが仲間に救われるのか、旅人から石を投げつけられるのか、王国兵に捕まるのか、未来は運命だけが知っている。
精神型スキル【自白】に加え、操作型スキル【念動力】と属性型スキル【火球】を手に入れたことで、僕は、今まで感じたことのない万能感にソワソワしていた。
早くこのスキルを試してみたくて仕方ない。
玩具を買って貰ったばかりの子供のような気分だ。
「初めてのスキルだからって、はしゃいでんじゃないの。もう子供じゃないんだから」
クローネに見透かされて、しっかりクギを刺された。
こういうところは本当に年上の余裕を感じる。
「それに、どうせすぐに飽きるほど使うことになるわ」
「え?どういうこと?」
僕の疑問に、クローネがニヤリと笑う。
「王子様は王都を出て、どこに向かうつもりだったの?」
「それは、とりあえず南に」
「逃亡者の定番ね。それで、南にはなにがあるのかしら?」
「えっと、エルフの大森林?」
「そうね、最南端はエルフの大森林。エルフ以外は進入禁止の聖域ね。ほかには?」
「…………」
僕が回答に詰まっていると、シャルティが助け船を出してくれた。
「……リザドの村、コボルの村。……ドワフの谷、アヴェ――」
「オッケー、オッケー。その辺で大丈夫よ。さて、それらに共通していることは何?」
「人種ごとに集まっている?」
「そうね。そんなところに、大戦の勝者であるヒュムの、しかも王家の人間が来たらどうなるか想像してみて?」
大戦から30年余、いまだ戦争の遺した傷痕は深く、人種間の、特にヒュムと他の人種との溝は深いと聞く。
どんなに甘く見積もっても、追い出される結末しか見えない。
「あまり楽しい未来じゃなさそうね」
「でも、王都を追い出されて、ヒュムの社会から弾かれた僕らには、ほとんど選択肢がない。彼らに受け入れてもらうか、どこか辺境の地で隠遁するか、だ」
「じゃあ、彼らに受け入れてもらう方法がある、と言ったら?」
「え! そんな方法があるの!?」
それが出来るのなら万々歳だ。
齢16歳にして、辺境の地で隠遁生活を決め込むのは、やはり気が滅入る。
それに、来月ようやく成人するシャルティを、隠遁生活に巻き込むわけにはいかない。
「問題! どんな人でも応援したくなる、助けたくなる存在と言えば?」
「え!? え!? なんだろう。頑張ってる人?」
「ブッブー! 頑張っていれば助けてもらえるほど、世の中は甘くないわ。正解は『正義の味方』よ」
「正義の味方?」
「対価を求めず、困っている人を助ける正義の味方。どう? 応援したくならない?」
確かに、応援したくなる。
今のトリスワーズは、王都から離れた場所に住む者に厳しい。
離れた場所に住む者、そのほとんどはヒュム以外の人種だ。
王国兵は、王都とその周辺の警備しかせず、野盗をはじめとした犯罪集団への防衛は、自己負担となっている。
そんな中、正義の味方の存在は、守られる側にとって現実的なメリットになるからだ。
「応援したくなる。……と思う。でも、それがヒュムの、しかも王家の人間である僕でも大丈夫なのかな」
「正体なんて隠しちゃえばいいじゃない。人種は違っても、同じ人間。顔と体を隠せば、ヒュムもリザドもコボルもハピラも、ほとんど見分けはつかないわ」
そう言うと、クローネは麻袋を取り出す。
中には多種多様なマスカレードマスクが入っていた。
「……これ、もしかして。……私たちも、つけるの?」
しばらく黙って話を聞いていたシャルティが口を開いた。
ものすごくイヤそうだ。
「ご名答!」
シャルティの反応とは対照的に、クローネは満面の笑みだ。
やっぱりクローネって、このマスク気に入ってるよね。
「今日からあたしたちは仮面をつけた正義の味方。人助けしながら、同時に逃亡中のエヴァルトとシャルティの存在は消える。人相書きだって何の役にも立ちはしない。どう? 名案でしょ?」
名案かもしれない。人相書きは、そもそも役に立ってなさそうだけど。
「……タイミング、良すぎる。……ヴァルデマルは、気付く」
「王国側に気づかれたっていいのよ。大事なのは周りを味方につけることなんだから。最初に言ったじゃない、これは『彼らに受け入れてもらう方法』なの」
確かにそのとおりだ。
僕たちは常に王国兵から捜索されているし、賞金首だとバレたら、見知らぬ他人からも命を狙われることになる。
正体不明の正義の味方になることで、見知らぬ他人を味方につけられたなら、これほど心強いことはない。
「それにね、王子様。あなたには、この国をもっと見て欲しいの。王城からでは決して見えない、この国の現実を。そして、悪を断罪し、スキルを得ることで、もっと力をつけて欲しい。この国の未来のために」
「この国の未来?」
急に話が大きくなった。
王家に命を狙われている逃亡者でしかない僕に、彼女は何を求めているのだろう。
「今はまだ分からなくてもいい。でも、あなたならきっと、この国を変えられると信じてるわ。――それはさておき、どのマスクにする?」
さっきまでの神妙な雰囲気とは打って変わって、ウキウキした声でマスクを薦められた。
獅子、虎、兎、猫、狐、など動物をモデルにしたマスクや、太陽、月、星、をモデルにしたマスクなどデザインは様々だ。
僕はその中で、1つだけ目元が笑っているマスクを手に取った。
「王子様はジョーカーを選ぶのね。人を笑顔にする道化師であり、カードにおける切り札。あなたにピッタリだと思うわ」
僕がマスクを選んだのを見て、シャルティも観念したのか、兎のモデルのマスクを選んだ。
「……ちょっと、かわいい」
嫌がっていた割には、まんざらでも無さそうだ。
マスクをつけて外套を羽織ると、更に怪しさが増す。
本当にこれでいいのだろうか。
「あら、二人ともよく似合ってるじゃない」
クローネだけは満足そうだ。
「それじゃ、これから王子様の名前はジョーカー、シャルティはラビットよ。殿下とか、シャルティとか呼んじゃったら、せっかくのマスクが台無しだもの。」
ジョーカーってなんかちょっと格好イイな。
だんだんその気になってきている自分がいる。
「わかった。これからもよろしく、ラビット」
「……はい、ジョーカー」
なんだかちょっと照れくさい。
「ちょっと、ちょっと。あたしを仲間外れにしないでよね!」
「そっか、そうだよね。クローネにもコードネームつけないとね」
「え? あたしは別にいいわよ。賞金首ってわけじゃないし」
「いいから、いいから。うーん、どんなのがいいかなあ」
僕がジョーカー。シャルティはラビット。クローネのマスクは鳥だから……。
「……クロ姉、がいい」
「「え?」」
シャルティから、こんなにお茶目なコードネームが出てくるとは思わず、僕とクローネの反応がハモった。
「クロ姉か、ふふっ、いいね、それ」
「……ふふっ、あはははは。……クロ姉、よろしくね」
「え? クロ姉で決まり? 本当に?」
「あはははっ、く、クロ姉。よろしくね。あはははははははは」
クロ姉が慌てているのが面白くて、僕たちはたくさん笑った。
兄に殺されそうになって丸一日。やっとお腹の底から笑えた気がする。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <スキル>
『自白』
精神型アクションスキル
野盗のホビトが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
質問された相手は、強制的に真実を語ってしまう。
効果範囲はエヴァルトの声を聞き取った者全て。
声が聞こえなければ効果は無く、対象が喋れない状況では答えられない。
また、回答はあくまで本人にとっての真実であり、事実である確証はない。
『火球』
属性型アクションスキル
野盗のエルフが持っていたスキルで、エヴァルトが奪ったもの。
掌の少し上に、メロンくらいの大きさの火球を生み出す。
ボールのように投げることが出来るが、自由にコントロールすることは出来ない。
温度は約1000℃。タバコの火よりも熱い。何よりデカい。
★次回予告★
はーい! クローネよ!
王子様のジョーカー素敵だったわぁ。
次からは正義の味方として大活躍間違いなしね。
悪いヤツらを懲らしめてやるんだから!
次回、あにコロ『episode13 火球連弾』
この国の行く末を見届けて……。
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