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episode01 兄の狂気


「相変わらず察しの悪い無能だな、エヴァルト。これからお前は死ぬんだよ」



 王の部屋に灯りはなく、窓から差し込む月の光が、僕の4つ上の兄であるヴァルデマルを照らしていた。


 僕を呼び出したはずの王、もとい僕たちの父の姿はない。

 父がいるべき椅子に、第一王子ヴァルデマルが足を組んで座っている。


 どこか部屋の窓が開いているのだろうか。ヴァルデマルの銀髪が風でフワリと揺れた。


 僕の髪は赤茶色。母が違うからか、兄弟といってもあまり似ていない。


「えっと、あの……兄さま、何を言って……。そうだ、父上はどちらに?」

「父上ならここだ」



 ヴァルデマルは何かボールのようなものを投げて寄越した。スイカくらいの大きさだ。


 月明かりが照らした()()は、父の首から上だった。



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「騒がしいヤツめ。おい、この無能を黙らせろ」



 突然、誰かに背中から押さえつけられた。

 僕は床に這いつくばるように組み伏せられ、布を口に突っ込まれる。



「ううっ、ううーーーっ!」



 暴れれば暴れるほど、押さえつけてくる力は強くなる。

 首をネジって後ろを振り返ると、ヴァルデマルの側近が二人見えた。


 恐らく、僕が部屋に入ったときからいたのだろう。

 部屋が暗くて気が付かなかった。


 我ながらマヌケだ。


 どう抵抗しても無駄みたいなので、大人しくすることにした。


 この状況はもう詰んでいる。

 諦めてみたら、頭もちょっと冷静になってきた。


 ヴァルデマルの細く切れ長の目が、這いつくばる僕をねめつける。


「さて、大切な話をしよう。まあ、お前は喋れないから独り言みたいなものだが……自分が殺される理由くらいは知りたかろう」



 いきなり「お前は死ぬ」、と言われたときは、何がなんだか分からなかった。


 だが、父の生首を見せられれば、さすがに自分が置かれている状況くらいは理解できる。



 僕はこれから殺されるらしい。最悪だ。



「まず、我が国の王である父上を殺した反逆者は、お前だ」



 ――デスヨネェ。


 スケープゴートってやつですね。

 取り押さえられたときから、そんな気はしていました。



「理由は……そうだな。ゼロスキルで無能な第二王子が、みずからの将来に絶望して王位簒奪おういさんだつはかった、というところか」



 理由もそちらでご用意頂けるわけだ。

 至れり尽くせり……なんか違うな。


 将来に絶望したりはしないけど、『ゼロスキルで無能な第二王子』は本当だから、ちょっと説得力があるのがムカつく。


 1年前。通常は成人となる15歳で発現する『スキル』が僕には現れなかった。


 平民ですら普通に発現するはずのスキルが、王族に発現しないなどあってはならないことだ。


 落胆する父の顔、兄姉きょうだいの蔑む視線、周囲の同情の言葉、全てを昨日のことのように思い出せる。


 それ以来、ゼロスキルの僕はずっと『無能な第二王子』と呼ばれてきた。


 もちろん、そうそう面と向かって言われはしないが。



「そして、たまたま現場を見つけた俺が反逆者をその場で討ち取るわけだ」



 とてもシンプルで分かりやすい。


 正直、ちょっと怪しいな、って思う人がいても「王位継承権一位の第一王子が言ってることだし、王は殺されてるし、無能な第二王子が死んでることに反論するメリット無いしなあ、言うこと聞いておこう」となると思う。


 僕が家臣ならそうする。

 異議を唱えるようなヤツは、僕の後見人くらいのものだろう。



「お前のようなゼロスキルの役立たずが、新王の即位に貢献できるのだ。光栄に思え」



 ザ・悪役の発言である。ていうか、本当にこんなセリフ言う人いるんだ。


 それが実の兄だと思うと何とも言えない気持ちになる。



「最期に言い遺すことはあるか?」



 ヴァルデマルが指をクイクイと曲げて合図すると、もう一人の側近が僕の口から布を取り出してくれた。


 しかし――言い遺したところで絶対誰にも伝えて貰えない遺言に、意味はあるのだろうか。


 少し考えて、僕は気になっていたことを訊いてみることにした。



「兄さま。どうして父上を殺したのですか?」



 ヴァルデマルは長兄、王位継承権第一位の第一王子だ。

 わざわざこんな、家臣に疑惑を持たれるような真似をしなくても、時期が来れば真っ当に王位を継ぐ立場の人である。



「どうして?」



 ヴァルデマルは何を聞かれているのか分からない、といった顔だ。



「父上が死ねば俺が王になれるからに決まっているだろう。これから先、あと10年も、20年も黙って待っていられるものか」

「なにか父上と揉めたとか、確執があったとか、王位継承権を剥奪されそうになったとか、そういうトラブルがあったわけでは――」

「ない。何もない。むしろ良い父上であったと思うが、俺が王になるのに邪魔だったのだから仕方あるまい」



 邪魔だったから、で父親って殺せちゃうものなの!?

 我が兄ながら、本当に人の血が通っているのか心配になってきた。



「ああ、あともう一つ、大事な理由があった」



 ヴァルデマルの視線は一年前と全く変わっていない。

 侮蔑のこもった、と言うより侮蔑しかない視線を僕に送る。



「ついでにお前という王家最大の恥も始末できるんだ、一石二鳥だろ」



 ――ソウデスネ。


 僕は、ヴァルデマルが王の座を奪うために殺されるのかと思っていたが、そもそも僕を殺すことも目的の一つだったらしい。


やっぱり最悪だ。



「納得したか。では我が弟エヴァルトよ、そろそろ旅立ちの時間だ」



 ヴァルデマルが合図をすると、近衛兵が剣を抜き、刃を僕の背に向ける。


 せめて痛みを感じないように、一撃で決めて頂きたい。

 死を覚悟して目をつむると、床の振動が体に伝わってきた。


 ドタドタと大きな足音と共に野太い声が聞こえる。



「殿下ー! エヴァルト殿下ーー!!」




 幼少期から聞きなれた頼もしい声。



 絶体絶命の状況に光明が見えた。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <大戦①>


 人種間の対立によって引き起こされた大戦。

 最も人口の多い人種であるヒュムに対して、オルガ・コボル・ハピラ・リザドの4つの人種が手を結んだ連合軍との戦争。

 大戦の終結によって、ヴィスタネル王家が誕生し、ヴィスタネル歴が始まったことから、ヴィスタネル王家ではヴィスタネル大戦と呼称しているが、立場によって様々な呼び名があることから、一般的には「大戦」または「先の大戦」と言われている。

★次回予告★

 どうも、いきなり絶体絶命のエヴァルトです。

 いやさっきは本当に死ぬかと思った。

 助けが来るのがあと少し遅かったら、剣が背中に刺さってたよ。グサッて。

 次は幼馴染のヒロインが初登場! 誰でもいいから早く僕を助けてくれー!!

 次回、あにコロ『episode02 危機察知』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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