表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2話

   

「へえ! 猿渡さん、会社の社長さんなんですか?」

「会社といっても、小さなコンサルタント企業だけどね」

 酒が進むにつれて、いつのまにか猿渡は、普通に自分の身の上を語っていた。

 別に隠す必要もないが、かといって、飛び入りで訪れたキャバクラで話すようなことでもない。鶴子が聞き上手だから、自然に色々と引き出されているのだろう、と猿渡は思った。

「小さいとか大きいとか、関係ないですよ。コンサルタントって、他の会社の経営にアドバイスするお仕事ですよね? たくさんの会社に影響を与えるなんて、凄いなあ……」

「まあ、業務内容としては、そんな感じかな」

 感心した口調の鶴子に、曖昧に返す猿渡。あまり『業務内容』に関して突っ込んだ質問はされたくないのだが、幸い、鶴子の方から話題を変えてくれた。

「そもそも猿渡さん、その若さで社長さんだなんて、それだけで尊敬に値します!」

「あれ? 鶴子ちゃん、僕のこと、いくつだと思ってる?」

「もちろん私よりは年上でしょうけど、それほど大きく離れていませんよね……?」

「いやいや、鶴子ちゃんの父親くらいの年齢だよ」

「ええっ? びっくり! 若く見えますよー」


 キャバ嬢の言葉なんて、しょせん口だけだ。頭ではわかっている猿渡だが、鶴子の口調や態度を見ると、本心で言っているようにも思えてしまう。

「大学時代に仲良くさせていただいた先輩と、ちょうど同じ年齢くらいかな、って思ってました……」

「おいおい。鶴子ちゃんの元カレと同い年は、さすがにないだろ。それじゃ僕みたいなおじさんが、鶴子ちゃんの恋愛対象ということになってしまうよ?」

「あら、違いますわ。いえ、違うといっても、恋愛対象かどうか、って部分じゃなくて……」

 慌ててパタパタと手を振りながら、鶴子は続ける。

「……『元カレ』の部分。『大学時代に仲良くさせていただいた』というのは、本当にただの先輩でしたから」

「そうかい? 鶴子ちゃんくらい可愛かったら、大学でもモテただろ?」

「そんなことないですよ! そもそも私、大学は途中で辞めちゃいましたから……」

 それまでの笑顔が微妙に曇り、鶴子は目を伏せる。

「そうか、大変だったんだね」

 自然と、そんな返しが猿渡の口から出ていた。

 キャバ嬢というより真面目な女子大生。それが鶴子の第一印象だっただけに、大学中退というのは納得できる話だったのだ。

「あら、ごめんなさい。場を盛り下げるような、暗い話を……」

「いや、構わないよ。鶴子ちゃんが嫌じゃなかったら、むしろ聞かせてもらいたいくらいだ。どんな話でも受け止めてあげるからね」

 包容力のある態度を見せるが、親身になって耳を傾ける、というつもりはなかった。むしろ一歩引いたところから、完全に他人事として聞くつもりだった。

 人の不幸は蜜の味。それが猿渡の信条の一つなのだから。

 そんな彼の内心を知らずに、鶴子は語り出す。

「では、お言葉に甘えて……」

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ