ドノン共和国 仮面舞踏会編3
夕飯の時間。ホテルの最上階にあるレストランのVIP室。ここではドノン共和国が誇る料理がコースで出てくるので楽しみではあるのだけれども、VIP室ということもあって、緊張はしている。味が分かるぐらいは、落ち着いてほしいところではあるけれども。
旅の楽しみは、料理だっていう人がいるぐらい、料理は大事なものなので、楽しみたいところである。そんなに楽しむような旅ではないのだけれども、それでも少しぐらい楽しみがないとやっていけない旅でもある。
とりあえず、前菜の…なんだろうこれ、よくわからないけれど、前菜だ。美味しい。食前酒と一緒にいただくと、さらに美味しい。
「…で、メロディ伯母様。私達に頼みたいことって?」
「まだオードブルの段階なのに、もう聞くのです?」
「さっさと聞いて、料理を楽しむことにするわ」
「受けるのは前提なんだな」
「受けないと、ここでの料金を自腹って脅しかけて来ることぐらい伯母様はやるわ」
「あらあら。そんなひどいこと…」
「やるでしょう?だからこそ元首を150年もやれている」
「150年?!……あれ?ルネの血筋エルフ入ってたっけ…?」
「私はクォーター、に当たるかな。あれ?言ってなかったっけ…?」
「あー…いや…」
聞いたような、聞いてないような。基本魔術感知は私の仕事だったからか、やってもらったことがない。いや、エルフが得意なのは知ってはいるけれど、その辺は私の王宮魔術師としての意地が勝ったというか。まあ、そんなこんなでルネはエルフの血筋だったという。
私はヒューマンなので、……いつか、別れが来るのか。わかってはいた事だけれど、それを言葉にすると、とても悲しい。なんかこう、不老不死の魔法とかないかな、と考えてしまうが、そうすると今度は私が一人になってしまう。どちらにしろ、いつか来る別れの時がきても、その時まで幸せでいられるように一日一日大事にしていこうと思った。
…ということで、この国、ドノン共和国はエルフとヒューマンがすんでいる国である。エルフが住んでいて科学力のほうが強いのは、ちょっと不思議だけれど魔術の力で科学力も高めているのかもしれない。何処の言葉が忘れたけれど、科学と魔術は紙一重、っていう言葉があるぐらいだし、そのへんは曖昧なのだろう。
「…まあ、いいか。で、伯母様。私達にやらせたいこと、は?」
「そうね。こんなに長いこと元首をやっていると、やっぱり色々とあってね。まあ、人と人がわかり合うのはそう簡単じゃないってことでさ。やっぱりいるわけなのよ、不穏分子が」
「あー。つまり私達にやらせたいのは、不穏分子を抑えること、ということですね?」
「うんうん、物分りが早くて助かるよ」
「不穏分子を抑えるだけなら、なんとかなるかなあ。ところでその不穏分子の影はつかめてるの?」
「今の所わかってるのは、仮面舞踏会で人集めてる、って事ぐらいかな。そもそも不穏分子がいるってわかったのもつい最近のことだからね」
「…ところで今回の不穏分子で何回目?」
「さあ、数えてないわ。そんな事数えてたら、精神がやられちゃうわ」
「そういう人よね、伯母様は」
「そういう人よ」
なんて会話を聞きながら、スープを頂いていました。しっかし、そうか。不穏分子。多分何処の国にもいて、とても大きくなると独立まで行ってしまうか国家転覆までさせてしまう人達が集まる仮面舞踏会に乱入するのか。割と命がけな気もするけれど、今回は命は大丈夫な匂いがする。匂いがするだけで、もしかしたらとんでもなく危ないのかもしれないけれど、それでも。
「わかりました。この度の件、お受けいたします」
「仕方ないよねえ。ここのホテル代金払える気がしないし」
「そう言ってもらえて、とても嬉しいわ。今度の仮面舞踏会は3日後だ、って掴んでいるから。そこで、ある程度掴んできて頂戴」
「ある程度でいいの?」
「仮面舞踏会で全部さらけ出すような方々ではないでしょうし。少し、時間をかけて、ね」
「はい」
「はぁい」
ということで、私達は仮面舞踏会に使いの人であった、エナンさんと一緒に潜入することになったのでした。