ドノン共和国 仮面舞踏会編2
さて、入国の際のドタバタも終わり、ルイーズ・ベケが取ったホテルにチェックイン。私は荷物をおいた後、ベランダへ行き、タバコに火を付ける。灰皿がベランダに有り、室内で吸わないでください、というスタンスだったからだ。確かに高級そうな室内にタバコのニオイが付くのは嫌、なのだろう。多分、外に出る部分のカーテンは安物になってると思う。そこまで徹底している感じがあった。
まあ、喫煙者の身が狭いのは今に始まったことではない。できれば私も他ので魔力を回復させたい、とは常々思ってはいるが、一番安定するのがタバコなのだから仕方があるまい。
ふぅー、と紫煙を吐きながら街並みを見やる。この街、アッシュから海は見えないが、アッシュもいい街である。できれば、流刑でなく来たかったな、と思う。だけれども、流刑でもない限り、私とルネはあの国から自由に出れなかっただろうし、自由になった今、また来るのもありかな、なんて思いもあったりする。
そんな事を考えながら、タバコを吸い終え、室内に戻る。室内はとても豪華で、どうにも居づらい感はしていた。慣れないのだ。いや、王宮魔術師なので、王宮で慣れているはず、だと思ったのだけれども、泊まるとなると話は別だったらしい。ついそわそわしてしまう。
そんな様子を見て、ルネが可笑しそうに笑いながら。
「緊張してる?」
「そうだな、本日はしっかり寝れるか分からない」
「やめてよ、寝不足で事故とか」
「それだったらルネに運転を任せて、私はサイドカーで眠ることにするよ」
「それがいいね。それなら安全運転を心がけるよ」
「頼む」
「第三王妃を運転手に出来るなんて、ヴィヴィだけだよー?」
「言われてみれば。…………私は陛下より偉かった…?」
「私の中では陛下より偉い」
「恐れ多かったわ。…所で、君の伯母様からの話は…?」
「んー、まだかなあ。そろそろ来ても良さそうだけれどね」
なんて、話をしているとこんこん、とドアを叩く音が聞こえた。廊下はそんなに広くないので、ドアを叩く乾いた音は響くのである。その乾いた音を聞いて、私はドアの方へ向かい。
「どちら様、ですか?」
「こちら、ド・ブロイ夫妻のお部屋、でよろしいでしょうか」
「ド・ブロイ…。あ、ああ。そうです」
「私、ドノン共和国元首、ルイーズ・メロディ・ベケの使いの者で参りました、ブリス・ジャン=マリー・エナン、と申します。よろしければ扉を開けていただけませんでしょうか」
「使者の方、ですか。少々お待ち下さい」
私は一度、客間へと戻り、ルネに話を聞くことにした。いや、私自身、ベケにはあったことがあったし名前は覚えていたが、使者の方の名前まで覚えてはいないのであった。
「なあ、ルネ。私達の偽名を知ってて、ベケの使いの者というものがドアの前にいるのだが。名をブリス・ジャン=マリー・エナン、といっていたな」
「ああ、エナンさん。知ってる。本当の使者さんだから入れても大丈夫、だよ。…いや本物かどうかわからないから怖いのはわかるけれどね」
「だろう。襲われたりしたら、私達には為す術もない」
「そうだね。……まあ、私も見て、確認するよ」
「それがいい」
そう言って、私と連れ添って、ルネ…いや、ここではフランソワ・ジョゼ・ド・ブロイ、ことジョゼと一緒に扉の前にいくのである。
そして、覗き穴から、扉の前で待っている使者の姿を確認してもらう。すると、ジョゼは、うなずいて。
「大丈夫、私の知ってるエナンさん、だよ。…いやほら、魔術で变化している、とか言われちゃうとあれだけれども」
「いや、そんな雰囲気はないし、魔力の匂いはしないな。…科学の方ではそんな能力あるかもしれんが、ここは本物である、という君の意見を信じよう」
「だめだったら二人共、ここで冒険は終わりだね」
「そうなりたくないところだな。……大分お時間を取らせていただき、申し訳ない。無事、私達の安全の確認と、貴殿の身の確認で時間を取らせていただいた。それでは、どうぞ」
「いえ、こちらこそ大事なお時間を取らせてしまって申し訳ない。確かに、見知らぬ国で、知り合いの使者とはいえ知らぬ人を入れるのは身構えますよね。お気持ちわかります」
「お気遣い、ありがとうございます」
なんて会話をして、使者であるエナンさんを私達の部屋にお招きし、2時間後に夕飯を一緒に食べながら話をしよう、という事になったことを、伝えられた。
私達は了承をし、使者さんはその了承に満足したように、帰っていった。本物だったようで、少し心をなでおろす。怖くなかった、といえば嘘になるから。
そして、あっという間に夕飯のお時間である。