ストローボス大陸 道中での出来事 3
「わんっ!」
「そうか、そうかー」
「ずるいぞ!儂にも抱っこさせてくりゃれ!」
私とロマーナが犬の抱っこの取り合いをするというなかなかにレアな状況を見つめているルネとビーチェ。
いやほら、ちゃんと説明しないといけないから、という理由で二人に見せているわけだが。なんだろうな、血塗れの二人が子犬を取り合うとかいうシュールな場面を見せられてる二人の心境はなんかこう読めるのだ。私達は何を見せられているの、という。
わかる、多分私もそっち側だったらそういう心境になるとは思う。だが、まあちょっとはまってほしい。
「あれだ。私達は旅人だろう?」
「そうだね?」
「うん」
「旅人はこころが荒む、と私とルネは聞かされていただろう?」
「そうだね。よく聞かされてたね。コロシアイなんかもあった、って聞いてたけれど、まあ、私達はうまくやれてる方なんじゃないかな?」
「そう、じゃな。儂たちの相性はピッタリじゃ。だが、いつまでもそうとは限らんじゃろう?」
「それはそう、なの?」
「ありえない話ではないね」
ルネもビーチェも血の匂いには慣れてきたのか、私達の匂いと格好にツッコミを入れない。いや、入れるとしてどこから入れるべきか、となっているのかもしれない。まあ、私達はこれが少し終わったらお風呂入るわけだが。その間にルネとビーチェが子犬に慣れてくれればいいし。
というか子犬がほんと私達の匂いにそこまで気にしないのはなんなのだ、慣れっこなのか。いや、それならそれでいいわけだが。…いやよろしくはない。何だこんな子をそんな状況にしおって。
「ヴィヴィ、顔。顔」
「あ、すまん。いかんな、色々と考えてしまう」
「まあ、そうだよね。ヴィヴィ、昔から犬とか見るとそうなるよね。当時は飼えずにがっかりしていたけれども」
「うむ。いつ何があってもおかしくない職業だったからな。…、まあそれはいまも、なんだが」
「そのへんは大丈夫じゃろ。儂がおるし」
「そう。ろまーながいればだいじょうぶ」
「うむうむ、ビーチェはいいこじゃな」
「なで、ないで。なでるならおふろいって」
「はい…」
ビーチェにいやいや、とされてちょっと凹んだロマーナ。まあ、たしかに血塗れの人に頭を撫でられたくないよなあ、と。乾いてきたとはいえ、まだ真っ赤なわけだし。どす黒くなる前にお風呂に入らなければ。
温泉だからいつはいってもあれだしな。あったかあったかである。
それに、覗きなどのあれもなさそうだし、と私達が立ち上がる。子犬もついてきそうな顔をしていたが。
「まあ、ちょっと待っていてくれ。私達、きれいになってくるからな」
「その言い方だと、なにかこう勘違いされない?」
「そうか?」
「…いやまあ、儂達今、そんなきれいではないからの」
「………」
なんとも言えない顔をした二人を背に、私達は温泉へと向かったのである




