マカーリオ帝国 運び人編9
「・・・さて、後何人やればいいのかしらね」
何人、何十人か減らしたところで私はかつてこの部屋の主であった死体の近くでタバコを吸っていた。まあ、魔力をそこそこ使っちゃったからね。死体の近くっていうのがまた悲しいところだけれど、下手に外ですって敵に背中を取られたとか笑い話にならないからね。
私は生きなければいけない。ルネのために、そして、新たに家族になった”商品”のためにも。そのためにはここを無事生き残らなければいけない。時たま、ここの部屋の主だったもののモールス信号を送る通信機を使って異常なし、とモールス信号を送る。そうじゃないと来られてしまうからね。
ルネと”商品”にもそういうふうに送るよう言っているから、人質にはならない、とは思うけれど分からない。とはいえ、何十人のモールス信号が無くなったとなれば時たま扉を開けて確認する奴らもでてくるだろうし、そうすると人質になるかもしれない。そうなると私は弱ってしまうわけだが。
「…………ふむ、こんなところ、か。あーあー、聞こえているだろうか。私は敵ではない」
「ヴィヴィー?生きてるー????」
「おねえ、ちゃん」
スピーカーから誰か知らない声とルネ、”商品”の声が聞こえた。なんだ、私の知らないところで人質になってて、私の知らないところで向こうのボスが死んだ、とかだろうか。いや、多分流れ的にそうなのだろう。となると敵ではないっていう言葉は本当なんだろうけれど、あんまり私は姿を表したくないんだが。
「無事ならモールス信号で合図をしてほしい。二人共、私の前ですごい泣きそうな顔をしている」
そう言われてしまえば、信用せざるを得ないというか。”商品”がなんだかんだ言ってそこまで私を信用してくれていることを思えば嬉しい。たった数週間、されど数週間だ。とりあえずモールス信号で合図を送る。
「うむ。二人共、来たぞ」
「よがった…よがったよぉ…」
「……いまから、そっち、いく」
「……………」
モールス信号で、そちらへ行く事を送って部屋を出る。いや、ほら罠だったらあれだけれども、それだったら、ルネは泣き顔を見せないはずだ。つまり、本当に助けてもらった、と見るべきだろう。…わかんないけど。大丈夫、だと思いたい。
スピーカー先の相手がどんな人間で、どうしてそうなったのか、は分からないところだが、きっと私達の依頼人の他の商人が送り込んだスパイとかなんだろう。でもって、このあたりで”商品”の元の持ち主を消そう、とかそんな感じだと思う。
完全に私の妄想でしかないが。
「来る、とは…。まあいい、操舵室だ」
そう言ってスピーカーが消える。とりあえず操舵室へ向かって歩き出す私。あの二人を出されたから仕方なく返事を返したが、やはり不安は拭えない。突然撃たれるかもしれないから、メット被っておこう。いや、フルじゃないから目の辺り撃たれたら死ぬんだけどね。流石にそうはならないだろう。
そう思いながら、操舵室へ向かった私、である。




