序章 1
「………言いたいことは、それぐらいか」
「そうですわね。私の言いたいことは終わりましたわ。それを聞いて陛下のお心が変わらない限り」
「残念。実に、残念だ。まさかお前ほどの人材を…」
「正直、私も昨日は泣きはらしましたわ。……大変、お世話になりました、陛下」
「……………下がって良い。明朝、使いの者を遣わす。それが刑の執行の合図だ」
「最後のお心遣い、大変うれしく思います」
私はスカートの裾を持ち、恭しく陛下に挨拶をし。くるり、と踵を返す。この謁見の間を出るための扉までの道は少しだけ足が軽かった。入った時より、ずっと。そんな軽い足取りの中、扉を開いて、謁見の間を出ていく。
私、ドミニク・ヴィヴィアンヌ・ファロは明日、この王国から追放される。流罪、というやつである。罪の名前は不敬罪。……陛下の女に手を出したのだ。女性同士、許されざる恋としりながら。ソッチのほうが燃えるからね。
……いや、よく流罪ですんだな、とは思う。それもこれも私が最年少で王宮魔術師として活躍してきたから、と私は思っているが多分嘆願があったのだろう。ありがたいことである。そして、私とただならぬ恋をした彼女もまた、流刑、ですんだらしい。良かった。
多分、彼女と会うことはない。…そっちのほうが、私が野垂れ死にしやすい。やっぱり陛下は優しい。最後の最後までお世話になりっぱなしだ。まあ、その恩を仇で返すようになってしまったのは後悔しかないけれど。それでも、何度繰り返しても、何度も同じ選択をしてしまうのだろう。私は、恋には勝てなかったし、一生かけても勝てない。それが、私なのだろう。
私は、明日の朝。刑が執行されるまで私の屋敷の部屋にいよう。簡単な準備もある。私が集めた魔術関係の本は王国図書館に渡そう。いや、犯罪者の本が渡るかどうかはわからないが。それでも焚書よりは全然良いはず。手紙にしたためて、運び出してもらうとしよう。…いや、そもそも没収されるんじゃない?まあ、それなら手紙にしたためなくても良いか。少し気楽になった。
そんな気楽な、それでも残酷な刑を待つ私の心がざわつく事が起こったのは、刑当日の朝のこと。私がちょっとした荷物とをもって使いの者を外で待つために家を出た時の話である。多分、刑を伝えに来る人物であろう人影が、手をふってこちらに向かってくるのである。
いや、まずそんなことはありえない、などと頭を振って、改めて刑を伝えに来る人物を見てみるとやはり手を振ってこちらに向かってくる。まるで、友達を誘ってピクニックへ行くような感じでこちらに向かってくる人影をよく見ると。
リュディアーヌ・ルネ・アスラン、、あ、そうか、違う。グロジャン家に戻ったんだから、リュディアーヌ・ルネ・グロジャン、に戻ったんだっけ。アスラン王家第三王妃だった彼女とと私は、ただならぬ恋に落ち、そして流刑にあう。
…いや、それはいいんだ。良いんだけれども。
「………ルネ」
「なぁに、ヴィヴィ」
「君は一体…。いや、そうか。君は流刑がなくなったのか。まあ、そうだろうな」
彼女の実家、グロジャン家は王家に次ぐ権力の持ち主だ。王家としてもそんなことでグロジャン家と揉めたくはないだろう。いや、揉める材料はグロジャン家が持つことになっているのだけれど。まあ、だからといって王家もグロジャン家も揉めたくはないだろう。
…いや、流刑にしたほうが揉める要素なくなるだろうから、なくなった、と考えるのはないな。じゃあ、なぜ?
「ヴィヴィって考えてる事分かりやすいよね。そうだね、私の流刑も無くなってないよ」
「そうだよな。………いや、じゃあ、なぜ此処に?お別れの言葉、というやつかな?」
「うーん、それも違うかな。…ここにいる理由は、一緒に流刑、することになったから」
「ぉん?!いや、王が言うには一人ずつって話だったじゃないか」
「まあ、そうなんだけどね。うちのお兄ちゃんが「うちの可愛い妹を一人で行かせるつもりか!危ないだろ!!!!」って王様に言ったみたいで、こうなった」
「うん?????それでなんとかなるものなの?????…いや、いや。それはいい。君のお兄さんは流刑の意味を捻じ曲げるのかな????正直危ないから刑になるんじゃないのか」
グロジャン家の長兄はなんだかんだいってルネに甘い。正直、ルネを無罪にすることだってできただろう。私に罪をぶっかけて、さっさとやってしまえばいいだけの話である。