ドノン共和国編 少女の恋編1
仮面舞踏会から一夜明け、首都サヴィニャックにある元首官邸の近くにあるベケ家邸。そこで私達は、食事とお酒に舌鼓をうっていた。いや、多分、他のところだと大混乱になるからここなんだろうし、元首官邸では少しお硬い、ということでここなのだろう。それは私達にとっては都合がいいのかもしれない。
なんだかしっかりとしたシェフが家にいるのはちょっと驚くが、まあ、元首だからいるのは当たり前だよな、なんて自分に言い聞かせる。なにせ、元首だし。メイドとかウェイターとかいるし、そりゃシェフだっているよな。部屋もたくさんあるっていってるわけだし。
「・・・で、えーと。改めて自己紹介をしてほしいのだけれども」
「あ。うん。僕の右側にいるのが」
「クロエ・エリザベト・ドノン。本当にドノン家の一族ではあるわ。…まあ、ベケ家への恨みは一切ないけれど」
「ない、ね。感謝はするけど、恨みなんて…。って姉さん?!恨みって言ったの?!」
「まあ、そうでもしないと彼は乗らなかったでしょうし」
「うふふ、その恨みの内容はは私が考えたのよ」
「叔母さんはノリノリで考えそうだよね」
その恨みの所は詳しくは聞かないことにした。いや、結局作られた恨みだし、多分そこまで語れるような話ではないだろうな、と思っている。それにもう、終わった話である。終わった話を掘り返すのは、いくらなんでも失礼にあたるからね。…いや、誰にとっても、あまり触れられたくない話ってあるもんだよ。素面でも素面じゃないとしてもね。
「右のドミニクは?」
「ドミニク・サラ・ドノン。まあ、私はマリーの義姉、でクロエのお嫁さんなんだけどね。実家はジラルディエール」
「…見事に恨みがある家として名前を上げた両家とは。更に一つは、実家だろう?」
「そうそう、まあ、実家の方は無許可だし、伝わることはないだろうけれどねえ」
「伝わってるかもよ?」
「お祖父様に怒られるわ。「儂は兎も角、恩のあるベケ家に迷惑を掛けるとはどういう事だ」って」
少し震えるドミニク。なるほど、無許可でなにかそんなことを言われてるとなると、たしかに怒られるかもしれない。まあ、ドミニクのお祖父様がどんな方がよくわからないので、恐怖が伝わらないのだけれども。ただ、恩義を感じているので、確かにただの口八丁とはいえ、そういうのは怒るのかもしれないなあ、と。
「まあまあ、そのへんは私が言い出したことだし、エドガールだって許してくれるでしょう」
「そうだといいんですけどね、ルイーズさんだってお祖父様の頑固さは知っているでしょう?」
「そうねえ。こう、と決めたらガンとして考えを変えない方ではあるわね。そんな人だから、私は助かっているのだけれど」
「…伝わらない、といいなあ。罰掃除とか、この歳になってまでやりたくないわ」
「そうなったら、私も手伝うわよ」
「クロエー…」
マリーさんの背中越しに抱き合おうとして、マリーさんに両手で引き離されるクロエ、さんと、ドミニク、さん。いや、まあ、たしかにね?イチャイチャされるのはあれだし、ぐいーって押されるのも嫌なのはわかる。
でもそうやっていると。
「もー、マリーったら。大丈夫よ、マリーも大好きだから」
「私もー」
そう言って両側から抱きしめられるマリーさん。まあ、そうなるよな。そうなるのだ。
なんだか助けを求める目を受けているが、私は少し知らんぷりをする。いや、ここで助け舟を出すと…。いや、助け舟を出さなくても。
「ねえ、ヴィヴィ。私達もラブラブしていいよね?」
「いや、どうだろう。…どうかな、ルイーズさん」
「私は一向に構いません。…むしろ姪がそうしたい、というならそうさせるべき、だと思いますわよ」
「…そうかあ。やはりあの方々の伯母上なんだなあ…」
はふ、とため息を付きながらそう言って。とりあえず、ルネの方をむき、おいで、と両手を広げる。そこにがばーっ、と向かってくるルネ。うん、すんすん、と私の匂いをかぐのは人前ではあまりよしてほしいんだけれども。くすぐったいし。
ただ、拒否をすると多分もっと面倒くさくなるので、拒否はしないし、私が拒否をしない、というのはルネはよく知っているはずだ。ということで、ルイーズさんは一人でにこにことしながら、このラブラブカップル空間にいるのである。つよい、精神力が強い。