ドノン共和国 仮面舞踏会編10
私がもう一歩、ピエロに近づく。ピエロのにこやかな顔が少し変わる。いや、私が近づくことに恐怖の色が出てくるようになったと言うべきか。もちろん私の顔に恐怖の色が浮かんでいるだろう。…あんまり表に出すものではなのだけれど。
それでも一歩、近づき、殴れる距離まで、近づこうとする。するとピエロは一歩引き下がる。
「な、なんだ同士。落ち着きたまえ、君を傷つけるつもりはない。そうだ、壁にならなくていい、どいてくれればそれでいい」
「そうか。…やはり、私もろとも撃つつもりだったな?」
「な、なななな、なにを?!」
「その動揺。本当か、ピエロ。君は一般人は傷つけないと言っていたじゃないか」
「そそそそそ、そうだとも。撃たない。撃たないぞ。だから、さあ、どいてくれれば、そうだ。退いてくれればうちはっ…………っ」
突然、ピエロが膝から崩れ落ちる。どうやら…、脚を撃たれたらしい。私の視界が茜色に染まる。客が悲鳴を上げて、その場から離れようとして、パニックに。そこをしっかりと私達を囲んでいたマスクの人達が落ち着かせ、しっかりと避難させようとしている。……あれ?ピエロの仲間は、と思い後ろを見てみると。
私に弾が当たらないよう、横に避け、銃を撃ったであろうジャン=マリーさんと、それを左右で抱きしめているドミニクとクロエが見えた。いや、銃撃ったあとに抱きつくのはとても危険なのでは、っていうのと、うん、もうちょっと、黒幕感出してほしかったなっていうのと、ジャン=マリーさん動きづらそうだな、っていうツッコミの嵐が出そうになってる。
そんな中、ジョゼ、がこちらに向かってきて、ぽかぽかぽか、と両手で私を叩く。
「ばかばかばかばかっ、むちゃして!!!!」
「…はは、ごめん。もう、しないよ」
「本当に?!そう言って何度目?!」
「…なんどだったかなあ…………。なんにせよ、ごめん」
「……強く抱きしめて」
「ん」
強く抱きしめないとジョゼ、ことルネの怒りが収まりそうにないから、強く、抱きしめてやる。それを温かい目で見るルイーズ。いや、もういっそ笑ってくれ。いや、笑われるのも可笑しいな。なんだろう、殺してくれ。恥ずかしくて仕方がない。
そして、後ろでは脚を撃たれてうめいているピエロが、騎士団によって抱えられて連れて行かれているようだ。そのときに、ドミニクとクロエを見てなにか言っているようだが、何を言っているのかはよく聞き取れない。多分痛みと怒りでなんだかわからないことを言っているのだろう。
「…所で、ドミニクさんとクロエさん。君達はそこでうめいているピエロになにか言うことはないのか?」
「えー?…ないかなあ?」
「ない、わね。…いや、あったわ。楽しかったわ、貴方の道化師っぷりが。名前通り、きちんとピエロをやってくれたのは私、嬉しかったわ」
「うん、彼に聞かせないでよかった。所で、なにかこう心が落ち着くものないか?私のトラウマがまた一つ増えた所だ」
「マリーの可愛い話でも聞く?」
「そうね、それがいいわ。えっとね」
「おやめくださいお姉様方…」
銃は多分具現化魔法を使って出していたのだろう。魔力は…ジャン=マリーさんではなく、クロエから感じるので、クロエが出してマリーさんが撃った感じになるのか。そして、魔力を閉じて銃を消す、と。なるほどアサシン向きだと思う。
でもって、ジャン=マリーさんは顔を隠そうとするも、クロエもドミニクが両腕をガッツリロックしているために自分の顔を隠せないという。なんだろうね、私も何だけれどジャン=マリーさんも中々に愛されているんだな、と。思わずニヤニヤしてしまう。
「むぅ………、リーズ????」
「あっ、いや、なんだいジョゼ?」
「なんだか、私以外の人にニヤニヤしてない?」
「し、してないさ。してないよ」
なんか、こういうときの女性の感は鋭いものだ、と思う。私も女性だけれど、そのへんはルネにはかなわない。本当に。
…とりあえず、とても疲れた。ルイーズ達に。
「とりあえず、明日、お金をもらったり説明してもらっていいかな…?」
「ええ、それはもちろん。色々と聞きたいでしょうし」
「そうね、色々とー、色々と聞きたいわ。ちゃんと話してくれますわよね、伯母様」
「もちろん」
そんな会話をして、私はお嫁さんの腕を借りながら、ホテルへと向かっていくのであった。