ドノン共和国 仮面舞踏会編8
そして迎えたルイーズ・ベケが開催する仮面舞踏会の日。私達は一番最初にその場に入り、ベケと会話をし、ある程度、時間を稼ぐ役。ある程度稼いでいる間に、ベケの周りをピエロとその仲間たちで固めるらしい。まあ、そんなことをやっている間にバレそうなものだけど。ベケ家の私騎士団がどんなものかはわからないが、まあ、それでも囲んでいると見ると多分逆包囲ぐらいはするのだろう。
そうなる前に私達は逃げ出したいものだけれど、そうはいかないんだろうなあ、と思う。無傷で抜け出せるようどういうルートを通ったらいいのか、考えないとなあ。そんな事を控室で考えていると妻が心配するので、私はタバコを吸って舞踏会が始まるまでの時間を中庭で潰していた。そこに、ルイーズ・ベケが近づいてくる。
「ここは、禁煙、ですわよ」
「ああ、これは失礼。でも、次からは禁煙立て看板をつけておいてくれると嬉しい」
「ふふっ、そうさせていただきますわね。……先程、向こうの作戦は聞かせていただきましたけど、大分ゴリ押しですわね」
「そうだなあ。でもなんだかんだ言って、それが一番、やりやすくて安定するんだろう」
そう、騎士団やら傭兵やら…あとは軍人、といったか、まあ、戦争を生業にしている人間ならもう少しいいアイデアが浮かぶのだろうけれど、そうでないのなら、大抵はそういう粗事は大人数でゴリ押しする。いや、生業にしている人間も割とゴリ押しなところはあるかもしれない。結局、粗事は数なのだ。少数で勝てるのはホント作戦を練るか、運の要素が強い。
だからこそ、生業にしている人間もそうでない人間も人を集めるのだろう。策を練らなくても、楽に敵を蹴散らせる。もちろん策を練って相手を蹴散らすのも気持ちいいのだが、大人数で相手を蹴散らすのは気持ちがいい。
…ふと、私は気になったことを口に出してみた。
「そういえば、先程、ピエロに並び立つ人の名、まあ、多分、偽名だろうが、その名を聞いても、ルイーズ、貴方は何も驚かなかったな?」
「そうだったかしら?ドノンなんて名、久しく聞いてなかった名だから、反応が遅れただけで本当は驚いていたのかもしれないじゃない」
「久しく聞いてない、ね。まあ、そういう事にしておこう。……私の推理が正しければ、姪にそこまで無茶な仕事は頼まない人だとは思ってはいるからね」
「何故そんな推理を?」
「あの人達の叔母さんでしょ、一番下の姪に無茶させるような事はないだろうし、それに、私が死ぬような事があって、あの子が不幸だ、って思うような事させるだってないでしょ?」
「……………………」
「まあ、私だってあの子を不幸にさせるつもりはないし、こんなことで死ぬつもりは一切ないけれどね」
「…………ふふっ。それでも、不穏分子に困っていることは確かですわよ」
「私もそれは否定しないよ。あんなん何人も出てきたら、元首の立場として困るどころの話じゃないね」
そう言って、私はタバコを携帯灰皿に入れ、その場を去るために歩きだそうとする。。まあ、そうだよなあ。そうすると、彼らはほんと…哀れだと思った。そうでもしないと、自分の死に場所も決められないのか、と。いや、ただ、それそれに関しては私が言えたことじゃない。私だって、そういう立ち位置なわけだし。
それでも彼らはその場を、そしてこの国を離れるわけにはいかなかったし、離れる気はなかったのだろう。大好きだからこそ、批判だってするし、自分達が少しでも住みやすい用変えようと動く。それは間違えじゃない。ただ、やり方を少しだけ間違えたのと、行動する時を間違えただけ、だ。
「きちんと、逃げてくださいね。…今日、彼らが来るってわかっただけで、貴方達に頼んだ価値はあるんですから」
「わかってるよ。ただ、どうせなら最後まで見ようとは思ってるよ。此処まで乗せられちゃったわけだしね」
背中で、姪の幸せを願う叔母さんの声を受けながら、私は手を振りつつその場を去る。愛する妻の元へ、そして、今日来る彼らの最後を見守るために、私は控室へと帰るのであった。