ドノン共和国 仮面舞踏会編7
ピエロ、ドミニク、クロエに言われるがまま、仮面達に挨拶と会話をする私達。話す人、話す人、なんか色々と捻くれていてそりゃ確かに普通に暮らすのは少々つらいかもしれない、とは思った。平穏であれば平穏であるほど、捻くれれば生きにくいし、不穏分子になりやすい。乱れていればもしかしたら自分たちの意見が多数派になる可能性があるけれども、平穏であればそんなことはめったに無いから。
まあ、普通はそんな行動力がないから酒場で管を巻くぐらいなんだけれども、たまーにいるのだ。行動力がそういう方向に行く人達が。そして今回は、そのたまーに、に私達はぶつかっているという話である。
「さて、同志諸君、新入りさんたちに挨拶はすんだことだろう。少し話を聞いてほしい」
ピエロが、仮面達の真ん中へいき、そう自分に集中を集める。その後に、ドミニクとクロエが続いていく。さて一体何が始まるというのだろうか。できれば私達が、此処に潜入したスパイである事がバレたとか、最悪な報告でなければいいのだけれども。
いや、バレるようなことは……ないとは言い切れないのが辛い。例えば、先日の舞踏会で別れた後の会話でバレたとか。いや、そんなバレるような会話をした記憶がないのだが、何杯かワインを飲んで、記憶が曖昧である。そのときに話した会話を聞かれていたらバレている可能性はある。そしたらもう、暴れて逃げるしかないのだが。
「諸君、君たちは知っているだろうか。今度の週末、古く頭の固い者である元首のベケが、仮面舞踏会を行うらしい。これは我々に対しての挑戦ではないだろうか。我々はこの挑戦を受けるべきか、受けぬべきか」
そこで、あたりを一旦見渡すピエロ。
「逃げるべきだ、と思うものは、逃げればいい。我々は止めないし、その決断を攻めるつもりもない。だがしかし!此処で逃げれば、きっと我々が思う未来は来ない。そうは思わないか、同志諸君」
ところどころから、そうだ!そうだ!と声が上がる。なるほど、まとめるのは上手いのか、それとも、この演説をする前に既に落としていたか、の二択。どちらとも取れるのである。少なくとも、ただの女好きではない。そこまで口が立つわけではないけれども、かと言って、じゃあ可笑しいか、と言われれば、何もおかしくはない。
まとまり、はあったりなかったりだが、それがまた人を引きつけるのであろう。私も、先に出会うのがルイーズ・ベケでなければこの雰囲気に乗って、声を上げていただろう。それが出来るのは才能だと思う。ただまあ、うちのジョゼ、ことルネもできるわけだが。やはり似た者同士であろう。ピエロに惚れはしないが。
「そうだ。我々は立たなくてはならぬ。この鬱屈した心を開放しなければいかぬ。この怒りを、ルイーズ・ベケにぶつけなければいけぬ。そうだろう?!」
「そうですわ。長年積もった恨み辛みをぶつけるのは、今しかありませんわ!」
ピエロに続き、ドミニクがそう声を上げて、クロエが力強く頷いてみせる。酒場のボルテージが一段階、上がった気がする。狂乱、に近い。なるほど、ピエロが盛り上げ、ドミニクが締める。それが出来るからこそ、ピエロは此処まで立場を強くできたのであろう。納得がいった。
…ちらり、とジョゼの方を見やると、ジョゼも同じことを思ったらしく、私の方を見て、苦笑いを落とした。そう、こういう相手は実に厄介なのだ。命を捨ててくるから。多分ピエロ、ドミニク、クロエ、がいなくなっても、時間をかけてまた不穏分子は蘇る。一個潰しても火種は残リ続ける。非常に面倒くさいのだよなあ。
「決戦は週末だ!諸君、今日が最後の晩餐だと思って、楽しもうではないか!マスター、ここは俺のおごりにして、皆にここの酒場にある酒と料理をありったけもってきてくれ!」
「あいよ!!!ピエロさんの頼みだ、いやとは言えないなあ!」
マスターもノリノリで人々にお酒を持っていく為に準備にはいる。うんうん、と満足そうに頷いて、ピエロ達はこちらに戻ってきた。私とジョゼは感動した、との意を込めて、拍手を送る。
それを見てさらに満足そうに頷いたピエロ。そして、私達を中心にし、離れずにお酒を飲み続けるのであった。