ドノン共和国 仮面舞踏会編5
この場から逃げようとしたジャン=マリーさんとそれを引き止めた私を余所に、ジョゼとピエロさんの会話は続く。これが陽キャと陰キャとの差か。いやでも、多分こういう仕事は陽キャのほうがいいのだろう。私とジャン=マリーさんは他に怪しい人がいないか、いや、全員仮面してるから怪しいっちゃ怪しいんだけれども。こう、仮面以外に怪しい動きしてる人がいないかを探るのが仕事みたいな。
まあ、基本、他の人と会話をしているかダンスをしているかなので怪しい動きをしている人はいないんだけれども。まあ、そういう反乱分子みたいな会話をされてても聞き取れる程の耳はない。魔術にも科学にもそんな聴力を上げるようなものは…まだなかったような気がする。科学ではあるかもしれない、そのへんは私は専門外だからなあ。
「…そうだ、お嬢さん方。お嬢さん方はこの街、というか、この国どう思う?」
「この国、ですか?そうですね…。伝統的なとてもいい国だと思いますが」
「古臭くて、カビ臭いと思わないか?」
「古臭くて、カビ臭い…」
「そう。ここのトップはずっと5つの家でなんの代わりもない。ここ150年はずっと同じ元首のババアだ」
「ババア…」
ジャン=マリーさんの雰囲気が少し変わったような気がする。だけれどもここは、抑えて、と私はジャン=マリーさんを見やる。いやまあ、確かに雇われてる人の悪口を聞くのはとても嫌な気持ちになるが、これはもしかすると、一発目でヒットである。ここは泳がせておきたい所、であった。
ジャン=マリーさんが「どうしてもだめですか」みたいな顔をしているので、首を縦に動かす。ここはジョゼに任せよう。
「おや、ピエロさんは知っているので?」
「知っているのはここ、30年ぐらいだけど、な。お嬢さん方はこのあたり、の生まれじゃないな?」
「そうですね。もう少し北の方から」
「北の方か。……ふぅん、じゃあ、あのババア達がどんだけ古臭いかあまり知らないか」
「そうですわね。…もう少し、話が聞きたい、ですわね」
「ふむ。そうかそうか。興味を持ってくれたか。そちらのお嬢様方は?」
「私達も、少しだけ」
「…お二方と一緒です」
「ふむ、決まりだ。まあ、ここで話すと誰に聞かれてるか分からない。ということでだ、また明日、この紙に書いてある場所にに来てくれるだろうか」
そう言ってピエロはジョゼに紙を渡した。それを受け取るジョゼ。そこには多分、ピエロさんが言っている場所が書いてあるんだろう。まさかの大当たりである。
「あ、そうだ。その際は、ここでしてきた仮面をつけてきてくれ…、ください。いかんな、ついつい汚い言葉使いになってしまう」
「あ、はい。わかりました。…ふふっ、そちらの方がいいですわよ」
そういうジョゼ。そう言うと、なんだか照れくさそうに笑ったように見えるピエロさん。いやそんな悪い人じゃなさそうに見えるけれども、そういう人が不穏分子になるのはよくある話だ。うちの国でもよくある。まあ、その辺の処理は私ではなく、騎士団のしごとであったが。
いや、一回だけ一緒に仕事をしたことがあった。まあ、それはまた、別の話である。