◇08 急転:ほんとうのこと
俺はおとぎ話を語る途中で、ため息をついた。またこいつからガキのときと同じく続きをせかされると思ったのだが、どうも違う。見るとリサは物思いにふけるように、しんみりとした顔をしている。
リサは言った。
「……彼、あの人に恋しているよね」
「そうだな間違いじゃない。あれは、恋心だった」
「……まるで自分のことみたいに言うんだ、親父さん」
俺はその言葉に黙る。機器の駆動音だけが操縦室に鳴っている。
何もない時間が過ぎ、
俺は口をひらいた。
「リサ、あの惑星が見えるか」
窓の外は赤茶色の惑星が迫っている。漆黒の宇宙では鮮やかな色彩だ。すでに山脈や雲も見え、残骸が生みだす色の濃淡さえもよくわかる。
「……えっ、ここって」
「廃棄物投棄座標。通称『ごみ惑星』だ」俺は操作パネルを触りながら言った。
「お前が言うとおり、あのおとぎ話は『俺が体験した出来事』を基にしている」
淡々とリサに伝えた。いまの俺にとっては過去におきた話だ。
リサは操縦席のそばにきてごみ惑星に目を凝らす。まるで思い詰めているような横顔で何かをつぶやいた。「なら親父さんは……」としか俺は聞き取れなかった。
惑星の重力圏内に入るまであと少し。俺は着陸準備をはじめた。着陸用のナビゲーターを起動し、マイクに声紋を聞かせる。
「船長権限で航路外の廃棄物投棄座標に着陸する。船長名、ユーリ・アルビータ」
承認をしめす電子音が鳴る。計器と操縦桿に不具合がないことを再確認した。
「なあリサ……おまえ俺に何か隠しているよな」
俺の言葉にリサは目をわずかに泳がせた。表情もいっそう重たくなる。
「その、親父さん」
「話は着陸してから聞くぞ。それに俺のおとぎ話もまだ途中だ。この際ぜんぶ言わせてもらう」
惑星の重力に引き寄せられ、船はゆっくりと大気圏に突入していく。
俺は続きを語る。あの頃を思い出しながら。
――ふたりはごみの惑星で一緒に暮らしました。それは楽しく、おたがいに満ち足りた毎日でした。
ですが、少年は女性にお別れを言わなければならなくなりました。『帰りの宇宙船』が、惑星にやってきたのです――