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駅。馬偏を使う。昔、駅とは馬車の停車場のことを指していたことの名残だ。
だから私は異世界の“ウマヤ”を舞台に小咄をだそうとおもう。
※ ※ ※
村人のヨゼフには日課があった。駅で馬車を待つことだ。
彼には妻が居た。名前はシェリー。二重で、鼻は整っていて、宝石のように紅く輝く目をしていた。髪は特徴のない黒色だったが、一度風が吹けばサラリと髪が舞い、夕陽にあたれば光り輝いた。美しい見目の持ち主である彼女は村一番の魔法使いでもあった。見た目があまりよくなく、魔法が一切使えないヨゼフにはあまりにももったいない人物だった。そんな二人が付き合いを始めたのは二人が幼馴染だったからというのが一番大きいのかもしれない。
王都へと飛び出し、魔法学校に通っていたシェリーは本人が望めば贅沢な暮らしができたことだろう。けれどもシェリーは村に戻った。そしてヨゼフを夫に選んだ。のちにその理由を彼女の学友から耳に入れたことがある。都会は雑多で不衛生であり、そして男性貴族たちの舐めまわすような視線に嫌気がさしたのだそうだ。それを聞いたとき、貴族と交流のあることに驚いたが、それでも自分を選んでくれたと言うのはどこか嬉しさがこみ上がってきた。けれども今ではそれが若干目減りしている。
十五年ほど前、王家の招集を受けた彼女は魔法使いの役目を果たせとの王命に従い、北の山脈のドラゴンの討伐に向かわせられた。ヨゼフはどこか楽観していた。シェリーならきっとドラゴンを倒して帰ってきてくれるだろうと。そして一年も経たないうちにドラゴンが倒されたとの知らせが村にきた。
ヨゼフは喜び、シェリーの帰宅を楽しみにし、駅へと向かった。気が早いと分かっていながらもいつ戻ってくるか分からないシェリーを迎えるために毎日駅に立っていた。
けれども待てども待てどもシェリーの姿は見えない。
遅れているのだろうか? 祝宴とかで中々抜け出せないのだろうか?
一年経ってもその姿を見せなかった。
もしかしてドラゴン討伐のときに何か被害を受けたんじゃないか? そう思ったが、それなら家に連絡が来てもおかしくないはずだった。
ほんの一瞬頭に「浮気」の文字が思い浮かんだ。新しい男を作りそのまま失踪したのではないか? けれどもヨゼフは妻の不義を信じなかった。清い目を持つ彼女が不義理なことをするわけがないと、彼女の美しい心が美しいままであることを信じた。
連絡がこない中、待ちに待ち、待ち続け、年月だけが過ぎていった。
いつしか、妻を待つことではなく、駅に立つことが日課となり、十五年が過ぎてしまった。