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これは僧侶の物語

 魔王が復活したのが約十年前でしたっけ。

 人は今も尚、魔王の恐怖に晒されています。


 かつて青かった空は暗い雲でおおわれ、魔王の瘴気によって草木は枯れている。


 まあ、そんなのは一部の地域位らしいですが、魔王軍によって人の領土の四割が盗られてしまったそうです。

 魔物による人さらいも頻繁に起き、魔王軍と戦っている都市の方々は毎日、いつ都市が沈んでもおかしくないと怯えている。


 魔王軍は何故突然現れ、人に対して牙を向いているのか。

 分からないのですが、定期的に魔王はこの世界に現れ、人に害を成します。


 今、人は魔王軍を滅ぼす事を目標に一致団結しています。

 そして魔王軍の長、魔王を倒すために作られた称号といえばいいのでしょうか。

 勇者という称号を持った方がこの前、殺されました。

 人々の士気は落ちています。


 このままでは行けないと。

 私ことジェシカという僧侶は、教会を出て、冒険者になったのです。



 ここは冒険者の館。

 冒険者達が仲間を求めて集う場所です。

 周りがワイワイガヤガヤと楽しみながら交流している隅で私はミルクを飲んでいます。


 最近、私はお金が無いのです。

 というか仕事がありません。


 私の夢は魔王討伐。

 世界を平和にするためと思い立ち、冒険者登録を済ませたのがつい一ヶ月前。


 最初の方は声をかけてくれる方もおり、依頼もこなせていたのですが、固定メンバーを組むには至らず、最近ずっと一人で薬草の採取をしています。


 どうしてこうなってしまったのでしょうかと、考えても答えは出ず、こうして昼間っからミルクをちびちび飲んでいる今日のこの頃。


 こうなってしまったのも世間が悪いと言いたいのですが、自分の不幸の理由を周りに押し付けるということは神様は快く思いません。


 これは神様が私に課した試練なのです。

 そう私は一人でもやって行けるということを神様に見せてあげましょう!

 この試練を乗り越えたらきっとお友達が待っているのです。


「こんにちは。貴方がジェシカさん?」


 ……私の名前が呼ばれた?

 いえ、これは幻聴でしょう。

 ほら、振り返ったら人が……いました。


「え……と、あ、あ、はい。ジェシカです。こ、こんにちは……」


 絶対声が上擦りました。


 男の人です。

 男の人がいます。

 あ、男の人だけではありませんでした。

 男の方の後ろに仲間らしき人もいます。


「よかった。僕の名前はレスト。受付の人に癒し手として紹介してもらったんだけど」

「あ、はい。私は僧侶です。傷、治せます」

「よかった。僕達のパーティーは癒し手がまだいなくてね。今からゴースト討伐にいくつもりなんだけど、どう?」


 ……ゴースト。

 いわゆるアンデッド系の魔物ですね。


 私すごく苦手なんですよねアンデッド。

 もう、この世で嫌いなものランキング一位です。

 まあ、冒険者として生きていく上で一番出てくるのはアンデッド系の魔物なのでそんなこと言ってられないのですが。


 本当なら行きたくないんですけど……ここで断ったら……また一人ですし……


「えっと、あの。もしかしたらとてもとても足でまといになるかもなのですが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫。後ろで僕達を回復してくれてたらいいよ」

「……なら、お願いします」

「ああ。よろしくね」



「こ、こんにちは。ジェシカと言います。使える魔法は光魔法。回復魔法。結界魔法。強化魔法。弱化魔法全て中級程度使えます。よろしくお願いします」


 よし、多分噛まずに言えました!


 噛まずに言えたことに対してか、自己紹介に対してか拍手も貰いました。まあ、ほぼ百パーセント後者ですけど。

 周りからもよろしくなどと声をかけて頂きました。


 今回私が同伴させて頂くパーティはオリオンズ。

 戦士二人、魔法戦士一人、射手一人、僧侶一人のパーティーです。


 なんとも物理よりのパーティーですね。

 魔法使いがいないのでゴースト退治としては大丈夫なのかと不安なのですが、魔法戦士の方がどうにかしてくれるのでしょうか。

 私は光魔法は使えますけど、二人で火力足りるのでしょうか。


「よろしく!ジェシカちゃん!」

「え、あ、その、よろしくお願いします……」


 えーと、誰でしたっけ射手の方なのは覚えているのですが、自己紹介の時、ドラなんとかとか言ってましたが名前が長すぎて覚えてません。


「あ、ごめん。馴れ馴れしすぎた?そんな怯えないで、女性同士仲良くしよ。私の事ドラルって呼んでくれて構わないから」

「あ、はい。ドラルさん」


 なんだかマシンガンのように話してきますね。

 こういうすごく話してくる人は少し怖いです。

 苦手。


「そういえばさ。自己紹介の時思ったんだけど、ジェシカちゃん使える魔法多いよね。なんでフリーだったの?魔力が少ないとか?」

「えっと……それは、その、私、結構ドジだし、アンデッド系の魔物が苦手だからだと思います……」

「えぇ……どれくらいドジでどれくらい苦手なのか分からないけど、あそこまで中級魔法使える人がフリーって普通はないでしょ」


 そうなのでしょうか。

 でも、今まで組んだ皆さん依頼完了したらこの後誘ってくれないんですよねぇ。


 なんででしょう。

 少し悲しいです。


「っとと」

「おっと、大丈夫ですか」

「あ、ありがとうございます……」


 考え事していたからか躓いでしまいました恥ずかしみ。

 魔法戦士さんが助けてくれなかったら痛かったですね多分。


 それにしても魔法戦士さん……名前なんでしたっけ。

 魔法戦士は結構魔法に頼るので、細身の方が多いと聞いていたのですが、私を受け止めてくれた腕はしっかりしてましたね。


 見た目は細いのに。

 着痩せする方なのでしょうか。


「ジェシカちゃん大丈夫?」

「あ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 ドラルさん、優しいですね。


「それにしても、彼どうだった?」

「どう、とは?」

「いや、彼も今回ジェシカちゃんと同じ助っ人じゃん?喋った感じどうだった?問題児とも言われてる子だし」


 え、そうだったんですか。

 自己紹介全然聞いてなかった……

 助っ人なんですか。

 というか、このパーティー私と魔法戦士さんがいなかったらどうやってゴースト退治するつもりだったのでしょうか。


「大丈夫かと聞かれてお礼言われただけなのでなんとも言えませんけど……。普通に親切な方だと思います……よ?」

「そっか。ならいいや」

「あ、あの。私と魔法戦士さんがいなかったらどうやってゴースト退治するつもりだったのでしょうか?」


やはり気になります。


「あー、実は元々私たちのパーティーでゴースト退治受けた訳じゃなくてさ。あの魔法戦士くんが一人で受けようしてたからさ。無謀だってことで私たちのパーティーに入れることになったんだよ。他のパーティーは受け入れたがらなくてね」


 なるほど。

 つまり元々はアンデッド系の魔物を狩るパーティーではないんですね。


 道理で編成がおかしいと思ってました。

 それにしても一人でゴースト退治しようと言うのは無謀さんか、実力者さんかどちらなのでしょう。


 まあ、私には関係なく、今日のミルク代を稼げたらいいのですが。

 そしていつか勇者様が迎えに来てくれるはず。


「お、いるぞー。総員警戒」


 前にいる戦士さんがゴーストを発見したようです。

 私にはまだ見えないのですが、目がいいですねぇ。


「とりあえず、ジェシカちゃんは前衛が負傷したら回復。魔力が枯渇しない程度に光魔法で倒してね。私が援護するから」


 ドラルさんがいつの間にか短剣を取り出して聖水でしょうか。

 ふりかけてますね。

 今回は弓を使わないのでしょう。


 警戒しながら前に出ていくと確かにゴーストがいたのですが……

 魔法戦士さんが一振で消滅させましたね。

 あ、でも何故か怒られてます。


「えーと、あの。ドラルさん。なんで魔法戦士さん怒られているんです?」

「多分核を切ったからじゃない?」

「核……ですか?」

「もしかしてだけど知らないのかい?」


 知らないのでこくりと頷くと、驚いた顔をされました。

 なんでしょう。

 常識なのでしょうか。


「ジェシカちゃん。冒険者になって一週間とか?」

「い、一ヶ月です」

「誰も教えてくれなかったのかなぁ。えーとね」


 ドラルさんいわく、魔物には核というものがある。

 核を壊したら魔物は一撃で死ぬ。

 急所みたいなものですね。


 そして核は魔力を持っており、壊さずに殺すことで金になる。

 他の部位でも金にはなるが、核を傷つけずに倒した方が効率が良い。

 特にゴーストは核くらいしか換金できるものがないらしいですね。

 へー、全然知りませんでした。

 あれ。でも今まで同伴させて頂いたパーティーで魔物の核を収集していたところはなかったような。


 あ、また魔法戦士さんが魔物を殺して怒られてます。

 学ばないのでしょうか。


 まあ、核を壊すこと以外はすごいと思うのですが。

 私では振った剣が見えません。

 多分ものすごく強いのでしょうねぇ。


「すまない。回復してくれ」

「あ、は、はい。わかりましたー」


 このまま回復し続けていたらいいだけですねぇ。

 今回は楽です。

 もっとも核の収集は進んでいないみたいなので多分稼げないですけど。


「ジェシカちゃん!後ろ!」


 ふと後ろを見ると、ドラルさんがナイフでゴーストの攻撃を受け止めてました。

 聖水を降ってるからでしょうか。


 ゴーストの攻撃をナイフで受けるとは凄いですね。

 あ、そんなこと考えている暇はなかった。


「聖なる光!」


 ゴーストに向けて光魔法を放ったら消滅しましたね。大手柄です。


「ジェシカちゃん!ありがとう」


 お礼を言われるのはやはり気分がいいですねぇ。

 このまま前線も援護しましょうか。


「あ、ジェシカちゃんは回復してていいよ。危なくなったら光魔法使う感じで」


 仕方ないので回復だけしていますか。

 まだ魔力あるのになぁ。

 あ、そういえば私が倒したゴーストの核……


「回復頼む!」

「は、はい!」


 それからは背後から敵が来ることも無く、回復するだけの仕事でした。


「よーし、お疲れ様!今回はあまり稼げなかったが仕方ない。また縁があれば頼むわ」


 討伐が終わり、私たちは酒場に戻ってきました。

 これはもう誘われないやつですね。

 今までのパーティーの方々も誘ってくれないので知ってます。

 私の何が悪いのでしょうか。


「やあ、先程はどうも」

「え、は、はい!」


 えーと、魔法戦士さんですね。

 なんでしょう。

 なんぱでしょうか。


「先程のゴースト退治でとてもいい光魔法をおもちだったので。よければ僕と固定でパーティーを組んでは頂けませんか?」


 初めての固定パーティーの申し込み!

 これは、チャンスなのでは。


「あのー、他のパーティーメンバーの方達はどんな感じでしょうか」

「まだいませんね。僕と固定を組んでくれる方が居ないもので」


 ……何故でしょうか。初めての固定の申し込みですごく嬉しいのですが。

 不安が。


 大丈夫でしょうか。

 着いて行ったらお金に苦労しそうな気がします。

 あ、あと固定を組むなら一つ聞いておかないと。


「あの……」

「あと、ひとつ。僕は魔王討伐を目標にしています。貴方がもしも魔王討伐なんて無理だと考えているなら断ってください」


 冒険者で魔王討伐を目指している人は少ない。

 魔物を倒して、金を貰って生きていく。

 それだけの人が意外と多いのです。


 私には分からないのですが。

 やはり冒険者なら世界平和を目的にするべきでしょう!

 この人は……


「私も魔王討伐を目指しています。一緒に頑張りましょう」


 うん。

 もしもダメだった時は固定を解消すればいいだけですしね。

 組みましょう。

 やっと同士を見つけたのです。


「ありがとう。えーと名前は……」

「ジェシカです。姓はありません」

「僕の名前はフェイ・テレサです。よろしく。ジェシカさん」


 今日、ようやく私に固定のパーティーが出来ました。

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