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煮物屋さんの暖かくて優しい食卓  作者: 山いい奈
季節の幕間4 桃色のお祭り
83/122

老若男女全てに幸あれ

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 ひな祭りは女の子の健康と幸せを願うお祭りである。だが煮物屋さんはお客さま全ての健康と幸せを願っている。


 なので佳鳴(かなる)千隼(ちはや)は今日もせっせと支度をするのである。




「はい、お待たせしました。ひな祭りのゼリーです」


 そう言って食後にお出しするのは、熱燗(あつかん)用のおちょこに盛ったゼリーである。


 まずは抹茶(まっちゃ)ゼリーを作る。お湯に抹茶と砂糖、粉ゼラチンを溶かし、茶こしでこしながら平たいバットに流し入れて固める。


 もうひとつはミルクゼリー。温めた牛乳に砂糖とふやかしたゼラチンを入れて溶かし、こちらもこしてバットに移して固める。


 そうして固まった2色のゼリーをそれぞれフォークで荒く崩し、ふたつを軽く混ぜ合わせておちょこにふわりと盛り付け、角切りにしたいちごを数粒乗せてできあがりだ。


 菱餅(ひしもち)()したものである。フルーツとゼリーなので、お酒を飲まれた後でもさっぱりと召し上がっていただける。


 性別も年齢も未婚既婚も関係無く、品切れるまでお客さまに振る舞うのだ。


 それを見た山見さんの奥さんは「まぁ」と嬉しそうに目尻を下げた。


「私なんてもう女の子なんて歳はとうの昔に過ぎているのに、いただいてしまって良いのかしら」


 すると横で山見さんが「なんのなんの」と笑う。


「私なんて女性でも無いんだよ」


「あらまぁ、そうねぇ」


 山見奥さんはおかしそうにころころと笑う。


「うちは息子がふたりだったから、もうおひな祭りに関わるなんて何十年も無かったですからねぇ。こちらでこうしてお祝いできるのが嬉しいわぁ」


「本当にささやかなものですが」


 佳鳴が言うと、山見奥さんは「いいえぇ」とふんわり笑う。


「充分よ。お腹がいっぱいでお酒をいただいてもつるっといただけるのが嬉しいわ。過度で無く、さりげなく控えめで。嬉しいお心遣いをいつもありがとう」


「本当だね。ありがたいねぇ」


「とんでもありません。こちらこそいつもありがとうございます」


 佳鳴は嬉しくなってぱあっと笑顔になる。千隼も口元を綻ばせていた。




 菱餅がひし形なのは、ちゃんと理由がある。


 諸説あるらしいが、ひとつは水草の種子である菱の実を形どったものと言われている。


 菱は繁殖力が強く、子孫繁栄や長寿の願いも込められたのだ。


 そして菱は尖っているので、柊の様に魔除けの意味もあるそうだ。


 ついでにもうひとつ。ひし形は心臓を形どったものという説もあるらしい。菱の実には血圧上昇を防ぐ効果が発見されているのだ。


 もちろん3色の色にも意味がある。


 赤もしくはピンクは魔除け。白は清浄や純白の雪。緑はよもぎで、健康に強い生命力。


 煮物屋さんでは緑を抹茶で表現したが、こういう縁起ものに無駄は無いのだ。昔から願いを込めて大切に引き継がれて来たものなのだ。




 山見奥さんは小さなスプーンでゼリーをすくい、つるりと口に入れる。


「まぁ、お抹茶味なのね。白いのは牛乳ね。一緒にいただくとかすかな苦味と優しい甘さがとても良く合うのねぇ」


「いちごを一緒に食べるのも美味しいぞ。少し加わる酸味がまたさっぱりとさせてくれる」


「あらまぁ、本当ねぇ。いちごとお抹茶って合うのねぇ」


 山見さんご夫妻はにこにこと手を動かし、おちょこはあっと言う間に空になった。


「うふふ、美味しかったわ。お酒の後のデザート嬉しいわねぇ。あら、今時はスイーツって言うのかしら」


「何もわざわざ若い者に合わさなくても」


「心ぐらいは少しでも若くありたいんですよ。あなたも変に老け込まない様にしてね。せっかくのおひな祭りなんだから」


「ああ、そうだね。ひな祭りは健康や長寿も願う祭りだものな」


「そうよ。まだまだ元気でいなくちゃね」


「そうだね」


 山見さんご夫妻はそう言って笑い合う。佳鳴と千隼もそんなおふたりを見て、「ふふ」と笑みをこぼした。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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