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10年の願い

作者: 潮浜優

10年の願い




その日は病室が消灯になっても、眠れずにぼんやりしていた


眠れないのは、今日看護師さん達が廊下で話しているのを聞いてしまったから…

頭がカラッぽになったみたいに、何も考えられない


非常灯の薄明かりの中、天井を見つめていると、子供の声、男の子の声が聞こえてきた


「やぁ…」


何もなかった天井に、うっすらと人のような影


「だれ?」


その影はゆっくりと形が見えはじめた


小さな体に真っ白い服、見かけはあたしと同じくらいの歳の男の子

でも、体は宙に浮いたままだ


「俺は天使さ」


「てんしさん?」


絵本で見た天使は、もっと大人だったけど、天使にも年齢があるのかな…


あたしを迎えに来たのかな…



「きみ、願いがあるんだろう?」


不思議な体験だったけど、当時まだ8歳だったあたしは、自然に天使の言葉を受け入れた


「うん、でもあたしは病気で入院してばっかり、願いをかなえることなんてできないの…」


少し寂しそうに言うと、天使はニッコリ笑って言った


「俺が願いを叶える方法を教えてあげるよ」


「てんしさんが教えてくれるの?どうすれば願いがかなうの?」


「それはね、毎日お願いするのさ」


「毎日?それだけでいいの?」


「あぁ、毎日毎日10年間お願いしたら、願いがかなうのさ」


「10年間も……」


「10年間続ける勇気がないかい?」


「いえ、そうじゃなくて…」


「じゃあ、なぜ?」


「わからないの…」


「何が?」


「あたし、あと何年生きられるか、わからないんだって…」





挿絵(By みてみん)






「お、マユリ今日は顔色いいな!」

「ヒロくんいらっしゃい、お見舞いありがとう」


お見舞いに来ると、いろんな管を身体中に付けられていたけど

今日のマユリは顔色も良く、いつにも増してニコニコしていた


「さては何かいいことがあったな!」

「うふふ、ナイショ」


マユリは小さい時から病弱で入退院を繰り返していた


もうすぐ高校卒業だが、通えるかわからないからと、大学は受けないそうだ


「明日の手術がうまくいけば治るんだろ、マユリも受験すればいいのに」


「あたしはいいの、それよりヒロくん受験近いのに大丈夫?お見舞いは嬉しいけど、そのせいで落ちたら、あたし責任感じちゃう!」


「ははは、心配するな!成績は合格ラインだから」



明日の手術は大変な手術だと聞いていたが…

マユリはいたって普通、いやむしろ元気で嬉しそうだった


不安よりも治って元気になるのが楽しみなんだろうな…



「なぁマユリ…」


「なに?」


「受験が終わったら小説書き上げるからさ…」


「うん」


「最初に読んでよ…」


「ねぇヒロくん…」


「ん?なに?」


「受験が終わったら、じゃなくて、合格したら、ね」


「そ、そうだな…」


「じゃ、約束…」


僕たちは指切りげんまんをした


「必ず完成させること…」





あたしはわざと、完成させること以上の約束はしなかった








消灯後の病室

非常灯の薄明かりの中、あたしはいつものようにお願いをした


「今日で10年目、お願いしてから10年目…」

これできっと、願いが叶う…




「やぁ、俺をおぼえているかい?」


あの日と同じように、天使さんが現れた

10年経ったけど、天使さんの姿はあの日と同じ子供のままだった


「こんばんわ、天使さん、10年ぶりね」


「よく頑張ったね、10年間」


天使さんはふわふわと浮きながらニコニコしている


「それにしても10年間毎日お願いするのは、なかなかできる事じゃない」


「うん、でもこれで願いがかなうんでしょ」


「もちろん、どんな願いもかなうよ!」


「なら満足!もう思い残すことはない、嬉しい」


「どれどれ、君の願いは……」





「…これは…」


「どうしたの?叶わないの?」


「叶う、叶うけど…」


「?」


「なぜ君の、自分の願いじゃないんだ?」


「これがあたしの願いよ」



マユリの願いが文字になり浮かび出した




【ヒロくんがこれからずっと幸せに生きますように】




「ヒロくんはね、こんなあたしにもとっても優しくしてくれたの」


「いつも一緒に遊んでくれて、入院したらお見舞いに来てくれて」


「小さい時からずっとよ」


「だからね、ヒロくんが幸せになるようにお願いしてたの」


「天使さんに会うずっと前から」


「だから、10年間毎日お願いするのは問題じゃなかった」


「あたしが心配してたのは、10年間生きられるかどうかだった」


「そしたら教えてくれたから」


「あなたが教えてくれたから」


「あとちょうど10年生きるって…」


「あの日が、ちょうど死ぬ10年前の日だって…」







君がそう言うのなら、俺にはどうすることもできない


「君の願いを叶えよう……」










「はぁっ、はぁっ、」


ボクは完成した小説を握りしめて走っていた!


「こら!病院の廊下を走らない!」

「す、すいません看護師さん!」


ガラガラ!


「マユリ!」









「ヒロくん?」


「小説完成したんだ!」


「ほんと!」


「マユリ明日退院だろ?お祝いに間に合わせようと思って!」


「うん!ヒロくんの小説いつも面白いから楽しみ!」


あたしは生きていた

どうして生きているのか、分からなかったけど…



あの天使さんが、小説を読ませてくれるように、少しだけ命を伸ばしてくれたのかも…



ありがとう…天使さん






病室の窓の外、男の子と女の子の天使が、ふわふわ浮いてマユリ達を見ていた



「ねぇ、あのマユリって子、寿命だったのに、どういうことなの?アンタ何かしたの?」

女の子の天使がぶっきらぼうに聞いてきた


「いや、なにも…」


「じゃあ何で?何で生きてるのよ」


「あぁ、きっと願いが叶ったからさ」


「願い?あの子の寿命は願いには無かったはずだけど?」




男の子の天使は、少し間をあけて答えた


「それは、この願いが叶うためには…」



【ヒロくんがこれからずっと幸せに生きますように】



「きっと、マユリが必要だったからさ…」





10年の願い

おしまい



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