現代インドア女子、まとめて名前つけちゃった
糸が4本。
ゆらゆらと闇の中を漂う。
1本は真っ直ぐに、まるで行き先がわかっているようにわき目も振らず進んでいく。
別の糸はくねくねと水の中を漂うように動きながらも真っ直ぐな糸と同じ方へと進んでいく。
また別の糸は前の2本の糸を追うようにゆっくりと進んでいく。
君は行かないの?
私の前でゆらゆらしながらも進もうとせずにいる1本の糸。
なんとなく声をかけてみるが、その糸に言葉は通じないのか、一向に他の糸を追おうとはしない。
行っちゃうけど、いいの?
ただの糸に意思などないはずなのに、何故か声をかけずにはいられない。
一緒に行く?
うん!
なんとなく、そう声をかけると頭の中に直接響くように元気な返事が返ってきた。
手を差し伸べる。
細い糸がするりと指に絡まる。
そうして今まで進まずにいたのが嘘のように私を導く。
☆
「…、」
爽やかな風が頬くすぐる。
初夏を思わせる気持ちのいい風だ。
いい天気。
可笑しな夢を見たななんて思っていたら大きな顔がずいっと視界を塞いだ。
「あ、目が覚めましたか?」
「!?」
白銀の巨大な狼、フェンリルさんが私の顔を覗き込んだのだ。
「お加減は如何ですか?ご主人様」
もう1匹、こちらは額の模様が赤いフェンリルさんが貌を覗かせる。
「えーっと、大丈夫です…」
「そうですか。しかし今暫くわたくしを枕にお休みください」
モフモフとした温かな感触はどうやらフェンリルさんを枕にしているかららしい。
とんでもなく恐ろしいのだが、如何せん体が怠くて動けない。
「ハンターウルフたちに名前を授けた影響で、魔力がなくなっておりますので、ゆっくりとお寛ぎください。できれば姉様でなく私を枕にしていただけると嬉しいのですが」
そんな私に気真面目そうな声音で青い模様のフェンリルさんはそう言う。
体が怠いのはハンターウルフたち、アルたち兄妹に名前を付けたかららしい。
「アルとイル、ウルとエルはどこにいますか?」
「アル、イル、ウル、エル…ハンターウルフたちの名前ですね」
「はい。そうです」
「羨ましい…じゃなかった、彼らは今ご主人様のご飯になるようなものを探しに森に行っております」
赤い模様のフェンリルさん、私が枕にしている方のフェンリルさんが答えてくれる。
名前を付けられるのが羨ましいと呟くフェンリルさんたちを見ながら、瞼が重くなる。
まだ身体が本調子では無い様で、起きているよりも寝ていたい。
「あー…、えーっと、皆さんの名前も考えてありますよ。額の模様が赤いフェンリルさんはサテラ。青い模様のフェンリルさんはステラ。黒いドラゴンさんはラトル、赤いドラゴンさんはリトル、白いドラゴンさんはルトル。スライムさんはレムとラム。ちゃんとみんなの分を考えました。考えましたが、ネーミングセンスがないのでご了承ください」
「「え?」」
ちゃんと考えた名前。
精一杯考えた。
ハンターウルフたちに名前を付けていいと言われた時に一緒に考えたのだ。
兄弟たちと、仲間たちと、私とを繋ぐ糸になってくれる名前を。
「ちょっ!ご主人様!?」
「そんないっぺんに付けちゃったんですか!?」
慌てふためくサテラとステラの声を聞きながら、私は温かな日差しとサテラのふわふわの毛並みに埋もれながら再び寝ることにした。
そしてサテラとステラに囲まれながら寝る私は再び、あの不思議な糸の夢を見るのだった。




