フィールフォンネの町へ
「オ、オブシティアンウルフゥゥゥゥッ!?」
守衛のおじさんの大声に他の守衛さんも驚き目を見張る。
「そんなバカなっ」
「あれが黒い疾風…」
おじさんの声を聞いた人々が興味深そうにアルとエルを見る。
「お、お嬢ちゃん、その、魔獣はいったい…」
怖々とおじさんが尋ねる。
その後ろで剣やら槍やらを持とうか迷いつつ私の返答を見守る守衛さんたちがいる。
「えーっと、さっきも言いましたが、この子たちが私の従魔です」
「そんなバカな…一頭でも悪夢と呼ばれるほど危険な黒曜狼を二頭もだと?何者なんだお嬢ちゃんは…」
「ただの『魔物使い』です」
異世界から来たごく普通の女子高生です。
従魔がちょっとだけ…凄くヤバそうな名前なだけで超優秀な普通に可愛い従魔です。
にへらと笑って言ってみたけど、何故か信用されない。
「外れスキルの『魔物使い』がAランクの魔獣を使役できるはずがないだろうっ!?」
何故か全否定された。
思わずクラヴィルくんを見る。
「マウロスさん落ち着いてください」
「ヴィル坊」
「彼女の言っていることは本当です。この二頭の黒曜狼は彼女の従魔です。俺を助けてくれましたし、ここまで俺と彼女が武器もないのに森を抜けられたのは彼女の従魔たちのおかげなんです」
クラヴィルくんの言葉におじさん達はどうにか得物を下ろした。
「マウロスさん。さっき彼女は「フォルトヴェルナの誘い」にあったっと言いましたよね」
「ああ」
「彼女がいたのは森の中でもかなり深い場所…地図の先でした。そこに丸腰でも平気でいられたのは従魔たちがいたからです。俺は彼女とここまで一緒に来ましたが、彼女の従魔は賢く優秀です。野生の魔獣のように人を襲ったりはしません」
丁寧に私の従魔たちが理性あるものであるかを説明してくれるクラヴィルくん。
本当、彼と一緒にいてよかった…。
私一人だったらうまく説明もできないから守衛さんとまともな会話すらできなかった気がする。
「そ、そうか…『魔物使い』は一般的に荷物持ちぐらいしかできる者はいなかったからな…偏見であった。申し訳ない」
「あ、いえ…分かってもらえればそれでいいので…」
素直に謝るおじさん。
そして私はあっさりと町に入ることができた。
石畳の綺麗な街並み、どこかヨーロッパの古い街のような、日本じゃ見かけない家が立ち並んだ町へと踏み入れた私はクラヴィルくんの案内で冒険者ギルドへ向かうことにした。
「ね、ね。冒険者ってどんなことするの?魔物討伐したり、未踏のダンジョン突破したりとか危険なことするん?」
「まあそういうこともやるけど、基本的に魔物討伐はソロはBランクからじゃないと依頼は受けられないし、ダンジョンに入るのは推奨Cランク。極稀にある出現するモンスターが全て弱いダンジョンや階層が少なくて比較的安全なダンジョンだったら冒険者ギルドとか都市学校で講習受ければEランクから潜ることはできるけど、Cランク以下の冒険者ができる仕事は街の清掃とか荷物の運送とか、いわゆる何でも屋みたいな雑用が一般的だよ。冒険者ギルドに登録したからって危険な所に自ら突っ込んでいく必要なんてないから。ギルドでカード作ってもらうのは自分の身分を証明するものを残しておくためってのが大きいかな」
冒険者ギルドに登録したからと言って必ずしも「危険を冒す者」になる必要はないらしい。
この国では初等学校(大体6歳から15歳までの子供が通う教育機関)を卒業したら上級学校に進学する子供以外はギルドに登録をするのが通例で、ギルドに登録をしたということは大人の仲間入りをしたという証なのだという。
「んーと、冒険者って言うのはいわゆる何でも屋で、冒険者ギルドは冒険者と依頼主を繋ぐ中継窓口。ギルドでカードを作ってもらうのは親の庇護を出て一人で生きていくっていう証みたいな感じって思えばいいの?」
クラヴィルくんの話を端折ってまとめればクラヴィルくんは頷く。
「まあそんな感じかな。ギルドカードを持っているってことは自分の責任は自分で取るって言うことだから」
15歳で大人の仲間入りか―…早くない?この世界ではこれが普通なの?15歳って中学2年あたりでしょ。その年で独り立ちできるってすごくない?
この世界の子供たちの逞しさを知ったよ。
「じゃあ、クラヴィルくんも初等学校を出て冒険者になったの?」
「ああ。そうだよ」
「今Cランクって言ってたけど、15歳から2年で3つも階級あげたの?凄い…」
「まあ…俺の場合は師匠について回ったらランク上げポイントが貯まって人よりも早くランクが上がったってだけだよ」
「それでも凄いと思うよ」
私がそう言えば、照れた様に笑うクラヴィルくん。
なまじ顔のいい少年、青年と言った方がいいのかな…同い年らしいんだけど私よりもずっど大人びた雰囲気の美青年のはにかんだ笑顔の破壊力はヤバかった。
もともと無かった語彙力がすっ飛んで行くぐらいヤバかった。
かっこいいルックスのくせに笑顔が可愛いとか反則じゃないかな。
心臓が変な音立てたよ。
「ご主人様?どーしたのー?」
「なんでもないよ」
目が潰れるかと思った。
私はクラヴィルくんの笑顔から顔を反らすために足元を歩いていたエルを捕まえそのフワフワの背中に顔を埋めて視界を遮断した。
クラヴィルくんの笑顔を思い出すたびに心臓が変な音を立てるので、私は極力クラヴィルくんと目を合わせないようにとエルとアルの太陽光をしっかりと浴びたフワフワの毛並みを堪能することに意識を持って行くことを心がけながら冒険者ギルドへと向かったのだった。




