伝説のスキル発見っ!?
あけましておめでとうございます。
カークスとか言う魔物と会った以外は何事もなく、というよりもカークス以外の魔物とは一切会わなかった。
魔物が跋扈する森とクラヴィルくんは言っていたけど、ゴブリン一匹会わなかった。
ステラの背に揺られ、長閑な森の中を歩いて数時間。
昼前ぐらいに湖を出発して数回休憩を挟みながら森を横断し、夕暮れ迫るころ、人工的に整備された道へと出た。
「この道をまっすぐ行けばフィールフォンネに着くよ」
「やっとかー…流石にお尻が痛い」
「やっとっていうけど、迷いの森の深部からここまでを一日で来れるって普通有り得ないからね…」
そう言ったクラヴィルくんは、大きく息を吐いて空を見上げた。
「今日の所はここまでにして野営の準備をした方がいいかも」
クラヴィルくんの言葉に私は首を傾げる。
「もうすぐ着くんじゃないの?」
「まだかかるかな…」
「うーん…サテラたちに走ってもらう?」
「止めた方がいいよ。守衛と冒険者総出でお出迎えされかねないから」
それは歓迎ではなく、お引取りを願うお出迎えですね。
クラヴィルくんの言葉に武装した多くの人が私たちに得物を向けるお出迎えが簡単に想像できた。
ハンターウルフを先頭に巨体を隠すことなく走らせるフェンリルと小さくなっているがドラゴンもいる。
目に見える脅威だけでも9頭。
さらに伏兵の如く隠された驚異的な攻撃力を持ったスライムまでいるのだ。
暗くなり始めた街にはさぞ脅威に見えることは間違えないだろう。
思わず従魔たちを見回し、彼らの人に与える影響を考え直した。
「まあ急いでいるわけでもないし、ここで野宿するのも今までと変わらないかな…」
湖の畔での野宿と街道脇での野宿。
どちらも場所が変わるだけで従魔たちが近くにいる私には恐れるものなど何もない気がした。
「みんな今日はここまでにしよう」
「わかりました」
「畏まりました」
「はーい」
私がみんなに声をかけると各々返事を返し歩みを緩める。
「ご主人様。あの魔物はどうしましょうか?」
ウルがラトルの掴んでいるカークスを視線で指しながら聞く。
本当どうしよう。
でっかいし邪魔なんだけど、その存在自体がかなり高価な素材として取引されるらしいからできれば持っていって買い取ってもらえればこれからの軍資金になるというクラヴィルくんの助言に従いサテラほどの大きさになったラトルが持ってきてくれたのはいいけど邪魔でしょうがない。
それに、死体と一緒に寝る趣味はないしね。
クラヴィルくんがかけてくれた保存魔法という生活魔法とか言う便利な魔法で腐る心配はないが、頭と心臓に穴の開いた魔物と寝れるほど私の神経は図太くない。
「解体して素材だけ持って行ければ楽なんだけどね…」
「俺もスズネも解体するためのナイフ一本持っていないからな……『マジックバッグ』みたいな魔道具か『アイテムボックス』のような伝説級のスキルがあれば別だけど、ない物ねだりしてもしょうがないからな…」
クラヴィルくんの言葉に私は苦笑を返す。
私はこの世界に転移して来た時に持っていたのは『女神の卵』だけで、ほぼ手ぶらで異世界転移したのでそう言った刃物類は持ち合わせていないし、クラヴィルくんはオーガに襲われた際に刃物など冒険に必要なものが入ったバッグを紛失してしまったし、得物であった剣もアルたちが回収をしなかったため森のどこかに消えてしまったのだ。
「てか、『マジックバッグ』と『アイテムボックス』ってなんですか?」
ファンタジー物でなじみのある言葉に私は目を輝かせる。
「『マジックバッグ』は見た目以上に物が入る袋で、失われた古代魔法の一つ、空間魔法が施された魔道具で、『アイテムボックス』は伝説の勇者が持ってた空間収納スキルだよ」
現存しない古代魔法が施された『マジックバッグ』は、古代遺跡と呼ばれるダンジョンから稀に出土するらしいが、小さいものでも相当の値が付く、高価な魔道具らしい。
そして伝説の勇者が持っていたという『アイテムボックス』。
内蔵量は無限大という破格の代物らしい。
「なるほどー空間収納かー。便利そうだね…ん?収納?」
勇者が持っていたスキルは『空間収納』。
私が持っているスキルは『収納』。
はて?この違いはなんだ?(空間がついているとかいないとかじゃなくてね)
似たような名前のスキルということは同じまたは類似する効果が期待できるのではないだろうか。
「ステータスオープン」
―――――――――――――――――――――――――—
名前:スズネ・ハヤミ(17)
称号:異邦人 初級魔物使い
レベル:1
HP:45/50
MP:218(+1100)
攻撃力:3
防御力:3
俊敏性:5
魔法属性:無
スキル:『鑑定』『収納』『魔物使い』
契約獣魔:黒竜(1)
火竜(1)
風竜(1)
フェンリル(2)
黒曜狼(4)
スライム(2)
――――――――――――――――――――――――――—
なんかMPの後ろにおかしなものがついているし、アルたちの名前が変わっているし、なんか新しい表示欄が出来上がってるけどとりあえず今は無視しよう。
それよりも『収納』がどんなスキルかを見ることの方が大切だ。
私は『鑑定』を発動させ、自分のステータスのスキル欄の『収納』を凝視する。
―――――――――――――――――――――――—――—―—
『収納』
古代魔法である空間魔法を物に付与することができるスキル。
スキル所持者が指定した入れ物に異空間を付与することができる。
なお、付与できる空間の大きさはスキル所持者のレベルとMPにより変化する。
付与した異空間を使うことができるのはスキル所持者と所持者が許可した者のみ。
――――――――――――――――――――――――――――
「収納」じゃなくて「クローゼット」って読むのかー。
じゃなくて、伝説の古代魔法を付与することができるスキル!?
「うひょっ!?」
「どうした?」
「あ、えーっと…なんでもない…」
思わずおかしな悲鳴を上げるとクラヴィルくんに驚かれた。
私はごまかすように笑って、再びステータスに目を落とした。
「…」
この『収納』スキル、「付与する」ってことはごくありふれた入れ物を『マジックバッグ』にすることができるということか。
スキルが異空間として物を入れるのでなく、別の物を魔道具に変えることができるということか。
ポケットにこの『収納』を付与すれば某猫型ロボットのポケットのような異次元ポケットが完成するということかな。
…ちょっと気になる。
あの何でもはいるポケット、子供のころ欲しいと思ったんだよね。
あのポケットさえあればランドセルも手提げバックも持たなくていい。
旅行に行くときも荷物はポケットだけでお土産なんかもたくさん持って帰れる。
そんな怠惰的な考えから小学生の頃は誕生日とかクリスマスとかにお願いしたっけ。まあ、あるはずもなくお人形が来たけど。
まさかこの年になって子供の頃の夢見たプレゼントを作ることができるようになろうとは。
私は制服を見下ろし、どこかに付与してみようと思い、上着の外ポケットに手を当てた。
「『収納』付与」
……
特に変化は起こらなかった。
ポケットに変化はない。
白い半月状のポケットにはならなかった。
「…おっ!?」
ポケットに手を入れて見たらズボッと肘近くまで入った。
もともとは手首まで入るか入らないか程度の浅いポケットだったはずなのに。
見た目の変化はなかったけど空間はちゃんと変化していたようだ。
手を動かしてみるが壁のような物はない。
かなり広いのだろうか。
ちょっと気になり上着を脱いでカークスの傍に寄った。
「…」
横倒しになっていても大きい。
正直この巨体が小さなポケットに入るとは思わないけど、気になるので試してみる。
カークスの腕を抱える様にして持ち上げる。
重い。
すっごく重い。
腕一本なのにちょっと持ち上げるので精いっぱい。
流石ドラゴン、よく持ったなこれ。
小さくなっていてもドラゴン、彼らの身体能力の高さに慄きつつ、やっとの思いでカークスの腕を制服の上着の上に置いた。
カークスの指が『収納』を付与したポケットの触れた瞬間、掃除機に吸い込まれる埃のようにあっさりとカークスの巨体がポケットに吸い込まれて消えた。
「は?」
「え?えぇぇぇっ!?カークスが消えた!?」
野営の準備のため薪を集めていたクラヴィルくんが目を見張って驚いた。
「敵襲ですかご主人様!?」
「なんですって!?」
「気配がなかったぞ!」
傍にいたサテラやルトルがクラヴィルくんの声に振り返り、一瞬で臨戦体制を取って辺りを警戒する。
「ご主人様お怪我はございませんか?」
「…だいじょーぶ。っていうか、敵襲とかじゃないからそんな怖い顔しないで」
「はい?」
「私のスキル試してみただけだから」
「「え?」」
怖い顔から一転、キョトンとした顔で私を見るサテラとルトル。
あまりの変化に思わず笑ってしまった。
☆
「えーっとですね、どうやら私の持つ『収納』というスキルは古代魔法の一つ、空間魔法を物に付与することができるスキルみたいで、私が指定した入れ物に異空間をくっつけることができるみたいなの」
「つまり、スズネは『マジックバッグ』を作ることができるってこと?」
「まあ、そういう事かなー…袋以外でも物を入れることができるものであれば何でもいいみたいだから、ポケットでも瓶でも大丈夫な気がする」
実際ポケットに付与できたしね。
唖然とするクラヴィルくんに説明しつつ、私はアル達が持ってきた魔物を次々とポケットに入れて実演して見せる。
「意外とよく入るなー…」
「ご主人様。これで10体目です」
「はーい」
青い表皮の3メートルほどある魔物、『鑑定』でブルーオーガって出てるそれをポケットに近付けるとシュッとポケットに吸い込まれる。
「おー…凄い。大きい魔物が10体も入った…」
「まだ入りますか?」
「どうだろ…あ、行けそう」
手を突っ込んで確認してみる。
うん。まだ容量に空きがあるっぽい。
触って分かるという訳じゃないけど、手を入れてみると何となく付与した『収納』の中の空間容量を把握することができる。
「次を入れてみますか?」
「うーん…あ、生きた生物って入れることできるかな?」
ふと、そんな考えが浮かんだ。
仮にポケットの中に生物を入れることができるなら、この目立ってしょうがない従魔たちを一時的に隠すことができるのではないだろうか?
そんな事をひらめく。
「おもしろそー!レムはいってみたい!!」
「ちょっ!レム待っ!?」
私の制止を聞かずレムはポケットに入った。
「レムぅぅぅっ!?」
「きゃーっ!たのしー!!」
思わず上着を逆さまにして振る。
バサバサと振れば、ポケットから入れた魔物が飛び出る。
それと一緒にポケットから強制的に出されたレムがポーンと飛び出し楽しそうな悲鳴を上げて跳ねる。
「レム!危ないから実験前に入っちゃダメ!」
「ごめんなさい…だって楽しそうだったから…」
「も―…ちゃんと試してみて大丈夫だったら入ってもらうつもりだったから。いきなり入ってレムにもしものことがあったら困るからちゃんと試してからね」
「はーい!」
好奇心旺盛なレムの危ない行動を咎めれば、レムは反省したのかしょぼんと明らかに静かになる。
叱られて親の顔色を窺うようにしおらしくなる子供のようなレムに苦笑し、その体を撫でて私がレムを心配したことを伝えれば、レムはまた嬉しそうに跳ねる。
「レム、ゴブリンか何か小型でそんなに危険じゃない魔物捕まえてこれる?」
「どうして?」
「ポケットに入れて平気かどうか確かめてみたいから」
「さっきはいったけど、レムへーきだったよ?」
「中で息できたの?」
「うん!ふわふわしてた!」
残念なことにレムの拙い説明では中の様子がわからなかった。
「スズネ。試すんだったらゴブリンじゃなくてラットの方がいいんじゃないか?」
「ラット?ネズミ?」
クラヴィルくんが提案した魔獣は、体長20センチほどのネズミの魔物で、攻撃が噛みつくと引っ掻くぐらいしかない、草食系の魔物らしい。
繁殖力が高くどこにでもいる魔物らしいのでエルとレムに見つけに行ってもらうことにした。
「ご主人さまいたー!」
「ほふひんはま!」
数分で3匹のネズミを捕って来たレムとエル。
あまりの速さに驚きつつ実験をしてみることにする。
「じゃあ、まずは…」
レムから受け取ったラットを『収納』が付与されたポケットに近付ける。
「キッキキィィ!」
嫌がるラットの前足をポケットに近付けるが全く入っていく気配がない。
「入らないっぽいね…」
「んー…魔物だから入れたわけじゃないのか…。次は…ラットに『マジックポケット』を『貸します』」
そうするとラットはポケットに前足だけは入ることができたが、身体を中に入ることはできなかった。
………
…
野営の準備をラトルたちに任せ、私とクラヴィルくんは『収納』の実験を繰り返した。
そうして分かったことは、私が付与して作った『マジックバッグ』は、スキル所有者である私は当然使えるが、私以外の人間は私が使用を許可しないと使うことができないということと、どうやら私の従魔は私の一部という扱いになるらしく彼らは私の許可を取らなくても『収納』の異空間を使うことができる。
そして、生き物は入れるかというところは、「私の従魔であれば」可能であることがわかった。
私自身も付与した異空間への出入りはできたので、エルとレムに頼んで中に入ってもらったのだ。ただ、私と従魔以外、この場にいたクラヴィルくんだけだけど、クラヴィルくんは私が『収納』を付与した『マジックポケット』の使用を許可しても中に物の出し入れはできても自身が入ることはできなかった。
異空間内は何もない真っ白い箱のような、暗い底なし沼のような不思議な所だった。
また、『収納』の異空間内の時間変化は私が付与するときに決められるらしく、異空間内を時間停止にすることもできるみたいで、時間停止にした異空間内はまるで海の中を漂っているような無重力空間に放り出されたようなふわふわとした空間だった。
あと、付与した異空間に外からの攻撃を受けることがないことも分かったのだった。
「スズネのスキルは凄いね」
「私も驚いた」
どう考えてもこれスキルチートじゃない?
危険になったらポケットの中に逃げ込めばいいとか、要塞持ち歩いているような物じゃないか。
規格外の攻撃力のある従魔に鉄壁の要塞スキル。
攻めも守も完璧。
もうこの世界に敵なしと言ってもおかしくない気がする。
「ヴィルくんのポケットはどう?ちゃんとできてる?」
「ああ。でもよかったのか?」
「なにが?」
私は実験の一環でクラヴィルくんのズボンのポケットにもスキルを付与してみたのだった。
私以外の持ち物に付与することができるのかと思ってやってみたのだが、あっさりとできてしまったのだ。
「『マジックバック』…この場合は『マジックポケット』か。これ相当高価なスキルだよ。『マジックバック』を量産することができるんだからさ…」
「そうだね。人に知られると碌なことにならなそうだからクラヴィルくん内緒にしてね」
「当たり前だろ。俺も町中でズボン剥ぎ取られたくないし…」
「あ、ははは…」
なんかごめん。
そこまでの配慮は考えていなかった。
何かを想像して苦い顔になったクラヴィルくんに心の中で謝る。
「ご主人様。クラヴィル殿。野営の準備が整いました」
「はーい。今行くね」
「凄いな…」
ラトルに声をかけられ私とクラヴィルくんが実験を止めて戻ってみれば、テントはないけど、焚火とその傍に夕食にできそうな魚、木の実が集められていた。
本当うちの従魔は優秀過ぎる。
「……食料調達に焚火の準備まで…従魔ってここまでできるのか…凄いな」
「私がポンコツだからかな。うちの従魔がこんなに優秀なのは」
従魔の凄さに感心しつつ、クラヴィルくんは手慣れた様子で用意された魚を小枝に刺し、焚火の傍に並べる。
私はできる事もなくクラヴィルくんの隣で従魔たちを撫でて労うことにした。




