気付けば異世界転移、持ち物は12個のけ・い・ら・ん
チチチ……
囁くような小鳥の鳴く声。
若草の爽やかな匂い。
ぽかぽかの日差しをちょうどいい温度に下げてくれる木陰。
「…」
まさに絶好の昼寝日和。
最高のローケーション。
ここが実家であるならば。
「えっと…ここ、どこ?」
見知らぬ場所で寝ていたことに驚き、辺りを見回すが、周りにあるのは木と草だけ。人っ子一人いない森の中のようだ。
なぜ、こんなところで寝ているのだっけ?
自分がなぜこんな森の中にいるのか思い出そうとしても何も覚えていない。
寝る前このことを思い出そうとしても普通に家に帰ってきて、夕飯まで時間があったからベッドにダイブして寝たところまでしか記憶がない。
「これは、夢…じゃない?」
頬を引っ張ったら普通に痛かった。
痛覚のある夢?
自分の手を見る。
普通に自分の手だ。昨日ノートの端で切った怪我もある。
服装は高校の制服。着替えないでベッドに行ったからかな。
そしてなぜか卵を持っている。
「たまご?」
12個の卵。
普通にスーパーとかでよく見る鶏卵だ。白い方の。
赤い殻の高い卵じゃなくて安い白い方の鶏卵。
タイムセールとかでワンパック200円ぐらいで買える奴だ。
それが12個。つまりワンパック分。
何故に?
竹籠にきれいに並べられた卵。
これは何の卵?普通に食用の鶏卵?
「……『女神の卵』?」
一つ手に取ってみると、まるでゲームの画面に出る解説のように、卵の説明が現れる。
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『女神の卵』
究極のレアアイテム。
卵1個につき1つ、欲しいものが手に入る。
スキルでも聖剣でもどんなものでも卵から孵すことができるが、孵すことができるのは卵1個につき1回のみ。
注意:女神は気まぐれ。手に入れたらすぐに願いを唱えるのが吉。
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「究極の、レア、アイテム…」
これはまさか、巷で人気の小説でおなじみ、異世界転移ではないか!!
「マジかー…」
寝ているうちに異世界転移しちゃった感じかな?
てか、究極のレアアイテム12個もあるよ。レアじゃなくない?
これは、あれか?異世界転移でおなじみチートスキルという奴か?
向こうではごく普通の少年少女、お兄さんお姉さんが異世界転移して転移特典でチートなスキルいっぱい貰って異世界で勇者になったり、魔王やってみたりして無双しちゃうような感じなのかな?
そのために12個もあるのかな??
でも私、勇者にも魔王にも興味ないんだけどな…。
強いて言うなら魔獣と触れ合ってみたい。
よくある『魔物使い』的な感じで、かっこいいドラゴンに乗ってみたり、モフモフのフェンリルとか犬系の魔物なんかも可愛いイメージあるから触れ合ってみたいしなあ…あと、魔物使いって言ったらスライムだよねえ。万能魔物って感じでよく見るし、触った感じがゼリーっていう表現を見るたびに触ってみたいと思っていたのだ。
―――――—スキル『魔物使い』を孵します―――――
「え?」
無機質な声が頭の中に響いた瞬間、手に持っていた鶏卵、『女神の卵』が眩い光を放ちだした。
卵は一際強く光ると、溶ける様に私の手に吸い込まれて消えた。
――――――魔獣を孵します。
ドラゴン、フェンリル、ハンターウルフ、スライムを孵します――――—
卵が1個消えた瞬間、再び声が響き、今度は竹籠に入っていた全ての卵が一斉に光り出した。
「うわっ!?」
あまりの輝きに目を瞑る。
目を閉じていても目がチカチカするほどの光が収まってから、ゆっくりと目を開け、目の前の光景に唖然とした。
「「「「「「「「「今日からよろしくお願いします。ご主人様」」」」」」」」」」」
私の前で頭を垂れる9頭と青いバレーボール(?)が2つ。
大きい順に、黒、赤、白のドラゴン3頭、白銀の毛皮に額の模様が赤と青の巨大な狼(多分、これがフェンリル)が2頭、柴犬のような中型犬が4頭(こっちがハンターウルフだと思う)と、青いボール?ゼリーみたいにプルプルしたのが2つ?2体?
合計11体?頭?数え方がわからないけど、11匹の魔物が私の前にいた。