あ”あ”あぁぁ嗚呼嗚呼あ!!!! キチガイゲェェァァーーージマァア⤴⤴アAAAっxXXXXゥ⤵ゥ⤵ゥ……ギェェヤァァァァアギュラヤァァァ11!!!! ウッホ⤴ッホーイ⤴ パンパカッパーーーンwwwww
「あんった、本当に支えない屑ねぇ」
「えっ、し、しかし……こちらの書類はしっかりとチェックもしまして……」
「様式間違ってる。最近入った楠さんはちゃんとできるのに、なんであんたはできないの?」
「そ、それは……そのぉ……」
30も半ばに入ろうかという、バーコードハゲの中年男性がだらだらと汗をかきながら口の中でモゴモゴと釈明の声を漏らした。まるで蝿の羽音のように小さく不愉快な声だ。
「何か言いたいならはっきり喋りなさいよ。このハゲ」
先程から中年男性を罵倒している女子高生にも見える少女は、彼の上司である一橋凛である。「はぁ」と大きくため息をつくと腰にまで伸ばした長髪が艷やかに波打った。よく手入れされたその髪は、それを維持できるだけの財力と余裕がある事を示している。
「うっ、へ、へへっ、す、すいません」
一回り以上は年齢が下の少女に罵倒されていると言うのに。バーコードハゲはニヤけながら謝罪した。その憤るでもなくヘラヘラとした態度が、少女に嫌悪感を覚えさせた。
「キモッ……」
思わず口から本音が出るのも致し方なしである。
ーーーーーーーーーーー
だが! 上っ面ではヘラヘラしていてもバーコードハゲの内心もそうであるわけではない!!!
「あ”あ”あぁぁ嗚呼嗚呼あ!!!! キチガイゲェェァァーーージマァアアAAAっxXXXX!!!! ギェェヤァァァァアギュラヤァァァ11!!!!」
ど田舎にある自宅へ帰るなり、バーコードハゲが吠えた!!!!
「ヘイ! 仕事が終わり! お家へ入り! キチガーイゲェージ ホゥッ! かいほぉぁぁぁああああ!!!!!」
叫びながらスーツを抜きすて、中に来ていたワイシャツもタオルのようにぶん回し、腰だけを器用に動かしズボンをずるずると脱いでいくその姿、まさに仕事終わりのサラリーマン! それは自由を体現していた!
「シャオオラァァーーッイッ!」
快声と共に足に引っかかったズボンをシュート! 部屋の隅っこに雑に置かれたダンボール箱へとイン! 土日にまとめて洗うため、その中にはバーコードハゲの加齢臭が凝縮された衣類が詰まっている!
「ゴゥフwwwウッホwwwウホホーイwwww」
ゴリラのものまねをしながら、ベッドにぶん投げたままの甲冑へバク転しながら近寄る、まずは黒い仮面! そして兜! するりするりと慣れた手付きで鎧を着用していく!
「きょーうはなーににしっようかなー! ええーっとぉぉぉ……、お前に……決めたぜ?」
何の意味もないキメ顔をしながらバーコードハゲが手にとったのは、新巻鮭だ。塩漬けにされた新巻鮭だ。嗚呼! 哀れ! このシャケ君は海から川へと帰る途中に憎きホモサピの手にかかり網かなんかで巻き上げられ内蔵をドサリと書き出し代わりに真っ白くてしょっぱいお塩を詰められた!
挙げ句のはてにはバーコードハゲに衝動買いされた挙げ句、深夜の謎徘徊に突き合わされることとなったのだ!
「討ち入りじゃああああああ!!!」
ハゲが吠えた! ど田舎ゆえ周りには民家もない! 近所トラブルにはならぬとばかりに吠えた! そのまま裏山にキエアアァァァ!! と叫びながら駆け込む! 甲冑を着込んでいるというのに、その動きは猿のように軽快だ!
人気のない裏山! だがそこは幕末辺りになんやかんやあって幕府軍にコロコロされちゃった維新の志士達の怨霊がひしめき合っていた! その中には外国人共から得た蛮学と陰陽道と神道の技術が合わさり近づくものを皆撫で切る鎧武者までもが!
「クルッポークルッポーッポッポーウ」
その鎧武者が この瞬間! 鳩のものまねをしながら彷徨くバーコードと遭遇した!
「ッポーウ?」
鎧武者がバーコードハゲに斬りかかった! 煌めく剣閃!
特殊な合金と術がかけ合わさったその鞘は、鎧武者の刀をバネ仕掛けの如く加速させる! 鋭い刃先がバーコードハゲの新巻鮭とぶつかり合う! 魚肉が散った! ハゲが食う! ついでにその両手で鎧武者の兜を抱え込み、腕力と脚力を使って鎧武者の顔面に己の膝をめり込ませた!
機械仕掛けの鎧武者の顔面を構成するパーツが砕け散り、月明かりに反射した! それはまるで日中のバーコードハゲの頭皮の如く明るい!
「ウェーイwwwwウェーイイwwwwウェウェーーーイwwww」
倒れた鎧武者をハゲが踏む! 具足で踏む! 鋼鉄の靴でガキンガキンと鳴らしながら踏み荒らす!
「キャオラッ! キュッキョー! キエッ!」
奇声を上げながら鎧の上でタップダンスやコサックダンス! そして宴会芸にと覚えさせられた子供向けアニメのダンスと踊り狂う! 数分後、そこに残ったのはただの鉄の残骸であった!
「新巻鮭うめーーーーーーーーーーー!!」
ハゲの晩ごはんもようやく始まった! 塩が聞いた鮭の胴体を骨ごとばりばり食べている!
「うーーーーんまーーーー…………」
「なにやってんだろ俺、疲れた」
明日も仕事だというのに、何故わざわざ疲れるような真似をしたのだろうか。彼は自分自身がわからなかった。彼は時折、自分が何でもない宙に浮いている蝿なのではないかと思うことがある。
この地球という名の世界で、何の存在意義も持たない、ただ醜いだけの存在。
「帰ろう……早く寝ないと……」
明日も仕事だ。自分がいないと困るような仕事でもないが、それでも日々の糧を得るためには今の職場に縋り付かなければならないし、契約を守る為にも辞めるわけにもいかない。
だが、そうやって縋り付いた所で何があるのだろうか? 彼には家族がいない。ろくな趣味もない。やりたい事もない。昔は希望を持っていた気がするが、過去に起こした不祥事のせいで最早出世も望めない。望む気もない。
足下で、一匹のカメムシが仰向けになって死んでいた。毎日辛い思いをしながら職場へ行って、迷惑をかけて……俺が生きてる理由ってなんだ? さっさと死んだほうが楽なんじゃないか?
時折、隕石でも降ってきて自分だけが死なないかと思うことがある。誰も不幸にならず、自分も恐怖を感じる事なく死ねるいい方法だ。
木の上から蜘蛛型の絡繰兵器が飛び降りてきた! その足にはカエシがついた鋭い鉤爪がついている!
その鋭い鉤爪がついた足をハゲがキャッチ! アンド! ぶん回し! リリース! 遠心力とハゲの腕力による加速度がそこらの木にぶつかることで荷重へとクラスチェンッッ! 蜘蛛型の絡繰兵器もガラクタへと劇的ビフォーアフターだ!
「う、うう……辛い……なんで、なんで俺はこんな惨めな人間になっちまったんだ……」
蜘蛛をぶち当てられた木が、メキメキと半ばから折れ、倒れる。だが、そうやって倒れた木は腐り、肥料となり、新しい木々を育てるのだろう。
「だっていうのに、俺は……死んでも役にすらたたねぇ……」
この日もバーコードハゲは何の生産性もない事に自分の人生を費やした。人生って悲しい。だが、悲しみを知るからこそ、人は人に優しくできるのである。
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「このっ、ハゲェェェーーーーーー!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!! すいませぇぇぇん!!!」
逆もまた然りである。悲しみを背負うことが少なかった少女、一橋凛はバーコードハゲを激しく怒鳴りつけた。
理由は単純、これまたハゲがミスをしたのである。今回は書類のチェック漏れである。それも複数箇所かつ凛がこの職場に来てからハゲに対して10回は指摘した事があるミスであった。
「ほんっともう! あんた何なの!? 人間? 本当に人間? そのバーコードハゲの中身にはおがくずでも詰まってんの!?」
少女は生まれてこの方、上流階級らしい人生を歩んできた。もちろん、その近くにいる人間も彼女と同じく上流階級の人間である。
当然、教育もしっかり行き届いており、人としての能力が一般人と比べて優秀な人間が多かった。
それゆえ、これほど無能な人間なぞ社会に出てから初めて見たのである。
「す、すぐに修正しますぅぅぅぅ!」
「当然でしょうが! こんのっ、ハゲーーー!! 嗚呼もう、私は現場に行くから直しときなさいよ!」
「はっ、はいぃぃぃ」
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一橋凛が向かった先は、一見すると普通の民家のように見えた。しかし、普通の家とは違う点が一つ。
「あっ、一橋少尉、お疲れ様です!」
軍服を来た若い男が凛に敬礼した。肩には陸士長である事を示す階級章がついている。
「はいはい、お疲れ様。で、状況を簡潔にお願い」
凛が返礼をおざなりに返すと、即座に本題に入った。若者らしく、形式張ったことが嫌いなのである。
「その……見ての通りです。こいつ、どうも生きてるみたいで」
その言葉に反応したかのように、目の前の家が脈打った。白い壁からぎょろりと目玉が出ると、二人を見る。
「こんな目立つの、ずっとここにあったわけでもないでしょうに……なんで今さら」
「それが、ここの家主がどこからか禁書を手に入れたようでして、ニコ生で生配信しながら読んでたら、急に家が動き始めたそうです」
「ほんっと、無能なクズに限って自己顕示欲が強いわよね。で、その家主とやらは?」
「恐らくまだ中にいるかと……実は、まだ回線が生きているようでして、まだ中から配信しているんですよね」
士長がスマートフォンで元気に実況をする放送主を凛に見せた。凛のそれを見る目は冷たい。仕事でもなければ、一生知ることがなかったであろう下流の人間である。
「さっさと終わらせるわよ」
凛が腰にあるベルトに吊り下げていた64式術刀を抜いた。プラスチックのような質感のその刀は、安っぽい質感でありながら鉄よりも軽く硬い。そのうえ内部に編まれた術式は多様な用途に用いる事が可能であり、それが極限状態における大日本帝国兵士のしぶとさを支えていた。
凛が無造作に生きた家へと歩く。生きた家が、その体を大きく震わせスライムのように凛に覆いかぶさった!
「鬱陶しい」
術剣が激しく燃え上がった。その余りの熱量に離れて見ていただけの陸士長が思わず仰け反る。遠くにいた人物でさえ仰け反るほどであるから、直に燃やされた化物ハウスはたまったものではない。
豪火に焼かれ化物らしく、異常なまでの奇声を放った。その脳を揺さぶられるかのような奇声は常人には耐え難い。先程まで熱に仰け反っていた陸士長、その奇声を聞いただけで吐いた。当然、化物の中にいるニコ生配信中の生主も吐いた。ついでにニコ生を見ていた視聴者も吐いた。
だが、凛はというと――
「煩い」
と、だけ言って何の変調もきたしていない。
凛が今度は腰の弾帯にぶら下げた瓢箪の蓋を開けた。するとなんということだろうか、中から身の丈が三メートルはあろうかという鬼が現れた。
その鬼は焼け焦げた化物ハウスの中に腕を突き刺すと、灰を撒き散らしながらも中からニコ生主を引きずり出した。ニコ生主の手には人革で作られたおどろおどろしい書物が掴まれている。
化物ハウスが己の本体を取り替えさんと牙を生やした屋根で食いかかる、が、それよりも凛が黒刀を振るう方が早い。
「はい、おしまい」
そう言って、すたすたと車へと向かう凛の後ろでは、ボロボロに崩れ落ちた家屋と切り捨てられた本。それにニコ生主が倒れているだけである。鬼もいつのまにやらひゅるりと凛の腰元にある瓢箪へと戻っている。
車で待機していた楠が何時も通りの鮮やかさに感嘆の息を漏らした。彼女――楠は大学を出てから任官した幹部候補生であるが、あくまでも一般人である。
「やっぱり、すごいなぁ……凛ちゃん。とてもじゃないけど、マネできないや」
そう呟くのも無理はなかった。
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「キュッキョロッキョッキョロキュキョロケキョーーーン!!!!」
満月の夜! 月明かりの下でバーコードハゲが吠えた! その眼前に浮かぶのは全身が赤い泡のようなもので包まれた化物である!
「ギエェェェアアアァァ!!!?」
その赤いゴーヤめいた化物が吠えた! 大の大人二人を丸呑みできそうな恐ろしい口である! だが、目の前のハゲも負けてはいない! 股間でそびえ立つ白鳥型のペニスケースを大きく揺らしながら威嚇! 大人の腕ほどもあるその白鳥は、ハゲが深夜のテンションで思わず買ってしまったものである!
「ギェェェ!!!」
赤いゴーヤがその大きな体躯のどこから出したのか、刃がついた触手を複数本駆使し、斬りかかった! 刃がバーコードハゲの股間に迫る! だが! そのつぶらな瞳の! スワンが化物に負けるはずなぞ、ない!
スワンヘッドが触手を弾く! いなす! 叩き落とす! かぶりつく! 月明かりに照らされた白いスワンヘッド! その純白に煌めく姿は美しいの一言である!
だが、白鳥は水面下で醜くもがくようにバタ足しているのだ。スワンヘッドを操るバーコードハゲの人外じみたその動きは月明かりしかない薄暗い視界の中であっても恐ろしく醜く、キモい!
全ての触手を弾かれ、赤いゴーヤが怯んだ! そこを見逃さず、バーコードハゲがバレエダンサーのように跳ねた! スワンヘッドが強かにゴーヤを打ち付ける! 布、綿、針金で出来たそれはバーコードハゲが無駄に使っている硬化術のせいで硬い! 俺の股間はギンギンだぜと言わんばかりにバチンバチンとゴーヤを叩く!
赤いゴーヤが噛み付こうとしたり、触手で斬りつけようとするが白鳥のように舞うバーコードハゲの敵ではない! 数分もすると、赤いゴーヤは粉々に砕かれ、後には謎の赤い結晶だけが残った。
「嗚呼……やはり、美しさは……罪」
バーコードハゲが謎の決めポーズを取った。鍛え上げられた体幹があるからこそ取れるそのポーズは気持ち悪いの一言である。
とてもではないが真似したいものではない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こんっのぉぉぉ、クッソハゲェェェ!!!」
ハゲのハゲ頭に凛が飲んでいたアツアツのお茶がぶちまけられる! 割れる湯呑! 洗い流されるハゲの頭の油! 響くハゲの絶叫! だが、ハゲは叫びつつも(さっきこのお茶を飲んでたし、これは実質関節キスでは?)と常に前向きな思考を忘れずにいた! 変態である。
「ひぃぃぃぃぃぃ!! すいませぇぇぇぇん!!!」
「バカなの!? 市民を殺すの!? 空蚯蚓の目撃情報が電話で来てたのになんですぐ連絡せず定時目前になってから言うのよ!? 楠さん! 今すぐ行くわよ!」
「あ、あの……わ、私も何かしたほうが良いでしょうか!?」
「あ”あぁ!? あんたがいても何にもないから帰っときなさいよ! いても邪魔よ邪魔ぁ! 残業させるだけ経費の無駄よ!」
「は、はいぃ!」
慌ただしく凛と楠が飛び出した。それに続いて、他の者も各々関係部署に連絡をし始める。周りが忙しそうにする中、無能なバーコードハゲは一人だけ手伝える事もなく、所在なさげにカバンを掴み、タイムカードを押した。
”あれで給料もらえてるんだから、楽よね”そんな声がバーコードハゲの耳に、届いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
繁華街の一角にて、物々しい武装をした男達が一つのビルを取り囲んでいた。ケブラー製のテッパチ(ヘルメットの意)に防刃ベストを着込み、三点スリングをつけた銃を手にビルの周りを抑えている。
無論、一般人達は全て避難させられ、その姿はない。
「遺失物処理科はのんきな事で。もう包囲は終わって突撃するだけだぜ、凛ちゃんよぉ」
会うなり皮肉の言葉を投げかけたのは、普通科連隊第第三中隊所属、林三佐である。叩き上げである彼の顔には物々しい切り傷がいくつも残されていた。
「ぐっ……わ、悪かったわよ。で、空蚯蚓はどうなの? 蚯蚓玉はある感じよね、これ」
「偵察機を入れたところ、このビルの地下で空蚯蚓が3匹見つかった。間違いなくあるだろうなぁ、こりゃ」
凛が思わず大きなため息をついた。これも致し方なき事であった。――空蚯蚓、宙を縦横無尽に飛び回り、鉤爪がついた鋭い触腕を振り回す化物。
一匹だけならばそれほど問題ではないのだが、こいつの厄介なところは、その数である。ところどころに細長い穴があいた蜂の巣のようなコロニーから延々と生み出されるのである。
「召喚した奴は?」
「そっちは情報科の仕事だ」
あっ、そうと言うと凛が64式術刀を抜き放ち、ずかずかとビルの中へと入っていく。それを見た若い隊員が困惑した様子で隣の先輩隊員に「えっ、あの子良いんすか?」と問いただす。
「嗚呼、お前は見るの初めてか。お前も話しに聞いたことあんだろ。あの子は由緒正しき一橋家の、それも防大を飛び級で卒業した化物中の化物だよ。多分、うちの中隊全員よりも強いんじゃねぇかなぁ……」
その言葉通りを裏付けるかのごとく、凛がビルの中にいる空蚯蚓を見つけると、襲いかかる触手を全て切り捨てた後、すれ違いざまに空蚯蚓を一刀両断に切り捨てる。
「まず、一匹目」
その声に反応したのか、ビルに隠れていた他の空蚯蚓も凛へと殺到した! だが、凛が術符を投げ、刀を煌めかせ、腰の瓢箪にいる鬼に指示するたびにそれらは焼け、裂け、砕かれる!
それを見た空蚯蚓達が思わずたじろいだ。だが、それを掻き分けるように一匹の空蚯蚓が現れる。
他の空蚯蚓達とは違い、その姿はメタリックボディであり、液体金属を思わせる艶やかさがある。空蚯蚓のコロニーを守る、兵隊空蚯蚓だ。
「ギエェアアアア!!」
兵隊空蚯蚓の素早い触腕が凛へと襲いかかる! 凛が術剣で弾くが、別の触腕も同時に襲いかかり、後ろへと跳ね、避けざるを得ない。
「ギャッギャッギャ!」
優勢である事を確信したのか、兵隊空蚯蚓が高笑いをあげた。次の瞬間、凛の術剣から放たれた豪炎が兵隊空蚯蚓を包み込んだ。
「ギエェエェアアアアアアアアアア!?!?!!?」
断末魔がビル中に響き渡った! 十数秒後、そこには炭化した兵隊空蚯蚓の姿があった。まるで焼け焦げたとうもろこしのようである。
ぐらりと倒れた兵隊空蚯蚓の遺体が、バキリと砕け散った。
一瞬の静寂の後、空蚯蚓達が一斉に逃げ出した! ビルの外へと逃れようと天井を砕き、凛とすれ違って上への階段へと、下水管から外へと、各々バラバラに逃げ去ろうとする!
だが、その空蚯蚓達に銃弾が降り注いだ! ビルの外で監視していた普通科の隊員である! 一匹も逃さぬと、空から! 陸から! 下水から! その全てを封鎖し空蚯蚓を虐殺していく!
「ギャェェェヤァァァァ!?!?」
辺りに空蚯蚓の悲鳴が響き、その振動で植木の葉が揺れ、そこに乗っかったアブラムシがてんとう虫にパクリと食べられた。
嗚呼! 悲しき弱肉強食! 弱気化物は凛という化物に駆逐されてしまったのである!
だが、生命の輝きとは侮れぬ!
「……? うえっ!? なにこの揺れ!」
強い揺れを感じた凛が地震と思い、ビルの中から飛び跳ねるように飛び出した! だが、外に出た瞬間、その揺れは収まる。 何故? と思いビルを見上げ、直ぐ様その理由がわかった。
ビルに、大きな目玉がついている。ついでに、羽もついて宙に浮かぼうとしているではないか!
「んなっ!?」
「う、撃て、撃てーーーー!!!」
どこからともなく絶叫するかのような射撃指示が飛んだ! だが、各々装備しているのは空蚯蚓を駆除するためのアサルトライフルだ。その数ミリ程度の弾頭で化物と化したビルを止めるには至らない!
凛が術剣に豪炎を纏わせ斬り捨てようにも、混戦であり下手をすると味方を巻き添えにしかねない、コントロールを重視し威力を抑えた豪炎は化物ビルの一角を少し焦がしただけにとどまり、化物ビルが空へと飛び立った!
ギェヤ、ギィヤと化け物たちが飛び去る! 外敵から逃げんと、生物の本能に命じるまま懸命に生を謳歌している! 生き足掻こう、少しでも良い未来を掴もうとするその有様。その必死さこそが生命の美しさなのである!
装甲車! ODカラーの幌付きトラックが隊員達を載せて空蚯蚓達を追う! 空蚯蚓達も少しでも見を隠せる場所へと向かわんと必死に逃げる! その末で空蚯蚓達が見つけたのは、隠れるのにちょうど良さそうな、木が繁茂する山であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「クソがっ! よりにもよってあの地獄谷かよ!」
車の中で林三佐が思わず吐き捨てた。
「ちょっと、なによその不吉な名前は?」
「あぁん? 嗚呼、嬢ちゃんは知らねぇか。10年前によ、あそこに不法投棄された燃料が爆発したとかで辺り一面が地獄のような有様になった……って言われてる。機密情報だから、そっから先はコネでも使って調べとけ」
「ってことは、本当は違う理由なのね。で、それが何の問題なの?」
「あそこは、以前から幕末の残骸やら悪霊がゴロゴロいて、以前から下手に近づけねぇ場所だったのよ。事故が起こる前は大掛かりな封印があったんだが、今はそれもねぇ。あんな所に入り込まれたらもう追撃できねぇぞ」
街に近い山に空蚯蚓の住処があるとなれば、街に住む人々は常に空蚯蚓に襲われる危険性を考慮せねばならない。万が一そのような事態になれば街を放棄する事も考えられた。
「って、一大事じゃない! 早く追いついて殺さないと!」
「空飛んでやがるし、追いつけねぇから困ってんだろうが!」
ODカラーの雑に整備された車が法定速度をガン無視して加速する! 軍特有の虐めのような教習を終え、MOS(軍特有の免許のようなもの)を得た隊員が技術を遺憾なく発揮するが、それでも追いつけない!
全員が諦めかけた、その時!
月明かりに何かが煌めいた! 遠くからでよく見えないが、豆粒のような何かが空飛ぶ化物ビルに飛びかかっている!
「あびゃあぁああああああああdkfじゃkljふぁdklじゃskdfじゃskd;lfじゃs;dkふぁkhl!!?!?!!!!」
おお! この世のものとは思えぬ奇声! これほど恐ろしい奇声など、百戦錬磨の林三佐ですら聞いたことはなかった! 実戦経験が長いわけでもない凛なぞ当然聞いたことはない!
思わず目を見開き、皆が体を硬直させた! だが、真に衝撃的なのはその後に起きた!
ドカン、と化物ビルの一角が崩れた! 崩された! まるでかき氷の山を削るかのように容易く削岩されている! こちらからでは豆粒のようにしか見えない何かが化物ビルに近づいた場所から削れているではないか!
三佐と凛が車に置かれていた望遠鏡を覗き込み、その豆粒を確認する! それはぱっと見は人のように見えた。だが、その顔は黒い仮面に覆われ、服装もなんと形容すればよいのかわからぬ! いや、わかる、わかるのだがそれをつけている理由が皆目検討がつかなかった!
「な、な、なななな、なんであのオッサン女物のブラジャーつけてるのよぉ!?」
思わず凛が叫んだ! 因みに股間には以前と同じくスワンを身に着けている! ブラジャーで女性要素をプラスする事によりバレリーナ要素マシマシである!!!
同じ者を確認したのであろう、無線は大混乱だ! 裸にブラジャーと白鳥を模したペニスケースをつけた謎のオッサンがピコピコハンマーらしきものでビルを砕いているという気が狂ったかのような文言が飛び交う!
だが、真に狂っているのはそのオッサンである! 仮面と兜で隠れてわからぬが、そのオッサンの頭はハゲていた! バーコードであった! そして――
「あ”あ”あぁぁ嗚呼嗚呼あ!!!! キチガイゲェェァァーーージマァア⤴⤴アAAAっxXXXXゥ⤵ゥ⤵ゥ……ギェェヤァァァァアギュラヤァァァ11!!!! ウッホ⤴ッホーイ⤴ パンパカッパーーーンwwwwww」
キ チ ガ イ であった!!!!!
現代ストレス社会が生んだ病巣! バーコードハゲもまたこの社会の犠牲者なのだと頭と学歴がまともな人権に強い弁護士ならばそう擁護しようとして、やはりとっとと捕まえて刑務所で1000年くらい強制動労させるべきと判断するかのような、という狂った形容詞しか思い浮かばぬ独身童貞年齢=彼女居ない歴 かつ 年収300万以下の三十路バーコードハゲ! !
中隊と凛が混乱していようとも、バーコードハゲの凶行は止まらない! 飲み会が終わった後に何故か手にしていたピコピコハンマーを化物ビルへと大きく振り下ろし、地面へと叩きつけた! 先程まで宙に浮いていた巨大な質量が地面に叩きつけられ、轟音と共に土煙が舞う!
「なにがどうやってピコピコハンマーでビルを叩き落とせるのよーーー!!!!
凛も絶叫! わけがわからない! 彼女の今までの経験してきた中には兜武者をかぶり女性用ブラジャーをつけ股間には白鳥のペニスケースをつけたオッサンがピコピコハンマーで化物を叩き伏せるという事例なぞ当然存在しない!! そんな事態なぞ、想定、した事も、ないっ!
ビルが叩き落とされ、空蚯蚓達が慌ててビルから飛び出した! ハゲがそれを捕まえ、触手を別の空蚯蚓の触手と結ぶ! 上手な結び方がわからぬので固結びだ!
「ピギィィィィイ!!」 と逃げ去る空蚯蚓達を、既に結んでロープのようにした空蚯蚓をぶん投げ捕獲! そのまま結ぶ一緒に結んでしまう!
「ホーイホーイホッッホッホーイ♪ オイラははーたらっきもーのーのー♪ つなあーみー しっ♪」
作詞作曲バーコードハゲ、作詞作曲にかかった時間0.1秒。題名、オイラはつなあみ師。
「ほっほっほーwwwwwホッホォォォwwwwマァンマミィィィヤアァァァwwwwヒィwwwwほぉぉぉぉwwwww」
バーコードハゲが紐と化した空蚯蚓達で一人大縄跳をし始めた! ブンブンと回転するたびに地面と擦れた空蚯蚓の肉が削げる! そうでなくとも結ぶ目に応力が集中し、びりりと亀裂が広がっていく!
バチン! と空蚯蚓の結び目が切れた! 楽しげに縄跳びをしていたバーコードハゲが急に、押し黙る。
「え……? なに? ……もう何なの? なんで急におとなしくなったの……?」
ここで凛が想像できた、眼の前のキチガイが次に行うであろう事は3通りであった。
①空蚯蚓を結び直してもう一度縄跳びをする。
②腹いせに空蚯蚓達を地面に叩きつける。
③(今更ありえないとは思うが)真面目に空蚯蚓達を倒し(もう死んでいるだろうが)化物ビルの止めを刺す。
「うおぉおおぉぉぉぉぉぉ!!!! イオンへゴーだ! ソーセージが僕らを待っているぅぅぅ! うひょーーーー!!!」
「なんでーーーーーー!!!?」
回答は④、何故か急にソーセージが食べたくなってイオンへ急行する、であった。凛が思わず頭を抱えたのも致し方がない。因みに、バーコードハゲの思考としては、つなぎ合わせた空蚯蚓がまるで繋がったソーセージのように見えてきて急に食べたくなったのである。
だが、狂人の思考なぞ読み取れぬのが普通である。むしろ、これを予想出来るようならば予想できる者もまた狂人と言わざるを得ない。
頭を抱える凛を他所に、林三佐が指示を飛ばす。土煙が収まった後に偵察ドローンで取った映像からは、完全に無力化された空蚯蚓と化物ビルの姿があった。化物ビルに内包されていた蜂の巣型のコロニーは、言わずもがなであった。
作者のキチガイゲージが溜まったら続き書きます。