約束履行
交流する機会として佳織の親族と話をするにあたり、最初の話題としてズレたものを提供したなと感じられたけれど、凡そは好意的な会話を出来たんじゃないかと考える。
その後に切り分けたケーキをみんなで食べたり(流石に気配を消さずに食べた)、予想通りプレゼント開封が僕で、すべてが手作りだということに全員が驚いて言葉を失っていた。両親何て帰りに質問攻めしてきたから黙秘権を行使した。
まぁそんな感じで流れて誕生日会が終わり、みんな帰路(半分がホテルに宿泊だったけど)についた。
その翌日。
いつも通りに目を覚ましていつも通りの事をしながら、フェリアについて少し考える。なんでかというと、少し心の余裕が出来たからなんだけど。
フェリア。
それは突然やってきたスクルドさんの置き土産。妖精みたいな姿を取っている、僕が名付けた「存在」。
生まれたばかりだからか好奇心が旺盛で、自分で色んなことを調べてはその知識を吸収しているのはまるで子供。
登場の仕方からすると僕の世界で魔法(?)とかを顕現できる。
自分で調べていることから鑑みるに、電子機器に干渉できる……本人にその自覚はないけど。
そして僕の携帯のバッテリーを動力としている。
……こうして考えると悪用しようとすれば悪用できるんだよね。現在のフェリアの純粋さにつけこむなら。
まぁやらないけど。犯罪者になりたいわけじゃないし。
ってそんなことはどうでもいいや。
考えが脱線しそうになったのを洗濯物の皺を取りながら切り替える。
フェリアの正体。本人は自覚がないし考えてもいないから推測でしかないけど、現実に影響を与えることが出来るなら単なる電脳人じゃない。そもそも電脳人じゃないだろうけど。
スクルドさんが拾ったと言っていたことを鵜呑みにするなら神様に近い種族なんだろうけど……そこから先が考えられないんだよなぁ。
多分、知識不足が原因なんだろうけど……シルフは分かるかな?
『聞いたことはありませんね』
『そっか』
即答されたので大きく息を吐いてこの問題について諦める。いくら考えこんだところで解決の糸口がないままなんて意味がなさすぎる。時間の浪費だ。
洗濯物が干し終わったので籠を洗面所に戻しながら、今日のことについて考える。
指定時間は九時。指定は場所は駅前。本人から聞いた話だと駅前を歩くのが目的らしいけど、お金あった方が良いよね。
行きたい場所訊いてもはぐらかしてきたし、その場その場で決める気なのかな? まぁそっちの方が楽といえば楽だけど。
まぁ問題は……服装なんだよね。レミリアさんと一緒に行動する時ですら私服のつり合いが取れてない気がする感じだし。
とはいっても、当日に服を揃えるなんてあまり意味のない努力だと感じてしまう。
……うん。そろそろお洒落に気を遣おうかな? 一緒に服を買う人いないけど。
「さて……食べますか」
今後の目標を考えてから朝食にした。
仕事のある両親が慌てて起きてきたのを尻目にマイク付きイヤホンを付けた僕はフェリアに話しかけた。
「ねぇフェリア」
『なんですかご主人様?』
「フェリアにとって『やってはいけない』と考えることって何?」
『やってはいけないことですか?』
僕の質問に画面上のフェリアは首を傾げる。内容を考えているのだろうか。
二分ぐらい考えてから、彼女は答えた。
『ご主人様が罰せられることをするのがやってはいけないことだと考えます』
「……そっか」
あくまで僕の意思を尊重する、と。
……これは中々良い子だなぁ。
その判断をする以上、善悪を人間の法律で決めている可能性がある。
ある以上、通用しない極限条件での打開策に用いえないのは痛手だろう。
…………。
「異常事態に遭遇することを受け入れている……?」
『ご主人様……?』
フェリアが心配した声を出していたけど、僕は自分で気付いた事実に頭を抱えていた。
いや、確かに大黒天とか遭遇したよ去年? だけどさ、直接的に事件にかかわったの今年からなはずなんだけど。
なんでだ? なんで確信めいて諦めている?
簡単に結論付けるなら、この世界の可能性を考慮しているから、なんだろう。
正直な気持ち、僕は事件に巻き込まれたくない。まぁ誰だってそうだろう。
だけど誰だってどんな切っ掛けで事件に巻き込まれるか分からない。そしてそれが継続的になるかどうかも。
そんな考えがあるからこそ、かな。
「……何考えこんでるのよ、連」
「え? あ、姉さん。起きたの?」
「起きたの、って。そりゃ仕事あるんだから起きるわよ……で?」
「で?」
「あんた、時間大丈夫なの?」
「…………」
姉さんの指摘に時計を確認したところ、八時四十分。
…………おっとぉ? これはマズイぞ?
認識してからゆっくりと立ち上がった僕は、携帯を持ってからダッシュで自分の部屋に戻った。
完全に遅刻だよ!
荷物を掴んで家を出て、全力で駅へ向かう。ただしシルフの力を借りない。
こんなところで、というかこんなことで力を借りるなんて馬鹿すぎる。
その前に僕は普通なんだから超常能力のお世話になりたくない!
そんな信念で走って九時過ぎ。
息も絶え絶えで駅前についた僕は、立ち止まって息を整えずに歩きながら周囲を見渡す。
佳織と約束した場所は駅前にある時計台。人通りが多いけど、まぁたどり着ける。たどり着けるんだけど……。
少し歩いて人混みが出来ているのが分かった。その中を縫うように歩いて行ったところ、空間が出来ていた。しかも時計台。
……うん。これ目立つなぁ。でも行かないといけないし。
覚悟を決めてその空間に飛び込んだところ、案の定佳織が一人で待っていた。携帯電話を眺めて俯いているのを見るに、僕に連絡を取ろうとしているのだろう。
いちいち電話に反応するのも馬鹿らしいので、「ごめん佳織。遅くなって」と謝罪を口にする。
すると彼女は顔を上げて笑顔でこちらに向く。周りからの視線が鬱陶しいのが明らかだけど、それより顔を上げた時に見えた泣きそうな表情が気になった。まぁ原因僕なんだろうけど。
というかこの壁が出来るってことは十分そこら待ってた訳じゃないよね。本気で悪いことしたよ。
「遅いよ連君! 女の子を待たせるなんて非常識じゃないの!?」
「本当にごめん!」
彼女の怒りに直角に頭を下げる。言い訳をしようにも他人に話せないものだから、すぐさま頭を下げて彼女の怒りを受け入れる。
その行動が早かったおかげか彼女の怒りは少し収まったみたいで、「ちゃんと反省してよね!」と言ってから頭を上げるように言ったので素直に従う。
改めて彼女の服装が目に入る。といっても服装をそこまで知っているわけじゃない。
多分、彼女が普段着ているあろう豪華な服ではないはず。周りを見て、共通してそうなポイントが多そうだなと考えられるから、この日のために選んだろう。まさか普段着ではないと思うけど。
周りからすれば僕の方が不釣り合いな印象なんだろう。何て言っても冴えない服装なのは自明だし。
今から服装を褒めてもいいのかなと思っていると、佳織が恥ずかしそうに身をよじって視線を外す。
そこまで恥ずかしいかなと思いながら、「行きたい場所が決まってるなら行こうか?」と佳織に促した。




