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挨拶

長らくお待たせしました。

 そこからソニア(どうも呼び方に遠慮があるとかで)に教えてもらいながら流れで始まったダンスを、シルビア(ソニアと同じ理由)を始め数人を経て佳織と踊った。


 最初はぎこちなかったんだけど、だんだんと要領が分かってきたおかげで、佳織の時は大分綺麗に出来たと思う。まぁ踊りながら佳織が驚いていたからそうなんだろうけど。


 で、僕が佳織と踊り終わった時にタイミングを計ったかのように、爺ちゃんたちが更に大人を連れて戻ってきた。多分、佳織の家族だろう。


 爺ちゃんと口論しながら来たのは佳織のお爺ちゃんかな? 爺ちゃんより厳かな雰囲気を醸し出しているけど、口論してるせいでその雰囲気が台無しになっている。

 その後に来たのは和良祖母ちゃんと佳織の御祖母ちゃんだろう。和やかに会話しているのが爺ちゃんとの対比で何となく面白い。


 ……で、その後から笑いながら入ってきた僕の両親と喋っているのが佳織のご両親かな。なんというか、気弱そうな父親に見える。婿養子なのかな?


 この状況をどう処理すればいいのだろうと静かになった空気のまま眺めていると、「連君のお爺ちゃんとうちの御祖父ちゃん、仲がいいんだねぇ」と佳織が隣に来て呟いた。


 まぁ、そうなんだろう。どういう接点があって今の関係になっているのかは話を聞かないと分からないけれど。


 佳織が隣にいることも、隣にいることで微かに香る香水の匂いも対して気にならずに黙っていると、佳織のお爺ちゃんがいつの間にかマイクを持って話し始めた。


『我が孫娘の誕生日会に集まっていただき感謝する。ワシらがいるからといって萎縮せず、どうか昔の様に振舞ってほしい』


 そう言って頭を下げたのでこのメンバーの意図を酌んでの発言なんだろうなと思いながら、小さく拍手する。隣で佳織が驚いているみたいだけど。

 で、話が終わったから空気が戻るのかと思ったんだけど、何を思い出したのか佳織が「あ」と呟いてからいきなり僕の腕を取り、「ちょっと来てくれる?」と歩きながら訊いてきたので内心で拒否権ないじゃんと思いつつも「まぁ」と曖昧に答える。




 連れてこられた先は案の定、佳織の家族たちの前。この部屋にソファとかあったのかな? みんな立っているから気が回らなかったけど。

 あと、一緒に来たはずの爺ちゃんたちの姿もない。一体どこに隠れたんだろう? 気配を探るなんて芸当、僕には難しいけど。


『ちゃんと室内にいるみたいですよ』

『あ、調べてくれたんだ。ありがとう』

「――で、私の友達の池田連君」

「……あ、どうも。ご紹介にあずかりました。池田連です」


 話半分だったせいで佳織がどんな紹介をしたのか分からないけれど、とりあえず無難に名前を告げてお辞儀をする。


 体を戻したところ、「なんと丁寧な挨拶じゃ。龍前の奴の孫とは思えんな」と先程挨拶をしたお爺ちゃんが感心していた。


「あらそうですか? 和良さんのお孫さんでもあるのですからこれぐらいは普通では?」

「ふん。どちらかというと龍前の奴に扱かれていたんじゃからそっちに引っ張られていると思っただけじゃ。許せ」

「あ、はい」


 ……うちの爺ちゃんと結構揉め事起こしてるのかなこの人? どっちかというと巻き込まれ系?

 内心でうちの爺ちゃんがすいませんと謝っていると、「そうか、君が池田連君なんだね? 娘が子供の頃から話してくれた」と別方向から話しかけられた。


「どんな話をしていたのかはわかりませんが、そうですね。こうして招待していただきましたし」

「ははは、そう切り返してくるのかぁ。怖いなぁ頭がキレ過ぎて」

「あなた。娘のお友達にそんな弱音と素直な感想を言わないの。佳織が怒るわよ……ごめんなさいね。彼、結構臆病で」

「気にしてませんよ……それに、一時期でも逃亡生活するぐらい行動力と勇気があるのですから。その臆病も観察する際のカモフラージュになっているのでは?」

「「「「「…………」」」」」


 ……やっちゃった。

 反応を見て悟る。つい余計なことを言ってしまった。僕の直感と過去の話を思い出して混ぜた、佳織のお父さんの印象を。

 合っているかどうかはこの際重要じゃないと思う。この対面して会話もそれほどしていない人物の印象をサラッと語ることが驚かれている原因。


 コミュニケーションをそれほどしない弊害だろうなぁと思わず天井に視線を向けようとしたところ、「容赦ないの、連よ」と僕の横にいつの間にか来ていた爺ちゃんが話しかけてきた。


 ……相変わらず気配が分からないんだけど。

 表情に出さずにそんなことを思っていると、「……いきなりどうした、リュウ」と向こうが口を開いた。


「いや、連が変な空気にしたと思ってきたら案の定だったから」

「……相変わらず勘がずば抜けて気持ち悪いな」

「でもギャンブルだと使えないんじゃな。ガンなんて俺の逆張りして儲けてるくせに」

「“(げん)”だ! 読み方一緒だからってその呼び方止めろ!!」


 向こう――西条頑が爺ちゃんに対し何度も言っているだろう言葉に対し、こちらは見事にスルー。

 とりあえず入ってきた時から思っていた犬猿の仲は当たっていそうだなと思っていたところ、爺ちゃんが僕の頭に手を置きながら「ま、わしの孫に驚かされるのは慣れろとしかいえんわい」と苦笑する。


「説教は?」

「もう終わったぞ?」

「あらそう思いですか?」

「」


 流れるような応答に、爺ちゃんが固まる。何をしたわけじゃないけどついでに僕も。

 反射的に身がすくむ程の冷たさを含ませたその言葉が聞こえた方に視線を向けると、和良祖母ちゃんが笑顔で佇んでいた。


「こういった場所で孫にで会えることに箍が外れたんですか? 全く子供っぽい人ですね」

「いや、確かにこうして会えたのは嬉しいぞ? じゃが、箍を外しておらんぞワシは」

「ふふっ。煙に撒こうとしたところで問屋はおろしませんよ? あなたが言おうとしていることはすべて『ここでやる必要はなかったですよね?』で片が付くんですから」

「…………」


 詰みだね、どう考えても。

 弁解の余地もない正論により退路を断たれた爺ちゃんは無言のまま頭を下げていた。

 多分、さっきいなくなった間に正式な謝罪を向こうにしていたんだろうけど。現に佳織の家族の人達は苦笑しているし。

 これからどうするんだろう? なんて思っていると、祖母ちゃんが「それでは私達はこれで帰ります」と頭を下げてから言って歩き出した。


「連。人との交流をする機会としなさい」

「!」


 すれ違いざまに小さい声で言われた僕は、体が一瞬硬直してから通り過ぎた和良祖母ちゃん達の方へ振り向く。


 ……バレた(・・・)? それとも、助言でもされた(・・・・・・・)


 どっちもありそうなのがなぁ。

 ただの深読みなんだろうかと思いながら見送っていると、「ごほん」と咳払いの音が聞こえたので振り返る。


「まぁ、なんだ。君の話は佳織や文歌、リュウ--龍前から聞いているが、わしらの事は知らんだろうから自己紹介でもするか。ワシは西条(げん)。間違えるなよ?」

「分かりました」


 念押しされたので頷くと、それを皮切りに自己紹介が流れるように始まった。


「私の名前は西条エレザです。あなたの御祖母ちゃん達とは親友なんですよ?」

「そうなのですか」

「ふふっ。旦那の事を一目で見抜くなんて凄いわね。ああ、私は西条志穂。よろしくね?」

「はい」

「はははっ。君の両親にも少し会話しただけで理解されたし。もう、恐怖しか感じないよ……ああ、僕の名前は西条キッド。婿養子だよ」

「まぁ僕は子供の頃を覚えていましたから」


 自己紹介を聞いて返事をしながら、脳内でツッコミたい情報が色々と浮かんでくる。


 ”達”って、素直に龍前爺ちゃんと和良祖母ちゃんでいいの? とか。

 ゲンさんってどのくらいの付き合いなの? とか。

 志穂さんってただの高校生に対してなんで舌なめずりしながら自己紹介したの? とか。

 キッドさんってそんな分かりやすいのになんで恐怖しているの? とか。


 藪をつついて蛇を出す結果になりそうなのでその疑問を一旦脇に置いてから、佳織の方を向く。

 彼女はどこか複雑な表情を浮かべていた。


 いやまぁ、身内の自己紹介を聞いて思うところがあるんだろうけど。それは割り切るなりした方が良いんじゃないかな。僕なんて突然知ったようなものだし。詳しく自分で訊かなかっただけだけど。


 ……黙っているのもあれだし、祖母ちゃんにも言われたし、自分から話してみようかな。

 そう考えた僕は「あの頃の生活って、見逃されていたんですか?」と予てから訊きたかったことを話題にした。

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