同窓会
久し振りに筆を進ませています。
「え、僕が通っていた学校ってそんなところだったの?」
「おいマジかよ。今更か、それ。入学した時から知ってたのかと思ってたんだが」
「池田君は昔他人と関わることを嫌っていたからこちら側の事情を知らなくても納得できるな!」
ハッハッハッ! と高笑いする少年――天道正義の言葉に乾いた笑いを浮かべながらこのパーティのメンバー構成について把握する。
佳織が招いたのは小学校の頃、しかも僕と佳織が一緒のクラスだったメンバー。それプラス有名どころの部外者。
で、どうやら僕が通っていた小学校っていうのがどうもこの地域で顔が利いている人達を集めた場所だったようで、僕以外のみんなは大体どこかで顔を合わせていた、と。
……うん。偶然って怖いね。
考える気力がなくなった僕はそう結論付けて「まぁその話はもういいや」と話を終わらし別な話題に移す。
「で、滝藤さんは子分を引き連れて何かと高圧的な態度で話しかけてきた人と同一人物ってことでいいんだよね?」
「さんは要らねぇんだけどよ……まぁな」
「ん? 驚かないのか?」
「さっき驚いたよ内心で。種族的なものなんでしょ、それ?」
「ああ。つぅかあの時より鋭くなってねぇか? 佳織が『前とは比べ物にならないほど鋭くなってたよ』とか言ってたけど、本当だな」
「そりゃ歳と経験を重ねれば可能性はたくさん考えられるでしょ?」
そう言って首を傾げると、二人は唖然としていた。
そのうちに周囲に視線を軽く向けたところ、やっぱり遠巻きにされているようだ。この二人が特殊な方なんじゃないだろうか。
あの時――小学四年生頃から六年夏まで――を知っているのだから。
さてどうしたものかなと思っていたところ、『まもなく主催者及び誕生日を迎える西条佳織様がいらっしゃいます。拍手でお出迎えしてください』とのアナウンスが流れた。
「そろそろ来るんだ」
「少し時間がかかってねぇか?」
「それだけ気合を入れた、と言えるだろう滝藤君?」
なぜか異性である天道君が滝藤さんを諫める。まぁ実際どのくらい性別を変えているのか推測の域を出ないけど(小学校卒業してからだろうから、三年近く?)、まだ女性特有の思考に染まってないからかな?
そんな他人の心配をしていると、照明が落ちた。その後、入口の方にスポットライトが集中する。アナウンス通り、佳織がそこにいるんだろう。まぁ見えないけど。
取り敢えず周りに合わせて拍手する。僕に話しかけてきた二人もスポットライトの方に視線を向けて拍手しているようだ。
この隙に……なんて考えている時点でまだ考え方が抜けてない証拠なんだよなぁと冷静に分析した僕は、「そういえば、今日集まっている中で佳織と同等の立場ってどのくらいいるんだろう?」と呟いてみる。
「ん? 『同等』?……天神さんぐらいじゃねぇか?」
「あまり気にしたことはないな、そんな関係は……だが、歴史的には滝藤君が言っていた通り天神さんが同等と言えるのではないのだろうか?」
「あれ、自分達は挙げないの?」
さらっと答えてくれた言葉に疑問を呈したところ、佳織が壇上に着いたらしい。スポットライトが固定され、佳織のドレス姿の影の動きが止まったのが分かる。ちなみに滝藤さんもドレス。
そして、マイクを通して声が聞こえた。
『本日は私、西条佳織の誕生日パーティに参加していただき、皆様には感謝しています』
そして影がお辞儀をする。
ちなみに僕は本人を見ていない。人だかりが出来ているせいでね。
彼女は続ける。
『皆様が割いてくださったこの貴重な時間を、私としても無為にしてほしくありません。どうぞ最後までお楽しみください』
再びお辞儀。それにつられて拍手が起こる。僕も拍手をする。しながらも、周囲の観察を怠らない。思考も止まらない。
疑心暗鬼を生ず、というのだろうか。僕の思考が基本マイナス寄りだからなのか、猜疑心の強い考えになってしまう。
人とは、それだけじゃないというのに。
「おい、池田」
「……」
「何を考えこんでいるんだ、池田君? もうみんな食事に手を付けているぞ?」
「……え?」
二人に声を掛けられて我に返る。考え事に集中していたせいか、周りの観察を怠っていたようだ。見事にテーブル周りに集まっていたり、料理が盛られた皿を持ちながら歓談している人たちがいたり。
ようやく始まったのかと考えた僕は、変わらずいる二人に「ああごめん。少し考え事をしていたから。とりあえず夕飯をご相伴にあずかろうよ」と言ってから人だかりが出来ている方へ向かった。
食事の方はホテルにしては珍しく人の手で作られた料理が出されていた。結構おいしかったけど、大量に作らないといけないからか、複数の人が分業して料理したんだろう。一人一人の個性が感じられた。機械で一括よりもこっちの方が好きだな僕は。
……そういえば、去年菫さんの家のパーティの食事を一人で一品作ったっけ。結構な量作るから煮物で濁したんだけど、好評だったみたいだし。
今年もどっかでそういう機会があるのかなと思いながら料理を一人でつまんでいると、「あなたは挨拶に行かないので?」と聞こえた。
思わず手を止めて周囲を軽く見渡したところ、銀髪で三つ編みの少女が僕を見ていた。ドレスを着て皿を持っているみたいだけど、料理を載せていないところから見るに今から食事なのだろう。
この集まりがどういったものか分かったから、たぶん彼女も同じクラスだった人なんだろう。覚えがないけど。
僕の事を言っているんだろうかと思いながら視線を向けてみると、彼女は肩を竦めて「あなたのことを言っているのよ、池田君」と言ってきた。
「えっと……貴女は?」
「本当に覚えてないのね……私よ、シルビア=ホーエンハイム」
…………。
「えっと」
「佳織に嫌がらせをしていたわよ。あなたに報復されるまでね」
「…………そんなことあったっけ?」
ほぼほぼ記憶がないので首を傾げると、彼女――シルビアさんは肩を落とした。
そんなことをしていると、「少し宜しいですか?」と佳織の声が。
そちらに体を向けると、佳織が文歌さんを連れて来ていた。皿などを持っていないことから見ると挨拶回りを済ませている途中なのだろう。
どちらに声を掛けているんだろうかと少し黙っていると、「お誕生日おめでとう、佳織」とシルビアさんが祝いの言葉を口にした。
「お忙しい中有難う御座います、シルビアさん」
佳織はそう言って頭を下げる。
僕も言わないといけない流れになってる気がしたので、彼女が頭を上げてから声をかけた。
「お誕生日おめでとうございます、西条さん」
「……ありがとうございます、池田さん」
少し間をおいて答えた佳織。名前呼びではなかったことに驚いたのだろうか。
佳織が知っていても、この場で知らない人の方が多いからあまり親し気にしてはいけない気がするし。
そんな僕達のやり取りを間近で見ていたシルビアさんは「そういえば池田君。あなたってパーティで見かけなかったけど、何していたの?」と訊かれたので、「親がサラリーマンだったから呼ばれなかっただけだよ」と答える。
「あらそうなの? あの学校でサラリーマンが親ってほぼ無理――」
「ところで、よく招待に応じてくれましたね、池田さん」
「ええ。私みたいな庶民にまで招待状を送ってくださり有難い事です」
「あら? どうしたの佳織? いきなり遮って。それに、池田君は先程までと口調が違うわね?」
……しまった。ついつい同窓会という意識が外れた。
佳織の方がいつもと違うからそれに合わせちゃったんだけど……どう考えても祖母ちゃんがいるからだろうね。
さてどこで見ているんだろうかと視線を佳織だけじゃなくて周囲に向けてみたところ、シルフから『背後から何かが飛んできた気配がします。しかも二つ』と言われた。
また爺ちゃんかなと頭の片隅で思いながら二人の言葉を聞き流し、シルビアさんと佳織に飛んできたものをはたき落とす。
カラン! と音が響く。咄嗟に動こうと文歌さんが半歩足を引いていたのが見えた。佳織とシルビアさんは固まっている。
全くこんなことやって……。祖母ちゃんに怒られるのが怖くないのだろうか。そう思いながらはたき落としたものを拾う。
って、金属製のナイフ? 道理で少し痛かったわけか。
シルフに内心でお礼を言って立ち上がったところ、「おお重ね重ね済まんの」とのんきな声が聞こえた。
振り返ってジト目で「バカなの?」と思わず素で言ってしまった。
「なんじゃ、連よ。隠すんじゃなかったのか?」
「これだけ狙ってきたら隠すも何もないよ全く。和良祖母ちゃんにこってり絞られなよ。というか、身内全員に素直に怒られなよ」
「……まぁ、やり過ぎたとは、思うがの」
全員の視線を浴びる。誰もが現状の把握をしているのだろう。
そんな中、その空気をぶち壊す様に「何やってるんですかお義父さん!」と父さんが割って入ってきた。
「なんじゃ秋人。散々逃げ回って顔を見せんで」
「いやそれはそうですけど……って、そんないつもの事より!」
「ワシ等もいつもの事じゃぞ? のぉ、連」
「時と場所を全然考えないけどね」
「そりゃ、成長を確かめる意味合いなら唐突でいいじゃろ」
「……はぁ」
父さんがげんなりした。珍しい。
僕も肩を落としたいんだけどなぁと思っていると、シルビアさんが代表してなのか質問してきた。
「池田君……貴方の血筋の確認をしてもいいかしら?」
もうどうにでもなれ!




