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週末

一月に二回も更新するなんて珍しいことをしてみる

 そこから週末。

 僕は家で慌ただしく動いている両親を尻目に本を読んでいた。


「クリーニング終わったスーツどこに置いたっけ母さん!」

「あなた、いつものスーツじゃ駄目よ! ドレスコードに則って!!」

「ああ、そうだな……で、どこに置いたっけ?」

「え、それは……」


 ……スーツなんてクローゼット開ければまとまっているんだけど、なんでリビングであたふたしながらその話題をしているんだろうか。

 内心で呆れながら読み進めていると、「とりあえずクローゼット探そう。スーツはそこに置いてあるし」と父さんが僕に一瞬視線を向けてから母さんに言った。


 これも自立の一歩なのだろうかと思いながら何も言わず、まだ午前中だというのに右往左往している両親にため息をついてページを捲った。


 こんな事態になったのは、佳織が送ってきた招待状を隣の家だというのに郵送してきたからだ。

 これが僕宛ならメールで返して終わりだったんだけど、誰かのアドバイスで両親宛に送られてきていたのが問題。

 内容は推測できるから読む気が起きなかったのでそのまま渡したところ、読んだ二人がテンションを上げて「行く!」と懐柔されたのでなし崩し的に同行する羽目になった……っていうのが火曜日の話。


 そこから少しずつ準備をすればいいのに仕事の打ち合わせをしながら酒を飲んだりしたせいか、当日になって慌てるという状態になっている。


 僕から思い出させるように言うのは、しない。いつまでもそうやって甘やかしても意味ないし。というか、子供がそうやって思い出すってのも中々だろうけど。


僕の親以上にダメな人はいるだろうけど、ここまでバカと天才は紙一重を地で行く人たちは見当たらないんじゃないだろうか。爺ちゃんたちは、まともだというのに。


 何がいけないんだろうと思いながら騒ぎを無視していると、煩くて起きたのか、姉さんが欠伸をしながらリビングに来た。


「おはよう」

「おはよう……なんであんなにうるさいのよ」

「さぁ? 慌てると視野が狭くなるしやることを考え出して時間を計算して行動してるからじゃない?」

「……なんていうか、遠足とかで慌てて荷物確認してる子供みたいね」

「言いえて妙だけど、誰だってああなると思うよ……これが急な話だったら。あ、朝食作ってないから」

「良いわよ別に……で、あんたは良いの?」

()


 その答えに姉さんは大きく息を吐いた。両親の喧騒(BGM)は変わらずだというのにそれが聞こえる、いや感じ取れるのは普通なんだろうか。本を読みながら『普通』の境界線を思考しようとしたところで、フェリアから『電話ですよご主人様』と伝えられたのでしおりを挟んで本を閉じ、電話に出る。


「もしもし」

『あ、おはよう連君!』

「ああ、佳織か。おはよう」


 ……そういえばフェリア、発信者が誰か言わなかったな珍しい。挨拶してからそのことに気付き、けれど追求できる状況じゃなかったので会話を続ける。


『いよいよ今日だね!』

「そんな待ちに待ったみたいなテンションで大丈夫? 怒られても知らないよ?」

『大丈夫! まだ合流してないから!!』


 合流してからもそんなテンションになりそうな気がするんだよなぁ……。

 佳織の声を聞きながらぼんやりと思いつつ、「なんでこの時間に電話してきたのさ?」と確認する。


『え、えっとね? パーティになったらこんな風にお話しできないだろうから……先に確認したくてね?』


 確認、ね……参加することは事実だから、それ以外の心配事。それなら……


「明日の予定は空いてるけど?」

『ふぇ!? あ、ありがたいけど! ありがたいけどさ!!』

「佳織が確認する必要なんてそれ以外ないでしょ? 今日は遠回しでも参加が確定しているんだからさ」

『……もぅ連君! 一連の会話にクッションがないから処理するの大変なんだけど!!』

「え」


 そんなのは知ったことではない。というか、この程度の会話の流れで処理が大変とか……と思考が流れたところで姉さんから圧力のある視線を送られたことに気付いたので庄一達との会話を思い出し、「で、明日の予定なんて訊いてどうするの? 大丈夫なの?」と話の流れを戻す。拘泥したところで時間の無駄だし。


『…………』

「佳織?」

『……』

「聞いてる?」

『き、聴いてる! 聴いてるよ!! 私の方は大丈夫だから!』


 そうじゃなきゃ電話なんてかけてこないだろうことは容易に想像できたけど言わず、「どこかへ行きたいのならいっしょに行くよ」と言う。


『…………え?』

「いや、僕の予定を訊いたのならそんな提案をする予定だったんでしょ?」

『………………う、うん』


 ん? 歯切れが悪いというか生返事というとか。ひょっとして先に言われることを想定しなかった?

 自分で僕の発言の間にある思考を考えようとしていたのにまだ慣れていないのだろうかと思いながら、「どこに行く予定なの?」と踏み込んで見る。


『え、ええと…………その、駅前でいいかな!?』

「駅前、ね……」


 まぁ妥当なところだ。家の周りを散歩して小学生の頃の記憶に思い出話を咲かせる、という提案よりも多分。お金をあまりかけないという点だと優秀だけど。


『え、い、嫌だった?』

「ああ、ごめん。大丈夫だよ、それで。時間は?」

『えっとそれは……って、ごめん! ちょっと行かなくちゃいけないから後で電話するね!!』

「あ、うん。頑張ってね」


 彼女はその後に何も言わず電話を切った。慌ててだろうか。そうなると余程ギリギリまで電話していたことになるんだけど。

 まぁだから何だってね。そう思いながらポケットに入れて読書を再開しようとして……姉さんの視線がいまだに向けられていることに鬱陶しくなったので、顔を向けて「何?」と訊いてみる。


「……あんたさ、去年より相手を読む力上がってない?」

「そう? たいして変わらないと思うけど」

「そうかしら?」


 そこまで劇的に変化したことなんてないんだけど。強いて挙げるなら精神状態が不安定なだけで。


「まぁ、普段から接しないからそう思うだけじゃない? よく観察しないと気付かないことって結構あるでしょ?」

「……まぁ、ね」

「姉さん寝癖凄いよ」

「!?」


 指摘されたのが驚愕なのか髪の毛を少し触ってから鏡を見に洗面所へ向かった。降りてきた直後なのだからそれなりに酷いことになっているのは明白なんだけど。

 別に朝食を食べてからでも良いんじゃないかなと思いながら欠伸をして読書を再開させようとしたところ、「「なぁ連!」」と両親が僕の前に来た。


「……何?」

「プレゼント何がいいと思う?」

「……いや、僕に聞かれても分からないけど」

「じゃぁプレゼントは用意してるの?」

「渡す予定はあったから既に用意してるよ」


 そう言うと二人は肩を落とす。

 まず僕に訊かないでほしいんだけど。女の子の欲しいものなんて。

 僕だってない頭必死に使って用意した。正直、要らないと言われても納得できる。僕だったら言うかもしれない。

 ……そういえば、姉さんに相談すれば一番楽だったのにどうしてやらなかったんだろう僕。

 嘆いている両親を意識の外に置いて少し考え、答えを出す。


 「あんただったら何でもいいんじゃない?」とか言われるのが想像できたから。


「はぁ」

「連がため息をついたぞ」

「これ以上はダメそうね……渚!」

「何よ二人とも。プレゼント決まってないの?」

「そうなのよ! 今日暇でしょ?」

「二人で行きなさいよ……私だって暇じゃないんだから」

「「私達のセンスがいまいち信用できない」」

「はぁ……」


 両親の堂々とした言葉にため息をつく姉さん。僕はというと、その言葉を聞きながら今日のパーティについて考える。


 完全にドレスコード必須。夕方から行われるのだから夕食会も兼ねているのだろう。ホテルのワンフロア貸し切りにしたらしいので、料理やテーブルなどのセッティングに時間がかかるのかも。


 タイムテーブル的には始まってから少しして主役(佳織)が登場し、挨拶をするらしい。その後に雑談タイムがを経て、プレゼントを開けるという。

 ダンスとか催し物とかもあった気がするけど、正直興味のない流れだから曖昧。


 どうせ佳織以外に積極的に話すなんてそれほどいないし。そう思いながら読書を再開すると、「ちょっと買い物行ってくる!」という父さんの声が聞こえたので「いってらっしゃい」と返事をする。


 …………ん? やけに静かになった気が……。

 ガチャリという鍵を閉める音が聞こえてから物音が聞こえなくなったので栞を挟んで本を閉じ、辺りを見渡したところ人の気配がない。


「ねえさーん?」


 起きてきたばかりだからまだいるんじゃないだろうかと思い呼びかけたところ、反応なし。


 う~んこれは……





 とりあえず掃除しようか。

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