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望み遠く

 僕から切り出されると思わなかったらしいレミリアさん帰京の話は、「相談してから明日答える」という、先送りでこの場は終わった。別に彼女達の問題だから僕はそれ以上急かす気もなかった。ただ、彼女自身居辛いのなら学校辞めて帰るという選択肢を親として強硬的に選びますか? という案を提示しただけだ。


 ここら辺は狂気が見え隠れする部分なのだろうけど、僕は基本的に他者の選択をとやかく言う気はない。その人の人生であり、その人が選んだ選択肢を頭から否定したりする必要性がないのだから。なんでわざわざ他人が決定したことに口を出さなければいけないのだろうか。小学生時代からの疑問だ。


 だからぶっちゃけると友達とか親友とか、そういう関係性になったところで根底の付き合い方は変わっていない。どんな解釈で理解されているのか知らないけれど、少なくとも僕の最終的な結論は『君の事なんてどうでもいい』に落ち着く。落ち着いてはダメなのだろうけど、そこになる。


「あージュース美味しいな~」


 家族のいる病室を出て病院内の自動販売機で買ったジュースを飲んでそう口に出し、思考を切り替える。


 現在の目標としては保険と家のことと…………後なんだっけ? あったけ。


 飲み干した缶をゴミ箱に入れてから腕を組んで考えていたところ、「あ、連」と声がかけられたので考えるのをやめて声の主へ視線を向けたところ、元が花束を持っていた。


「どうしたのさ其の花束?」

「菫が退院するんだって」

「え、ここ菫さんが入院してたの?」

「らしいね。僕も知らなかったよ」

「ふ~ん……祝いに行ったら?」

「あ、そうだった。それじゃ」


 確か元の両親も洗脳された側なんだよな……一人で今生活してるのか。頑張ってるね。

 後姿を見送った僕は素直に称賛してから、佳織もひょっとして入院したのか同時期にという可能性に至る。まぁ至ったところでだから何? なんだけど。


 さぁ家に帰ったら買い物して、それからいろいろ考えることを考えよう。

 一人分だから気が楽だなぁと思いながら、レミリアさんの部屋に行くこともなく病院を後にして買い物へ向かった。



 家事は終わり、学校もなく一人なので明日の朝食と弁当の準備なんて面倒なことをやる必要がないこの頃。だけど僕は一人ノートと格闘していた。


「父さんたちの貯金は半分になって……入院費を出すならこっちからでしょ。正直姉さんの稼ぎ少し回してもらいたいと思ったけど、稼いだお金なんだからあまり強制するのも悪い気がする。で、レミリアさんからも一銭ももらってないんだよなぁ……残ることを選ぶなら、悪いけど少し徴収って形にするしかないか。そうでもしないと補填が大変だ……って、なんで僕やっているんだろ」


 自然とやっていたことに僕は呟く。自分の飲食代は自分の貯金から出しているので(引き籠りの時は圭が経費と言って渡してくれた)、現在自分の貯金が少し減った状態だけど、そもまともに使う機会がない僕の貯金に関してはあまり気にしていない。一応自分用の家計簿書いてるけど。


 で、現在問題の父さんたちの共用通帳の残高。給与とボーナス全部こっちに振り込まれて結構な額があったんだけど、姉さんの通帳の補填をしたら三分の一が消し飛んだ。

 まぁ正直三分の一なら許容範囲だと思うけど、僕が貧乏性だからか両親の奇行が不安要素だからか三分の一の補填を何とかしたいと考えている。

 家のローン……生命保険……入院費……まぁ入院費に関しては概算するほかなかったんだけど、確定的に出費となる前二つに関しては余裕。入院費三名分の概算を足してもまぁまだ大丈夫で、僕からしたら年に二度くらい贅沢する程度なら特に今のままでも問題ないレベルの額なんだけど、ね。


「で、見舞金などの収益は……もういいやそのまま二人に小遣いとして渡そう。全部使いきってせがんできたら断固拒否の構えだね。いつも通りだ」


 苦笑しながらノートに書きこむ。以前一ヶ月の小遣い二週間で使い切ったとか自信満々に言われたときに説教して小遣いを規定日まで渡さなかったらそれ以降止めたっけ。使い切ろうとするの。それが普通だと思うんだけど、流石に笑ったなぁ。


 一頻り感傷に浸ったところで現実問題に移る……と言いたいけれど、起きてくれないと全体的方針に賛同が得られないために自分の中での仮決定に留まる。ノートには書いてあるけど。


 あとは何やろうかな……と周囲を見渡してみたけど、膨大な洗濯物も終わったし、風呂場も綺麗になった。家の掃除も終わったし、明らかに不要なものはすべて回収してもらったから溜まっていた仕事はこの三日で消化してしまった。


 勉強はやる気がない。学校でどこまで進めていたのか知らないけど、花音さんや、圭のおかげで最初の方はテストやったところで問題ないだろうし。そもそもやる気になっていない。

 本は……ああ駄目だ。そこまで気力がない。

 他に何か……なんて記憶をさらってみたところ、大黒と暇つぶしに会話できることを思い出したので、神様に恐れ多いだろうけど、僕は雑談するためにお守りを取りに自室へ向かった。


 自分用にお茶を淹れてからお守りを握って大黒に呼び掛けるようにイメージする。

 すると入学式以来の、最初に出会ったのと変わらない格好の大黒天が現れた。


「どうやら無事に解決できたみたいだな」

「無事……って言い難いんだけど。正直大黒の保証が憎らしかったよ」

「あ、そうか? 普通だったら喜ぶもんだろ。神様のお墨付きだぜ? っていうか、俺にも茶くれ」

「自分のところから持ってきてください……正常が少数派の時点で僕の心は絶望感だらけだったよ」

「……そりゃ、悪かったな」


 想像できたのか目を伏せて謝ってくれた彼。そんな彼を慰めてから「そういえば暇だったの?」と質問する。


「あ? 神様なんて基本暇だよ」

「ああそうか……でさ、大黒」

「俺を呼びだした理由ってか?」

「そ。僕も暇だったんだけど寝るには早いしやることないし、やる元気もないから事件終息した報告も兼ねて大黒と話そうと思って」

「神様との会話を暇つぶしに使うお前も大概だよな……まぁお前らしいけどよ」


 どんな話するんだ? と自分で出したお茶を飲んでから訊いてきたので、「そっちはどう?」と無難に始めた。


「ん? 相変わらず毘沙門の従者が迷子になったり影が薄い組が何やら脱却しようとしていたりとあれこれやってるな。俺だってちゃんと自分で掃除してるし」

「続くようになったじゃん。偉い偉い」

「…………。で、お前はあれから何してたんだよ?」

「昔の狂気を加速させて身内の心折ってから引き籠ってた」

「……あーそうか。お前確かに酷いバランスだよな。他者から見たら誰も見抜けないだろ。その狂気」

「ちょくちょく表に出てるけど気付いてる人がいるかどうか怪しいんだよねー。僕ってそんなに狂ってるように見えない?」

「見えないな。お前の心理的プロテクト高過ぎて人間なら殆ど疑わないぞ」

「そっかー……いいことなのかな?」


 多分良いことなのに、気付かれないことに不安を覚える。この程度のこと(・・・・・・・)に気付かないのはどうなのだろうかと。大黒曰く「プロテクト高いから不可能に近い」らしいけど。

 というより気付かれて僕はどうする気なんだろうと自問自答する。


 …………受け入れてもらいたいのかな、本当の自分を。どちらも本当であるけれど。


 そんなところかなぁと首を傾げていると、「お、そういえば」と大黒が何か思い出したようなので「どうしたのさ」と質問する。


「いやな、他の神様に言われて思い出したんだけどよ。俺達、お前に加護というかご利益与えてなかったんだわ」

「え、いらない。今回の件それに近いもので酷い目にあったし」

「いや、確かにそうなんだろうが……即答は酷くないか!? 俺達泣くぞ!」

「でも正直加護だろうがご利益だろうが、僕にとってプラスになる気がしないんだよね」


 そこは直感だ。不確定要素ではあるけれど、自分にプラス作用が起こるとは考えにくい。ここまで色々とやってきた経験からの直感だから……そこそこ信じられそうだ。

 テーブルに体を預けてそんな結論を出したところ、彼は右手で自分の頭を押さえ「ったくお前は…」と悲しそうにつぶやいてからビシッと僕を指さしてこう叫んだ。


「いいか! 俺も忘れていたんだが、気に入った人間、しかもお前みたいに利用しようともしない、願掛け来る癖に願い事も叶える気がない、そういった面白い奴らに加護を与える! ……ま、お前はその中でも例外なんだがな!!」

「最後の方力強く言う必要ある?」

「うっさい! そこは勢いだ!!……ともかく! お前には恩もあるし、ちょっとした罪悪感もある。そのことを踏まえて実は用意してある!」

「受け取り拒否は?」

「出来ん!!」


 ……人生ってこんなものなんだよなと思い、短く息を吐く。もはや慣れだ。齢十五の僕がこんなに早く受け入れるのはこれを知っているからなのだろうか。嫌な人生だなぁ。自分の事なのに。

 自分で自分を傷つけてブルーになっていることに気付てないらしい大黒は、そのまま話を進めるために僕の目の前にストラップを置いた。


 僕が質問する前に彼は説明してくれた。


「こいつはあれだ! お守りの強化版だ! 具体的に言うなら金運が上がり、厄も払ってくれるぞ!」

「別に今僕自身お金がたくさん欲しいわけじゃないしなぁ……」

「相変わらず欲がないというかいつも通り冷静というか……というか厄払いには触れないのか」

「期待はしてないから」

「…………。他に言うなら、俺達以外の奴らがお前に会いに来やすくなる」

「ほらぁ、やっぱり厄払いの意味ないじゃん!」

「うっせ! お前のことになると他の奴らも興味津々なんだよ!! 恨むならあの日俺のところに来たお前自身を恨め!!」

「うっ……って、それ自分で厄介者ですって言ってるようなものじゃ」

「他にもあるぞ! なんとそれを携帯電話に着けることによって俺達との通信機器にもなる!! お守りでの通信も可能だが、そっちの方がより自然だろ?」

「遮ったところで誤魔化されないけど……まぁいいや」

「ちなみに遭遇した神様の連絡先が自動追加される機能付き」

「それ、いる?」


 最後の機能に内心で首を傾げながら呟いた僕は、自分の現状を冷静に鑑みて呟いた。


「神様と話せる一般人ってさ、普通に考えたらおかしいよね」

「霊能力者とかいるし、稀にいるぜ、魔法も超能力も超常現象を引き起こせるものを身に宿していなくても俺達を見ることが出来る奴。連みたいに話しかけて仲良くなって、一緒に遊ぶなんてのはここ数百年で一人いるかいないかだし」

「そもそも神様と一緒に遊ぶなんて発想するわけないでしょ普通。それに、あれはそっちが誘ってきたからじゃん……って、うわぁぁ!」


 そういってから不意に時計を見て十時を過ぎていたので慌てて飛び起きる。

 風呂入って寝ないと! だいぶ話し込んじゃった!!

 僕は慌ててお茶を一気に飲み干してからキッチンへ向かい、「大黒ありがとうね、話に付き合ってくれて!」と言って湯呑を洗って片付けてから急いで自分の部屋へ戻る。


 そんなてんぱった行動の中冷静だったらしい大黒は「ああ、近日中に知り合い来るから。それと、詫びに一つだけ情報。犯人、海岸に打ちあがるぞ」とかなんとか言っていた。


 僕は慌ててそれどころじゃなかったけど。

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