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人、それを

 翌日。いつも通りに目が覚めた僕は朝食の時間にはまだ早いことに気付いたけど二度寝する気にもなれなかったので、着替えてから時間まで何してようかなと天井を眺めながらぼんやり考える。


 姉さんは爆睡中。深酒の影響かもしれないけど、朝食の時間になったら無理矢理にでも起こすことにしている。

 それから……なんてこれからの予定を天井を見ながら考えていたところ、昨日レミリアさんに集合時間と場所を伝えてなかったことを思い出した。向こうからそれについて連絡があるかなとフェリアに訊いてみたところ、それもなし。


 朝食の時に会えなかったらメールするしかないか。自分の失態にため息をついてこれ以上この場にいるのも暇なので、コーヒーを飲みにロビーへ降りることにした。



 ロビーに着いたら『シューナ』さんが売店で買ったのか新聞を読んでいた。昨日会った時の雰囲気とは違うのが見て取れ、やっぱり芸能人なんだなと再確認した……失礼だと思うけど。


 声をかけるべきかなと迷いながら自販機の方に近づいたところ、「おはようございます、池田君」と横から声をかけられた。

 声の主はすぐに分かった。


「おはようございます、『カラス』さん。お先にどうぞ」

「そうですか。それなら遠慮なく」


 彼はお金を入れてからボタンを二回押した。

 ? と首を捻ると、「コーヒーで大丈夫ですか?」と差し出されたので、少し悩んでから「ありがとうございます」と受け取ることにした。熱いところからするにホットで買ったようだ。


どうしてこんなことをしてくれるのだろうかと思いながらプルタブを開けると、「いやはや、昨晩彼との会話を聞いていましたが、その人心掌握術は恐怖を抱くレベルですなぁ」と言われたので思わず固まる。


 ……別に聞かれていることが問題じゃないんだけど。場所が場所なだけに内緒の会話をしていたわけでもないから。


 ではなぜ固まったのかというと、俳優としての顔と情報屋としての顔を共生させているこの人から「怖い」と褒めているのか貶しているのか分からない評価をされたから。


 二秒ぐらい固まってからプルタブを戻し、缶に口をつけてコーヒーをすすって「恐れ多いですね、そんな評価は」と言っておく。


「嬉しくないのですか?」

「嬉しさよりは警戒心が強いので」

「……なるほど。臆病ともとれる発言ですが、その意図は読み切れなさそうです」


 そういって大袈裟に肩を竦める。横目に見てから視線を『シューナ』さんがいた方へ向けると、真剣な表情で今度は携帯電話をのぞき込んでいた。


「彼女が気になりますかな?」

「……まぁ。なぜかよく絡んできましたから」

「不安ですか」

「それもあると思いますよ」


 特に開示したわけじゃないけど成立する会話。あまりにもとんとん拍子で進むのが、逆に新鮮に感じる。

 何気なく時計を見たところ、そろそろ朝食の時間だった。

 姉さん起こさないと面倒だなぁと思いながらコーヒーを飲んでから「僕はそろそろ朝食へ行きたいのでこれで。コーヒーはありがとうございました」と残っている缶を持ちながらお礼を述べてエレベーターへ向かった。



 飲み終わった缶を部屋のごみ箱に捨ててから姉さんを無理矢理にでも叩き起こす。ものすごく嫌がっていたし頭を押さえていたようだけど、自業自得なので加味しない。朝食いるのかどうかを聞かないといけないからね。


 そして聞いてみたところ……


「……まだ要らないわ」


 と言われた。どうやら飲みすぎとかによる食欲不振らしい。こんな姿初めて見る。悪酔いでもしたのだろうか。

 少し心配だったけど、まぁこれぐらい慣れているんだろうと切り替えた僕は「なら一人で食べてくるね。鍵は持ったままで大丈夫?」と訊いてみる。


「……そうね。お風呂に入ったり、着替えたりしかしないと思うから大丈夫よ」

「あっそ。勿体無い」

「まだ食べれるから……ね」


 時間が早いし、そりゃそうか。

 納得できたので「お大事に」と言って部屋を出て鍵をかけることにした。


 ……あ。レミリアさん泊まってるのか訊けばよかった。



 移動中にレミリアさんのマネージャーに質問したところ泊まっているというのことなので、ひょっとするとメールで連絡しなくて良いかも知れない。まぁ朝食の時間に幅があるので確率は結構低いだろうけど。


 この時間に起きている人どのぐらいいるんだろう。すれ違うことのない廊下を歩きながら考える。


 僕みたいに習慣づいている人、仕事の人、寝れなかった人……候補として考えられるのはこのぐらいかなと益のない予想を立てつつ歩きながら、すれ違う人の少なさに思わず苦笑する。どうやら今日はそこまで忙しくない様だ全体的に。


 そうじゃなきゃレミリアさんの誕生日会なんて前日にやれないのかなと思いながら食事する場所に到着。どうやら昨日パーティを行っていた場所のようだ。

 自分のチケットを渡して室内を見渡す。流石に昨日騒いだからか、この時間帯に起きている人というのが珍しい部類に見えてしまう。要するに、食べている人がいない。


 これはレミリアさんにメールだね。現状で直接会うことが望み薄なので考えた僕は、朝食を済ませてから送ることにした。




 午前九時ホテル前。チェックアウトの流れで一番近いのがここだったから指定した。

 現在八時五十分。姉さんは朝食を食べ終えたころじゃないだろうか。支払いは向こうが持つというので自分の荷物をまとめて指定した場所にいた。


 レミリアさんから特に返事はないけど、見てはいるだろうから待っていれば来るだろう。そう考えて大人しく待っていると、『お電話ですご主人様!』とイヤホンから聞こえた。


 誰からだろうと思いながら相手を確認したところレミリアさんだった。


『お、おはようございます!』

「うんおはよう」

『あの、先程メールを見たので少々遅れます! 申し訳ございません!!』


 ……十分前に遅れるという連絡をするなんて社会人として当然なんだろうか?

 数分前ならわかる気がするけど。内心で首を傾げていると思考を読んだのかシルフがツッコミを入れてきた。


『女性の準備に時間がかかるのは常識では?』

『論点が変わってる気がするけどそれ』


 心の中でそう反論してから「まぁいいよ。焦らないで」と言って電話をすぐに切る。向こうが遅れるかもしれないと言ってるのだから長電話なんて迷惑だしね。


「つまりまた待つってことか……」


 奇異な目で見られること確実だなぁ。



「お、お待たせしてすみません……」


 九時十分。前もって連絡を受けたけど流石にこれは怒っていいんじゃないだろうかと思ったりもするけど、こうなった要因の一端がこちらにもあるので膝に手をついて息を整えている彼女を見ずにため息をついてから「悪いんだけど、レミリアさんが借りてる部屋に荷物置かせてくれない?」と頼む。


「…………………………え?」

「駄目ならコインロッカー借りるけど」

「え、ええっと。その、ですね、頭の中が混乱してるのですが、一つ聞いてもいいですか?」

「一方的に悪いわけじゃないからね今回は。で、レミリアさんが借りてる部屋に荷物置いて良いの?」

「そ、それはその……部屋が散らかっているのでちょっと」

「玄関付近でいいんだけど」


 たかが荷物を置くだけなのに中まで入る必要ないと思うんだけど普通。不思議そうに聞いてみたところ、彼女は「まぁ、それでしたら」と了承してくれた。


「じゃぁ早く行こうか。明日僕は学校だから」

「あ、そうでしたね」


 どうやら切り替えてくれたようなので、地面に置いていた荷物を担いでレミリアさんと一緒に歩きだした。

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